表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/19

14 オアシス

 湧き水が豊富な小さなオアシスの湖畔は、まるで海岸のような砂浜が整備されており、温暖な気候も手伝って、行き交う人々も肌の露出が多い軽装であれば、南国ビーチリゾートの様相だった。


「なに、あの人たちの場違いな格好」

「よしなよ、ここが何処か知らない田舎者なんだよ」


 オアシスに給水と食材調達に立寄った俺たちの服装は野暮ったく、湖畔の砂浜で観光している連中には、田舎者だと冷ややかな目を向けられる。

 俺たちの領地の外れにある小さなオアシスは、隣国からの観光収入を目的に、大規模リゾート開発されたオアシスだった。

 そう考えて周囲を見渡せば、砂浜にはビーチパラソルやデッキチェアが並んでおり、湖畔を取り囲むように建てられたホテル、カジノ、おしゃれなカフェ。

 ほとんどの観光客が御者や下働きを従えた金持ちで、自前の馬車で乗り付けた貧乏臭い旅人は、俺たちくらいなものだった。


「こちとらッ、街育ちのちゃきちゃきの街っ子だ! こんな辺鄙なオアシスで遊ぶ観光客に、田舎者だと見下される筋合いはないぜ」

「カールは、変なところにこだわりますね。水と食料の買い出しが済んだら、すぐに鉱山都市に向かうんだろう?」

「狩暮らしのリリエッティには、街っ子が田舎者扱いされる理不尽がわかるまい」

「私を馬鹿にするのはともかく、いろいろな方面から怒られるぞ」

「俺が、どこの方面から怒られるんだ? 深いの森のリリシカさんよ!」

「そっち方面だ!」


 リリンに殴られた俺は『しかし理不尽だ』と、たんこぶを撫でながら捨て台詞を吐いた。

 以前の俺だったら、馬鹿にした観光客を恨みがましい目で見ても、それを口に出さずに飲み込んでいただろう。

 自分の感情を隠さなくなったのは、下宿の婆さんに言われて、旅に出たことの大きな変化かもしれない。

 それに観光客の言葉に苛ついた本当の理由は、俺が甲斐性なしのせいで、リリンたちまで小馬鹿にされたことだった。


「お兄ちゃん、私も買い物に行っても良い?」

「コロネが、手伝いを買ってでるとは珍しいな」

「ほら、おやつも買うでしょう」

「なるほど、お菓子が目当てか」


 コロネは、ミアとリリンに頼んだ食材調達について行きたいと、馬車を引く二頭の馬に、水と餌をやっていた俺に申し出た。

 食材調達ついでに無駄遣いしようとの魂胆は見え透いていたが、遊びたい盛りの彼女たちに、俺に付き合わせて倹約生活を強いてもかわいそうだ。

 俺を追いかけて街を出たコロネ、生まれ故郷のエルフ村を飛び出したリリン、自由の身になったミアだって、一度くらい好き勝手したいだろう。


「俺が馬の面倒を見ているから、お前たちは買い物が終わったら、ここに戻ってこい」

「わかりました、ご主人様」


 俺は食材調達に出かけるミアたちに、多めの金を渡すと、リゾート地に似合う服装と水着、それに見劣りのしない部屋を予約するように伝えた。


「ご主人様、一泊の滞在であれば、わざわざ服を買い揃えて観光客と見栄を張り合わなくても良いです。それに馬車で過ごせば、宿代も節約できます」

「いいや。俺にはコツコツ貯めた蓄財もあれば、ミアの支度金にブンダタからもらった金貨もある。ミアたちまで田舎者扱いされたままでは、おっさんにも申し訳ない」

「ですが、ご主人様――」

「せっかくリゾート地に来たんだから、おっさんの金で好きな服や水着を買ってこい。俺は、お前たちを楽しませてやろうと言うんだ」

「はい、ご主人様!」

「わかったら、日の高いうちに湖で遊ぼうぜ」


 俺から受け取った革袋を手にした三人の少女が、どの店で何を買うのか相談しながら、商店に向かって歩いている。

 彼女たちの背中を手を振って見送った俺は、胸当てとシャツを脱ぎ捨てて、上半身裸になると色眼鏡をかけた。

 口笛を吹きながら手頃なデッキチェアに腰掛けると、一足先にリゾート気分に浸りながら、俺を馬鹿にした観光客に視線を送る。

 たまには、一緒に旅する三人の少女に贅沢をさせてやりたい。

 その言葉に嘘はないものの、俺だって、たまには美少女との旅を満喫したいのも、これまた人情である。


「ふふふ。俺を田舎者扱いした連中には、着飾った美少女を侍らせて見返してやるぜ。リリンは顔だけでなく、あれでけっこうなおっぱいだし、コロネも身内贔屓を除いても、酒場で看板娘を張る腰のくびれた美少女だ。そして普段はガードの固いミアが、どんな水着で現れるのやら……、乞うご期待!」


 俺の希望としては、手足がすらりと長く、それでいてメリハリの効いたリリンは、際どい紐ビキニを購入してこい。

 身内のコロネには、露出を控えたワンピースに留めてほしいが、ここはあえて腰のくびれを堪能できるセパレートのタンキニで、その成長をお兄ちゃんに見せてほしい。

 問題は、服の上からでもわかってしまう幼児体形のミアには、どんな水着が似合うのか。

 ミアには、小等学校のプールの授業で女子が着ていた濃紺のワンピースで、胸の辺りに名前の書かれた水着が、最も似合うと思うのだが、そんな水着がリゾート地の商店で入手できるはずがなければ、俺の妄想に留めておこう。

 ミアはオフショルダーのワンピースで――


 いいや、待てよ。


 ミアが体形の目立たない服を着ている理由は、じつは脱いだら凄いみたいな、有り体に言えば、恥ずかし過ぎるわがままボディなのかもしれない。

 ミアが服装で隠さなければならないほどの体形、恥ずかし過ぎるわがままボディとは、いったいどんなわがままボディなんだ。

 気になる。

 気になってしかない。

 あいつら、どんな水着を買ってくるんだ。


「くそッ、俺のリクエストをそれとなく伝えておけば良かった!」


 叫んだ俺がデッキチェアから立ち上がれば、顔を覗き込んでいた日傘の少女が、声に驚いて砂浜に尻もちをついた。


「きゃっ」

「あ、脅かしてすまん」

「いいえ、私こそ顔を覗いたりして、ごめんなさい」


 少女の手を引いて起こせば、肘まである白い手袋、ふんわり広がった長いドレススカート、手にしている日傘も刺繍が施されており、他の観光客とは一線に画したお嬢様だった。

 長い巻髪のお嬢様には見覚えがないものの、デッキチェアに寝転んだ俺の顔を見ていたと言うなら、何処かで面識があるのだろうか。


「失礼ですが、俺の顔に見覚えでも?」

「いいえ。あなたの顔には見覚えがないのですが、こちらには見覚えがありまして……、こちらです」


 頬を染めたお嬢様が、起き上がった俺の下半身を指差している。


「え、ちんこ?」

「いいえ。もっと長くて立派な、あなたが腰に下げているロングソードです」


 ボケ殺しだと。

 俺の下半身を指差しているお嬢様は、俺のセクハラ級のボケに臆する様子がない。

 体を張ったギャグなのに、育ちの良さそうなお嬢様には通用せず、見事にスルーされた。


「どうかなさいました?」

「いや……、渾身のギャグが、真顔で返されたので思考停止中だ」

「あら、今のはギャグでしたの? せっかくボケたのに、反応せずにごめんなさい」

「完全にスベったよっ、しかも謝られた!」

「ごめんなさい、もう一度ボケてくださいませんか? 次は、ちゃんとツッコミますわ」

「悪いのは、つまらんボケをした俺の方だ……、すまん」

「いいえ、せっかくのボケをスルーした私のせいですわ。なんてお詫びすれば良いのかしら、ごめんなさい」

「いや、もう良いんだ」

「そういうわけにはいきせんわ。さあ、もう一度ボケてください」


 お嬢様が何度も頭を下げるので、俺は『これ以上は、もう勘弁してくれ!』と、両肩を手でがっしり掴んで彼女を止めた。

 ぜんぜん悪くないお嬢様が詫びれば詫びるほど、スベった俺が居た堪れなくなる。

 彼女と向き合った俺は、咳払いして凹んだ気を取り直した。


「で、こいつに何の用がある」

「こいつ?」

「だから、俺の腰にある長くて立派な――」

「ちんこに用はありませんわ」

「ちんこじゃない! ボケか? ボケているのか!」

「じゃあなんですの、あなたの腰にある太くて硬いものは?」

「この長剣に見覚えがあるって話だよ! 俺は今、お嬢様に試されているのか……。なぜ長くて立派から、太くて硬いに言い直した?」


 頭を抱えた俺が聞いても、お嬢様はノーリアクションだった。

 もしかして彼女は、一回スベった俺にチャンスを与えているつもりなのか。

 表情に乏しくて、真意がわかりづらい。


「あ、はいはい。そのロングソードをお持ちのあなたに、聞きたいことがあります」

「もうボケないのかよ……。まあ、話が先に進まないから、そこはボケないのが正解だけどな。で、俺に聞きたいこととは?」


 お嬢様は『そうでした』と、やっと話の本題に入るようだ。


「私の素性は明かせないのですが、さる高貴な家柄の者です。ここには護衛の者と来たのですが、物珍しい町並みに目を奪われているうちに、連れの者を見失ってしまったのです」


 自分を指して『高貴な家柄の者』と、恥ずかしげもなく言うくらいだから、よほどの高い身分のお嬢様なのだろう。

 しかし護衛とはぐれた件と、俺の長剣に見覚えがあるのが、いったいどう話が繋がるんだ。

 長剣の紋章に見覚えがあるのならば、バルバラ王家に所縁の者だと考えたのかもしれない。

 となると、お嬢様の身なりからして東方の貴族で、リゾート地のオアシスには、観光目的のお忍び旅行といったところだ。


「それで?」

「もしかしたら、あなたなら私が、どこに行けば連れの者と会えるのか、ご存知かと思ったのですわ」

「ご存知ない」

「ご存知ない……。でも私は、あなたがご存知ないと困りますわ。私が危険な目にあったら、あなたも困るでしょう?」


 なぜ? と聞き返したいところだが、聞いたところで、まともな答えが聞けるとも思えない。

 お付きの者がいないと、自分一人で何もできない世間知らずのお嬢様だ。

 俺が見ず知らずのお嬢様の連れを知るわけなければ、彼女が困ることで、なぜ俺も困るのか、全くが意味がわからない。

 会話がすれ違っているという次元ではなく、彼女の発想に脈絡がなさ過ぎる。

 観光客が水辺ではしゃぐ砂浜で、白い日傘にドレスを着た派手な巻髪のお嬢様は、見た目や身なりが目立っていた。

 護衛とやらが主人を探しているなら、そのうち、あちらさんから見つけてくれる。


「そこら辺りにいれば、連れの方から現れるだろう」

「それも、そうですわね」

「じゃあ、そういうことで」

「はい」


 お嬢様は開いた日傘を手渡すと、俺が座っていたデッキチェアに腰掛けた。

 もしかして連れの護衛が現れるまで、デッキチェアで寛ぐ自分に日傘をさせってことか。

 どうして会ったばかりの他人に、そこまで平然と頼れるのか、こいつの頭をかち割って中を見てみたい。


「あなた、何か飲み物をくださらない」

「カールだよ」

「あなたの名前?」

「素性はともかく、人を顎で使うなら名前くらい教えろよ」

「私の名前を教えたら、素性を教えるようなものよ? でも、それではカールも困るでしょうから、私はみんなから『ヒメ』と呼ばれているので、カールもそう呼んで良いわ」


 姫様だから『ヒメ』なのであり、それが彼女の隠すべき素性そのものじゃないのか。

 しかし深く詮索すれば、絶対に面倒な事に巻き込まれるので、これ以上は拘るのを止めよう。


「カール、私は体質的にお酒が飲めないのよ。飲み物は、ノンアルコールでお願いね」

「俺も体質的に悪酔いするから、酒は持ち歩いてないぜ」

「うん? あなたの話は聞いてないわよ」

「はいはい、仰せのままに」


 馬車に飲み物を取りに戻ったとき、すれ違う観光客が口々に騒いでいた。

 彼らは少し離れた砂浜に、遺体が流れ着いたと噂している。


「おい、向こうの浜で遺体が上がったらしいぞ」

「斬られた跡があるから溺死じゃなくて、誰かに殺されたな」

「ハーフメイルを着ているし、貴族の護衛だろう」

「じゃあ、まだ犯人はそこらにいるのか?」


 俺には、女難の相でもあるのか。

 ヒメが見失った護衛とやらが、誰かに殺されているなら、いつまで待っても迎えが来ない。

 そして護衛を斬り捨てた犯人の狙いがヒメだったとして、お忍び旅行に来ている東方の姫様が、俺たちの領内で暗殺なんてされたら、外交問題に発展しかねない。

 俺には関係ないが、姫様が暗殺されたら、ヒメに迎えが現れるまで留め置いた俺の責任も追求される。

 ヒメの言葉『私が危険な目にあったら、あなたも困るでしょう?』を思い返せば、全くそのとおりの展開だった。


「つい先日、女衒の集落で貴族を退けた同じパターンで、今は俺が追い込まれている? まてまて、このまま知らなかったことにして、ヒメを捨て置けば良いじゃないか。出会ったばかりで、素性だって語らないお嬢様のために、なんで俺が責任を感じねばならんのだ」


 それに殺されたハーフメイルの男が、ヒメとはぐれた護衛とは限らない。

 俺は物事を悪い方に考えがちなので、きっと取り越し苦労に終わるだろう。

 なんて考えながら、ヒメの待っているデッキチェアに戻るとき、沿道の植込みに、身を隠している怪しい男を見つけた。

 男は鼻まで覆った黒いスカーフで人相を隠しており、手には抜き身のナイフを持っている。


「あからさまな格好しやがって、これでは見過ごせないぜ」


 俺に救える者が目の前にいるなら、妥協をせずに手を差し伸べるのだ。

 ケルセフ神父の説教が脳裏を掠めると、長剣を握りしめて刃を鞘から浮かせる。

 剣は以前より軽く感じるものの、嘔吐きながら戦うのは難しい。


「うっ……、おえっぷ……、まだ無理か」


 俺が抜剣しかけた長剣を鞘に戻すと、植込みからヒメに近付く覆面の男は、殺気づいてナイフの切っ先を彼女に向けた。

 俺は植込みから出た男の背後から、こっそり追いかけると、そこにあった植木鉢を持ち上げて、暗殺者と思われる男の頭上に落下させる。


「ぐはッ……、まさか、他にも護衛がいたのか」

「俺は護衛ではない」

「無念」


 頭上から落ちてきた植木鉢で、大量出血した男が砂浜に倒れると、観光客の通報で集まってきた憲兵が彼を捕縛した。

 そして騒ぎの渦中、命を狙われていたヒメが姿を消しており、危うく俺まで捕まるところ、倒した男が先刻、浜に打ち上げられた護衛を殺した犯人だとわかり、事なきを得る。

 命を救ってもらったのに、礼の一つも告げずに逃げるとは、ヒメは失礼な奴だと思った。

 彼女がバルバラ王家の姫様ならば、こちらから問い質すこともあったが、天然ボケに聞いたところで、まともな答えが聞き出せそうもないか。

 旅の途中であれば、背負う荷物が増えるのは面倒でもある。

 しかし――


「なんだろう? 俺は人が斬れないのに、人の頭に植木鉢は落とせるんだな」


 剣で人を傷付けることと、植木鉢で傷付けることに違いがあるのだろうか。

 暗殺者を傷付けた手を見れば、そんな疑問が思い浮かぶのだから、トラウマを克服する日も近そうだ。

 そんなことを考えながら、憲兵の事情聴取を終えた俺が馬車まで戻ると、買い物を済ませた少女たちが、どうやら馬車の荷台で水着に着替えている最中だった。

 つまらない横槍が入ったものの、本日のメインイベントは彼女たちが着替えている水着、俺を小馬鹿にした観光客への意趣返し、そして目の保養である。


「お兄ちゃん、どう私の水着!」


 荷台の幌から出てきたコロネは、俺の予想したとおり白と水色の縦軸のタンキニだった。

 上はフリルに覆われたチューブトップに、下はビキニパンツをパレオで隠しており、最大の魅力であるヘソ出しの腰回りは、きゅっと引き締まって可愛らしい。

 さすが付き合いの長いコロネは、露出を抑えつつも、俺のツボを心得た水着を選んできた。


「どうなのよ、お兄ちゃん」

「とても似合っているよ」

「そうでしょう! 私は、お兄ちゃんの魂胆を把握しているからね。どうせ私たちを侍らせて、田舎者扱いした観光客に自慢したかったんでしよう」

「あは……、はは、ご承知でしたか」

「まあ、そんなことだろうとは思ったけれど、お兄ちゃんはスポンサーだし、私としては文句ないんだけどね」

「そうか、こいつめえ、高い高いしてやろう!」

「あーッ、い、いまは腰を触らないでっ、お兄ちゃんに腰を直に触られたら、わ、私は――」


 腰に手を当てて隠したコロネは『壊れちゃう』と、視線を逸しながら照れている。

 コロネだって年頃であれば、砂浜で高い高いではしゃぐのが照れ臭いのだろう。


「カール、私の水着も見てくれ」


 続いて荷台から降りてきたリリンは、こちらも俺の想像したまま若草色の紐ビキニで、エルフのわりに大きな胸が、上下左右に惜しげもなくはみ出している。

 リリンの水着は紐ビキニというより、大事な三ヶ所を小さな布で煽っただけのマイクロビキニではないか。


「さすがエロフ」

「だ、誰がエロフだ!」

「いや、だって色仕掛けにしても限度があるぜ。そんな直視できない破廉恥な水着を着られたら、男は逆に引くわ」

「ち、違うんだ、理由を聞いてくれ。私は無駄遣いしないように『店で一番、生地の少ない水着をくれ』と、店員に見繕ってもらった水着を、試着もせずに購入してしまった」

「リリンは、マイクロビキニは布地が少ないから安いと思ったのか? どこの田舎者だ」

「森のエルフ村から出たことないので、水着なんて買ったことも着たこともない。葉っぱを紐で括っただけの服が、高いわけないと思うだろう!」

「まあ、そんな勘違いも含めて可愛いぜ」

「な、慰めはいらん!」

「リリンには、とても似合っているから良いじゃないか」


 泣き出したリリンは『私は破廉恥水着の似合うエルフではない!』と、俺の胸をぐるぐるパンチで叩いている。

 頭を掻く俺が視線を下げれば、二つの果実が目の前で上下に揺れており、リリンのマイクロビキニは想像以上の破壊力があった。

 しかし魂胆を見抜いたコロネが、俺好みの水着を買ったのはわかるが、なぜリリンまで想像していたビキニを着ているのか。

 これは、もしかすると、いつも女で苦労する俺のために、神様が願い叶えてくれたのかもしれない。

 リリンのビキニ、コロネのタンキニとくれば、ミアのオフショルダーワンピースの水着も、きっと拝めるに違いない。


「ミアは、まだ出てこないのか」

「ご主人様……、お二人のような水着ではないので、お見せするのが恥ずかしいです」

「み、見せるのが恥ずかしい水着だと」

「ええ、子供ぽいと言いますか」


 オフショルダーワンピースは、確かにセパレートやビキニに比べれば幼いが、それでも普段、ボディラインのでない服で隠れている、ミアの恥ずかし過ぎるわがままボディが拝めるなら、この際、どんな水着でも構わない。


「ミアが見せないと言うなら、こちらから見てやる!」

「わ、わかりました」


 お預けを食らった犬が、餌を用意する主人を待ちわびて涎を流すように、俺は手のひらを上に向けて、だらしない顔で荷台を凝視している。


「ご主人様、ご覧ください!」


 荷台から出てきたミアは、胸に名前の書かれた濃紺のワンピース、いわゆる小学生のスクール水着だった。

 リゾート地の商店で、そんなマニアックな水着が売っているのか。


「ミアの水着は子供ぽいと言うか、それは子供の水着だ」

「お金がもったいないので、自前の水着で済ませてしまいました。小等学校の水着が、まだ着れますので……。ご主人様は、やっぱりリリン様のような水着を着てほしかったのですか? そういうことでしたら、今から買ってまいります」

「まて、その必要はない」

「必要はありませんか?」


 商店に向き直るミアの肩を捕まえた俺は、首を横に振ると、神様っているんだなと思った。


「では思う存分、ビーチリゾートを楽しむぞ!」


 何にせよ水着の美少女を侍らせた俺は、湖の砂浜で夕暮れまで遊ぶと、ミアが予約した宿屋で、リゾートドレスに着替えた彼女たちと豪華な夕食を食べる。

 彼女たちは食後、リゾートの夜を満喫したいと街に出かけると言うのだが、俺は遊び疲れていたし、昼間トラブルにも見舞われていたので、コロネの世話をリリンに任せて先に寝ることにした。

 俺が遠慮したのは、夜の街で事件現場から姿を消したヒメに出会えば、彼女たちを厄介事に巻込むと考えたからだ。

 ヒメがバルバラ王家の本物の身内ならば、俺と捨てられた長剣に所縁があり、それが大きなトラブルに発展するのが目に見えている。

 そして明日からの旅の英気を養った俺が、三人と別れて個室に戻るとき、そのヒメが一人の男を従えてドアの前に立っていた。


「カール、昼間は助けてくれて、ありがとうございました。少しお話があるのですが、お時間を頂いてよろしいでしょうか?」

「よろしくない……、と、言っても、俺には拒否権がないんだろう。ヒメのお願いは、形式的なものだからね」

「はい」


 忘れようと逃げたトラブルの方から、わざわざ俺のところにやってきたのである。

 俺は部屋のドアを開けると、廊下に立っていた二人を招き入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ