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マン・ターゲット2

「お前のコーヒー飲むのは何ヶ月ぶりかね」

「さあ? とにかく学生の時以来ではあるかな。もういっぱいどうかい」

「いただきましょう」


 救護室では専属の医師と、多分ヘルメス号のクルーはあまり見たことがないであろう普段着のドクター アーサーがいた。

 ふたりは医大生時代の親友で、やっと暇のできたドクが、彼を訪ねに来たのだった。


「しかし、驚いたなあ」


と医師は言った。


「お前が船に乗ってるとはね。俺はてっきり、まだコロポロスで診療所を開いてるもんだとばっかり思っていたよ。なんでやめたんだ?」


 ドクはコーヒーを飲んで顔を上げた。


「コロポロスの診療所のあった所のさ、市長と一悶着あってね。辞めさせられるくらいならって辞めてきたんだ」

「……お前ってそういうやつだよ」


 呆れ顔でいう医師に、ドクはクスクスと笑ってみせた。


 その時。


 音を立てるような勢いでいきなりドアが開いた。



「きゅ、救護班の人いますか!」

「どうかしたのかね」


 医師が椅子から腰を浮かせると、その男は言った。


「展望室で怪我人なんです! 重症のようで……。こっちに連れてきますか?」

「いや、動かしちゃいかん。私がそっちに行こう。他のやつらは……多分食堂だろうな。放送で呼び出さなけりゃ……」

「じゃあ放送室に行ってきます!」


 そう言うとその男は走り去ってしまった。

 医師は手早く応急キットを取り出した。


「大変だな。手伝おうか?」


 ドクがそう申し出た。


「そうしてくれるとありがたい。なんせ他のやつらが……」

「仕方ないさ。食事どきだ」


 二人は小走りで部屋を出て展望室へ向かった。彼らがドアから5、6 M 離れた時だった。


 後ろから電動車のエンジン音が聞こえた。


 船に荷物でも運ぶのか? でもなんでこんなところを通るのだろう、と思い後ろを見ると。


「逃げろアーサー!」


 後ろに肉薄していたのは荷物をいっぱいに載せたリフト用の電動車だ。

 それはドクに近づくに従ってますますスピードを上げた。ドクはあまりのことに足が動かない。


「馬鹿! ひかれるぞ!」


 医師はドクの腕を掴んで走り出し、それにつられてドクも走り出した。


「おいおいおいおい、運転手! 人がいるんだ! スピード落とせ! 止まれ!」


 そういう医師の言葉に反し、却って車はスピードを上げた。


“……殺される!?”


 ドクはそう思った。

 医師と違ってドクはヘルメス号に乗っているせいか、時々こういう目にあうので理解が早かったのかもしれない。

 走るうちに十字路が近づいてきた。車は後ろから迫ってくる。


「二手に分かれよう。助かるかもしれない」


 医師はドクが何を言ってるのかよく分かっていないようだったが、その言葉に緊迫したものを感じたのか頷いた。

 十字路で医師は右に、ドクは左に曲がった。すると車ははスピードを落とさないまま曲がった……左へ。


「アーサー!!』


 医師の声と近づくエンジン音で、ドクは車が自分の方に向かってきたことを知った。


「……まさかこんなところで体力測定をやらされるとはね」


 そう言いながら目でどこかにドアや通路がないかと探すドク。

 車は迫ってくる。

 ドアも通路もなかった。ドクが見つけ出したのはただ5 M ほど先にある行き止まりの壁だった。

 車は迫ってくる。

 ドクは二、三回壁に体当たりしたがどうなるものでもなく、絶望的に迫ってくる車に目を移した。

 車はますますスピードを上げる。


 いきなりドクは上を見た。そこには剥き出しになった水道管があった。太さもそれほど細くない。

 一か八か。車は迫ってくる。


 ……飛んだ!


 火事場の馬鹿力とはこういうことを言うのだろう。ドクは水道管に飛びつき、車に乗せた荷物の上を乗り越えた。

 一瞬、車に乗った男が唖然とした表情でドクを見た顔が見えたような気がした。……あの医師を呼びに来た男だった。

 それが見えたのも一瞬のこと。

 次の瞬間、大きな音がしたかと思うと、車は壁に突っ込んでいた。しかも積んでいた荷物は全て崩れた……運転手の上に。


 有り得ない光景にドクは全身の力が抜け、床に落っこちてきた。


「おい、アーサー! 大丈夫か!?」

「あ……すまない……」


 ドクは荒い息をしながら、医師を見て言った。


「また一人、怪我人が、増えた……」


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