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シティバトル4

 地下室のすぐ上。FS通りの55の空き家の一室にて。

 いつ終わるともなく、冷戦が繰り広げられていた。


「それでは」


 ローザの声がひときわ冷ややかに感じられる。


「どうあっても彼らをお引渡し願えぬと」

「できませんな」


 ローザの声に負けず劣らず冷ややかな声がする。

 先ほどマイクを押しとどめた私服の刑事だ。この件の責任者であるらしい。遠巻きに配下の警官が見ている。


「確か……情報部の方から警視総監の方へ 正 式 な 協力要請が出ていたと思いましたけど。あなた警察のかたじゃないの?」


 皮肉めいたローザの言葉のナイフを、刑事はかわして見せた。


「なんと言われようと犯罪者を 捕 獲 するのは我らが勤め。お引き取り願おう」


 動物みたいな言われようは、もしもヘルメス号クルーたちが聞いていたらいきり立っていただろう。その台詞は誇り高いローザのプライドに爪を立てて引っ掻いた。


「私にたて突く気?」

「たて突く? いや、われらは自分の使命を全うしているだけです」

「使命? 誰に対しての? 国家に対する使命なら私のために変更なさい。私はその国家に最も近い人間なのだから」


 それは傲慢ではなく単に段に事実だったが、刑事の薄い唇を歪めただけに終わった。


「虎の威を借る狐……いや、鉄条網に絡みつく薔薇か」

「!」

「薔薇なら燃やせばいいだけのこと……。お引き取り願おう」


 平然とする刑事の顔を睨みつけながら、ローザの血の気がスーッと引いていく。ギュッとかみしめた唇と、握りしめた拳が微かに震える。

 すっと席を立ったローザは、血の気を失った唇にそれでも笑みをたたえて言った。


「……後悔しましてよ」

「後悔?」


 ふんと鼻であしらわれ、お帰りはあちらと手で示され、ローザのプライドはズタズタになった。勢いよく背を向け家から出てきたローザのあとを、部下たちが追いすがってくる。


「少佐……」

「大丈夫よ。たかが1刑事が楯突いたぐらいで何が出来るものですか。すぐに無力化させてみせるわ」


 自分たちの上司が相変わらず美しいのにほっとした部下たちは、その耳にローザの声を聞いた。


「ヴェルドゥに連絡を。“あなたのターゲットはまだ生きている。会いたければすぐにいらっしゃい”ってね」


 少し調子を取り戻したのか、自信たっぷりの笑みを浮かべるとローザは傍らの部下に尋ねた。


「あの男が持っていた無線機があったわね。どこに行って?」

「ここです」


 無線機を手渡されるとスイッチを入れ耳に当てた。サーっという雑音の彼方にいるであろう相手に向かってローザはラブコールを送った。


「アロー? ヘルメス号の船長さん。まだ生きていて?」


 返事はなくただ雑音だけが帰ってきた。


「アロー?」

「……地獄の悪魔が門を閉ざしたままなんでな」


 ゆっくりと答える少し低めのかすれた声に、ローザは少し微笑んで見せた。


「天使は天国へ誘ってくれなかったの?」

「かったるいところは苦手なんだ。……オタクは誰だ。マリリン・モンローじゃねーようだが」

「あなただってケネディ大統領じゃないでしょう。“アレキスの黒薔薇”と人は呼んでるわ」

「バラ……棘のある花、か」


 ディアスはこっそり一人ごちた。


「直接要件に入らせていただくわよ。あなたの仲間を預かっているわ」

「……やっぱりトゲありだな」


 切り札を手に入れているローザは勝ち誇ったように言った。


「返してほしい?」

「慰謝料を上乗せしてくれるんなら」

「なら取りにいらっしゃいな。現金は運ぶのが面倒ですもの」

「なんなら銀行振込でもいいんだぜ?」

「……それから一人でいらっしゃいね。付き添いが一人就くことに慰謝料が減るるわよ 」

「逆に、大勢連れて行ってやろうか?」

「そのぶんお仲間の量が減るけど、それでいいなら」


 一瞬の間があり、少しボソボソと言うようにディアスの声が返ってきた。


「……ちなみに……100人ぐらいだとどれくらい残る」

「そうねぇ……頭が四つゴロゴロしてるくらいかしら」

「そういうことは早く言えよ……」


 突然ローザの周りが騒がしくなる。警官たち、部下たちが空を見上げながら何かを騒いでいる。

 バラバラという音が大きくなる。そして三つほどの点が大きくなり、軍用ヘリが3台になってこっちに来るのが見えてきた。


「俺たちが来る前にさ」


 ディアスの声を聞きながらローザは呆然としてヘリを眺めた。


「ま……さか……」


 ヘリは思ったよりも大きいものだった。あの責任者の刑事が扉から飛び出し、一瞬チラッとローザを見たがそのまま気も止めずにヘリに見入った。

 周りの2、30人の警官が次々に声を上げた。ヘリから何か布のようなものが、いや、パラシュートで降りてくる人々が次々と降下するのを見た。着陸地点は空き家のすぐ近く……ま上が目標らしい。


「け、警部殿! 降りてきます、降りてきます! どうしましょう!?」


 臨時雇いの警官というものがいるとしたらそうであろう警官たちが、おろおろとして責任者の刑事に聞いた。


「うろたえるな! とにかく相手の出方を見る。まだ相手の正体もわからんのだからな。手は出すんじゃない!」

「それではいけない! あれは、敵ですわ!」


 少し小馬鹿にした声をローザの声の中に聞き、警部は怒鳴った。


「口出しせんでいただこう! お宅は部外者だろ!」

「口出し?」


 鼻でふんと笑ってローザは言った。


「ろくに事態も見えない人に代わって申し上げてるだけですわ。私共を甘くみられては困りますわね」


 くるりと警官たちに背を向け、ローザは次々と降りてくるパラシュートたちに目を向けた。


「あれは人質の首領、マーキュリー・ディアスの作戦ですわ。この様子では警官たちをなぎ倒し、力ずくでも仲間を取り戻そうというところだけど……彼の趣味じゃないわね。多分、あれは撹乱だけ。本人はこの乱れを利用して単身潜入、ってところかしら」

「だ、誰が情報部の人間の言うことなど……」

「坊主、人の言うことは少しは聞いた方がいいぜ」


 首筋のひやりとした感触と後ろからの少し低めの声は、警部の声を詰まらせた。


「さもなけりゃ長生きできん」



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