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12 武勇伝?

 俺は夜空が白む頃、オアシスの村を目前にして馬車を停める。

 ミアは俺と交代しながら夜通し手綱を捌いており、重い話を聞かされたコロネとリリンも、みんな疲れているだろうから、村に到着するまで仮眠することにした。


「こんな時間まで、くだらない話に付き合わせて悪かった。俺のことは、軽蔑してくれ」


 荷台で寝具を整えている三人は、それぞれ顔を見合わすと、御者台で落ち込んでいる俺を見て、肩をすくめている。

 過去を知った彼女たちが、俺を見限って出ていくならば、甘んじて受けようと思う。


「私は、お兄ちゃんのこと見損なったよ」

「そうだな。私も、どんな話を聞かされるのかと身構えたが、がっかりした」

「コロネ様、リリン様、ご主人様も男の子なので仕方ありません」


 なんだろう。

 俺の話は、確かにコロネに見損なわれても、リリンにがっかりされても当然の過去ではあるが、男の子だから仕方ないと、ミアに助け舟を出された意味がわからない。

 俺にとって壮絶な過去のトラウマ話を聞かせたのに、彼女たちの反応が薄い。

 いいや、薄いどころか興醒めしている。


「私が働いていた酒場でも、酔払いが『昔は悪かったんだぜ』とか自慢するのよ。酔払いのおっさんは、あれで女の子が口説けると考えているのかしら? お兄ちゃんも、酒場の酔払いと変わらないわね」


 俺の予想とは、別の意味で軽蔑された。


「コロネ、俺は自慢したわけじゃないよね」

「え、ただの武勇伝でしょう? しかも悪徳憲兵を演じていたってさ、もらった袖の下はポッケナイナイしているし、マジで見損なったわ」

「してないよっ、ポッケナイナイしてないよ! ちゃんと処理したからね」

「慌てちゃって、めっちゃ怪しい」


 コロネには酒場で武勇伝を語る酔払いと、同類に扱われている。

 そう言われてみれば、そう聞こえなくもない展開ではあったものの、俺の過去を語る上では、どのエピソードも避けて通れない実話なのだ。


「コロネとミアは気付きましたか? カールは身の上話に託けて、ラストシーンでチート級の剣術と魔法が使えると、わざわざ事詳細に語っていました」

「や、やめろ、そんな言い方されると、本当に武勇伝を語りたかったみたいじゃないか!」


 リリンはジト目になって御者台に身を乗り出すと、まるで言い訳で誤魔化そうとする子供を諌めるように、俺の鼻頭を人差し指で弾いた。


「いいえ。カールは、かなり自分の強さをアピールしていました。友人とのくだりでも強さを強調していますが、彼と剣の立ち会いをしたことないのに、よくも自分の方が強いと言い切れますね。人として恥ずかしくないのですか?」

「兄弟分のセオを殺めてから、剣が握れなくなったけど、俺が強かったのは事実だからしょうがない」

「死人に口なし、証拠がありません。しかもカールが倒したセオさんも、よく考えたら自爆ですよね?」

「そうだけど、勝手に飛び込んできたセオの自爆だけどね。俺が剣を抜こうとすれば、あのときの重さを思い出して腕が上がらなくなる。これは、嘘じゃないぜ」


 リリンは『わかっています』と、俺が剣を握れないのが、セオを殺めた自責の念にあるのは、理解したと言った。

 その上で彼女は――


「いつまでも、セオさんのせいにするのは良くない。強さに自負があったのなら、トラウマなんかに負けてはいけないわ。でしょう?」

「リリン……、まあ、おっしゃるとおりだな」


 じつはチート級に強い俺が、美少女を侍らせて馬車で旅をしているなんて、そんなベタな展開を聞かされては、リリンたちに呆れられるのも当たり前だ。

 過去を振り返れば、思い出補正で美化されているし、剣術と魔法の強さにも誇張がなかったと断言できない。

 と言うか、改めて思うと、人として本当に恥ずかしい話で、彼女たちの貴重な睡眠時間に奪ってしまった。


「ご主人様、私も良いですか」

「ミアも、俺に一言あるの?」

「はい」

「何なりとどうぞ」

「つらい思い出を話してくださり、ありがとうございました。たぶんコロネ様、リリン様も、そう思っています」


 ミアが言うと、布団に横になったコロネとリリンが、こちらを見ないで頷いている。

 彼女たちの優しさに気付けば、深刻な顔で武勇伝を語った虚栄心満載の自分が情けない。

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