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逮捕4

 つくづく刑事というのは大変な職業である。

 上役の言うことはハイハイと聞かなくちゃならないし、住民等の苦情をいっぺんに引き受けなくちゃならない。

 マイクについていった人たちが前者ならば、キャップ等に押しかけられた方は後者であろう。


 受付の机が叩かれ、ものすごい音を立てた。


「いいですか!? よく聞いてくださいよ!?」

「はいはい。聞いてるから、もう少しトーンを下げたら……」

「聞いていらっしゃるのならなぜマイクを釈放しないんですか!!」


 周りの刑事たちが騒音の元凶をじろじろ見ている。それを気にせず本人は机を叩きながら署長らしい人物に談判している。その周りをその仲間らしい人間が二人、知らん顔して立っている。

 見かねた刑事の一人が、立っている二人のうちの髭の生えた貫禄のある方に声をかけた。


「……ディアスくん。船長なんだろう? 君からもう少し落ち着いて話すように、彼に言ってくれんかね」

「うるさいか?」

「うるさいとも。何とかしてくれよ」

「そっちから言えばいいだろう。どうぞ? 俺は構わんぜ?」

「こっちから言ったって聞きそうにないから、君に言っとるんじゃないか」

「そっちから言って聞かねえんなら、かえって俺のは聞きゃしねーよ」

「そんな無責任な……」


 ……と言ってる間にも、ドクは喋り続けていた。


「いいですか? 

私たちは真っ当に商売をするごく普通の商人なんですよ? それをこんなとこへ呼び出した上に免許を提示したにも関わらず帰そうとしないのはまだしも、マイクにさえ会わせようとしないのはどういう考えあってのことなんですか!? 

あなたがたも警察官なら、もっと他の人々のためになることをなさったらいかがなんです! 無実の人間をいじめて喜ぶくらい、そこらのチンピラでもやりますよ! どうせなら巨悪の罪を暴いてギャフンと言わすぐらいの事はなさったらどうなんですか! それともすでにそいつらの手先にでもなっているんですか!?

いいですか? もう一度言いますよ? 罪の晴れた以上は今すぐ、ここにマイクを連れてきて自由にしてください。いいですね!?」


 ドクの迫力に署長はしばらくの間声が出せなかったようだ。2、3回口をパクパクさせて、やっと出た言葉が。


「君ぃ……。少し落ち着きたまえ……」


 ……だった。

 自分の意見に対する言葉を期待していたドクは一瞬拍子抜けしたような気分になったが、すぐにまた攻撃を開始しようとした。そのドクを後ろへ押しやり、一歩前でたのはアレックスだった。


「ねえ、しょっちょーさん」


 机の端に腰掛けてアレックスは続けた。


「この地方のマスコミは警察が随分好きみたいだねー。ちょっと見ただけでも汚職、強盗犯人、殺人犯ってのもいたっけなー。ただ犯人役ばかりだけどさ。

そうそう、大きなのでは旅行会社の“楽ルート”から株をもらったってのもあったっけ。

この上に無実の人間を逮捕した上に監禁したなんでマスコミが知ったら、どんなに喜ぶだろうねー。楽しみだなー」

「ま、待て。脅迫のつもりなのか?」


 慌て始めた署長にディアスが言った。


「署長さんよ。これが最終通告だ。今すぐ俺達とマイクロフトを自由にしろ。そうじゃねえとあんたが困ることになる」

「困る?」


 警察の威信と見栄で精神の再建を果たした所長はそう言った。


「どう困るというのかね?」


 ディアスは眉を顰めて舌打ちをした。


「てんで信じてねえな……。いいか今すぐ俺らを自由にしろ。まだ今ならあんたの面目も……」


 キャップの言葉はヴィジホンのベルで中断された。

 署長の視線はキャプ達とヴィジホンの間を行き来した後、受話器を取り上げた。画面はドク達の方からは見えなかったが、署長はその人物を見るやいなや緊張した面持ちとなった。


「これは法務大臣閣下、何かご用で? はい、何でしょう? ……はい、おりますが。はい、まだです。……え? なぜです? ……すぐですか?(ここでちらっとキャップたちを見た)しかし軍部の方から……。大蔵省? なぜここに大蔵省が? 商船協会?(ここでまたキャップ等の方を見る)は、は、はい。すぐ釈放いたします。ところでマイクロフト・モーリーとかいうものについては……。はい、そうします……」


 法務大臣との話を終えた署長が受話器を置くと、眉間に皺を寄せた疎ましそうな表情でキャップたちを見た。


「言わんこっちゃねぇ」


 少しもたじろぎもせずキャップは言ってのけた。


「あん時素直に聞いてりゃ、少しはあんたの面目も立ったろうにな」

「うるさい!」

「キャップ」


 怒鳴る所長など目もくれず、アレックスはそのままの姿勢でいった。


「協会から大蔵大臣経由で手ぇ回してくれたんだろ? 遊んでねえでさっさと帰ろうぜ?」

「駄目ですよ! まだマイクに会ってないんですから!」

「署長」


 ドクのセリフを受けてキャップは所長に言った。


「もちろん、うちの優秀なマネージャーも釈放だな?」

「できんよ」


 署長は言った。その途端、キャップたちが止めるのをものともせず、ドクが無言のままものすごい表情で署長に詰め寄った。


「とっとっと。少し待ってくれたまえ。それはわしだって命令には従いたい。だが無い袖は振れんのでね。嘘だと思うなら留置場を覗いてみるといい。なんなら警官つきで署内を全部見学してもらってもかまわんよ。だが、いない者はいないのだ」

「じゃあ、どこにいるってんだ」

「ゴルゴダだ」


 ドクはこの時の署長の表情が少し、何と言うか変なのに気付いた。恐れというよりは嫌悪かもしれない。ドクは、それは自分たちに向けられたものだと思ったのだが。


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