第7話と語りたい
「なーちゃん、子猫さん、『ファンタジック ヒューマン』と『グッドイーター』どっちを観たいですか?」
「おい待て、帰って来て早々、何の話だ?」
「ぴーちゃん先輩にオススメして頂いた映画を二つほど購入してきました。どっちを観たいですか?」
「らら、それどっちも駄作」
「子猫は観たことあんのかよ…」
「そうなんですか?ぴーちゃん先輩のイチオシだったのですが」
「小鳥先輩のセンスってどっかおかしいからなぁ。ちなみに子猫、どんな映画なんだ?」
「らら、ネタバレしていい?」
「まぁ、ネタバレ程度私には大した影響ありませんが」
「『ファンタジック ヒューマン』は全身を植物に改造されて動けなくなった人間が、人類が滅ぶまで人間観察をするだけの世界一シュールなフルCG映画。
『グッドイーター』は実際に男が昆虫や魚の内臓のミンチをパンに挟んで必死に笑顔を作りながら食べ続ける飯テロの対義語とまで言われた18禁映画。こっちは一切CGを使ってない」
「なんだその検索してはいけない動画みたいな映画」
「面白そうですねなーちゃん。まずはグッドイーターから見ましょう」
「おい待て。私たちこれから昼飯食うよな?」
「はい。…あぁ、そういう事ですか。食堂のモニターを使って大画面で観たいんですね?」
「んなわけねーよ!どこの前衛的なダイエットだ!」
「食欲は失せて映画も楽しめる。一石二鳥?」
「子猫、さっき二つとも駄作っつったよな?」
「駄作には駄作なりの楽しみ方がある」
「最強がすぎるだろお前!」
「そんなに言うのでしたらファンタジック ヒューマンを観ますか?」
「モニターに流したとして誰が見るんだ?」
「開始数分の改造シーンは見応えあり」
「…残りの一時間以上はどうした」
「………盛大に爆ぜる」
「それ多分ラスト数分だよな?」
「究極の放置プレイ映画」
「それは視聴者か?それとも男の方か?」
「あ、なーちゃん、そんなに言うのでしたらこちらはいかがですか?『AV-アニマル ビデオ』」
「なんだそのジャンルみたいな名前」
「男女が性欲に身を任せ、獣の如く盛り狂う様をプロの俳優が演じた作品です」
「アダルトビデオじゃねぇか!ネーミングセンスやべぇなおい!」
「あ、でも15歳未満の人は見れないのでののちゃんやぴーちゃん先輩は観られませんね。残念ですがこれは私たちだけで観ましょう」
「なんでその内容で18禁じゃねぇの!?そしていつの時代の男子高校生だよ!」
「…らら、高校生って自慰見せ合うの?」
「さ、さぁ?でもきっとなーちゃんが言うのですからきっとそうなのでしょう。深く聞いてはいけませんよ?たとえなーちゃんにそのようなことをした過去があったとしても、それを聞かないのが真の良き友人というものです」
「深く聞けちゃんと聞け私はそんな現場を見たことも無ければ聞いたことも無いしオナ…自慰を見せるような趣味も無い!」
「そうなんですか?でも私は見たいので遠慮せずにして下さって構いませんよ?」
「らら、変態」
「子猫さん?私は蛹にはならなければ成虫にもなりませんよ?」
「そっちじゃない。えっちぃってこと」
「あぁ、そちらでしたか。子猫さんはどうですか?」
「蛹にもなれるし、成虫にもなれる」
「なるほど、変態ですね」
「いやつっこめよ。そして子猫、なんだその言ってやったぜみたいなニヤケ顔。もうすこし自分の顔の状態考えろ」
「片眼鏡って、両目に付けたらすごくかっこよさそうですよね」
「急にどうした脳みそでも蛹になったか?」
「いえ、中二的かっこよさを放つ片眼鏡を両目に付けたらかっこよさも二倍になるかなと。
そして私の脳は蛹のごとくドロドロビシャビシャです。割ってみますか?」
「何言ってんだ?蛹ってガッチガチだろ?」
「加奈、それ違う。外側は硬いけど、中は液体。外はカリカリ、中はトロトロ」
「まじ?つーかなんで美味しそうな表現を足した?」
「加奈なら美味しく調理出来るかなって」
「出来るだろうけどしたくねぇよ」
「なーちゃん、蛾の蛹のチャーハンなんてどうですか?」
「パラパラチャーハンにアクセントを足そうとしてんじゃねぇよ。餡掛けチャーハンパイでいいじゃねぇか」
「餡掛けチャーハンパイ、美味しそうですね。今日のお昼はそれにしましょう」
「らら、それ誰が作るの?」
「えと、ぴーちゃん先輩でしょうか?」
「小鳥、今日はおやすみ。本屋さんに行った日は部屋から出てこない」
「それは困りましたね。なーちゃん作ってくれません?」
「…まぁ、具材に文句言わねぇならいいけどよ」
「灯油の石油煮込みを完食した私です。パイ生地に電球を使う程度では動じませんよ」
「まて、お前の過去が気になりすぎる」
「ワイシャツとパーカーの衣服炒めは美味しかったですねー」
「まともな飯食ってきたんだよな!?」
「さすがに冗談です。アキレス腱のかき揚げなんて食べたことありませんよ」
「…それはどっちだ?」
「らら、三色眼球団子は美味しかったよ」
「…待ってろお前ら、私が世界最高のフルコースを今日の昼飯にしてやる!」
なーちゃんは立ち上がり、部屋から飛び出していきました。
「子猫さん。なーちゃんの扱い、見事な腕前です」
「ららこそ。二日目とは思えない腕前」
「誰ですか綾美加奈を調理場に立たせたのは!速やかに名乗り出なさい!って絶対獣、まさかあなたのしわざかしら!?」
ららと子猫が会話を再開してすぐのこと、開けっ放しにされたドアから一人の女子高生が駆け込んで怒鳴りあげる。
鋭い目付きに整った顔、セーラー服に黒髪ロング、ステンレス製の木刀(鉄刀?)、右腕には風紀委員と書かれた腕章が付けられている。
「…子猫さん、どなたですか?このいかにもアニメから転校してきましたみたいな風紀委員さん」
「私と同じ10年生。つまり創設期メンバー」
「ふむふむなるほど。
軍事系殺戮科10年生、平和のために全てを殺す正義の体現者、隔離高校を管理する組織、『委員会』の一人にして風紀委員長。名を小野塚 彩湖。
25歳独身、趣味はぬいぐるみ作りと料理。17歳から19歳にかけて中二病発症。ゴスロリに身を包み、手作りのグロテスクなうさぎのぬいぐるみを抱いて風紀委員としての活動を行った過去は最大級の逆鱗。
攻撃した対象のダメージを自在に操作できる異能をもち、核爆弾で死者を出さないことも、デコピンで殺すことも自由自在。
身体能力にもすぐれ、文字通り一騎当千の戦力として戦争に参加した経験から人に頼ることを苦手としている。
ところでそのセーラー服はコスプレですか?」
「ぶっ殺す!!」
「ちょ、なんですかいきなり。ここは学園異能バトルものアニメではありませんよ?確かになろう系主人公を自称したことはありますが冗談半分面白半分ですしそもそも私ってバトルキャラではありませんし貴女の可愛らしいピンク色のリボンが付いた白いパンツなんて見ていませんし大きな胸を締め付けるようなスポーツブラも見ていませんし黒髪ロングにはゴスロリよりもメイド服の方が似合いそうだなんて思ってもいません。ええ本当です。シミ一つない美肌を活かし水着撮影をさせて欲しいだなんて以ての外ですとも」
「ぶっっ殺す!!!」
彩湖はステンレス製の木刀をらら目掛けて振り下ろす。ららはすかさず手を前に出し、スライム状のなにかで木刀を押さえる。
「なんでららは煽るの?」
「ちょ、たんまですっ!流石にステンレスで叩かれたら頭が割れます!知ってますか人って死んだら死ぬんですよ!?」
「知るか死ね!!」
「ちょー!?子猫さん助けて下さい!なんですかこの不法侵入強盗殺人鬼さんは!25歳にもなってセーラー服なんて恥ずかしくないんですか!?」
「黙って静かに死ね!」
「断末魔も許してくれないんですか!?そんなあなたには夜眠る時延々と死者の嘆きが聞こえることでしょう!」
「全部殺す!」
「なんでこんなバーサーカーに風紀委員なんて任せたんですかね!現実に権力握った風紀委員なんて居ないんですよアニメと現実の区別をつけてください!」
「黙れ黙れ黙れぇぇええ!!」
「彩湖、うるさい」
ドスン、と子猫は彩湖をベッドに向けて蹴り飛ばす。
「邪魔をするな!」
「さすがは最強ですね。
とりあえず、女性を止めるならこれですよね」
ららは彩湖の身体を中心にロープを生成し、亀甲縛りにしたあと手錠、足枷を付ける。
「その手錠と足枷は10トンほどの重さです。あまり暴れると綺麗な肌に傷がつきますよ」
「な、縄を解け!下劣な!」
「…安らかに黙ってください。普段は優しい私でも、殺されそうになって怒らないほど温厚でも無ければ殺さないほど利口でもないのですよ」
「ひぃっ!」
「らら、目、怖い」
「お、ほんとですか?目つき悪い系ヒロイン目指せますかね」
「閲覧注意系ヒロインなら、ワンチャン?」
「とりあえずアニメに出られるようなヒロインにはなれなさそうですね」
「まずららがアニメと現実の区別を付けるべき」
「ブーメランが遠回りして帰ってきました」
「ブーメランは全体攻撃」
「子猫さん?なに…を…
なーちゃんに清姫さん、廊下で倒れてどうかしましたか?」
「清姫やめれ~ヤンデレじゃない~」
「金髪はキャラ作りじゃない…金髪はキャラ作りじゃない…」
「あっ、なーちゃん!チャーハンが散らかってるじゃないですか!」
「隠し味は…充電ケーブルのソース…」
「綾美加奈のチャーハン!?遅かった…か…」
「子猫さん、お昼ご飯にしましょうか。鶏としめじのクリーム煮なんてどうです?」
「らら、料理出来たの?」
「ずっと一人暮らしだったので。ぴーちゃん先輩程ではありませんがそれなりには出来ますよ」
「楽しみにしてる」
「何言ってるんですか?手伝って頂きますよ」
「料理、したことない」
「切ったり洗ったりだけですから大丈夫ですよ」
「がんばる」