逮捕2
え? ローザは一瞬狼狽した。
まさか。そんなはずはないわ。私が今までに会った中でそんなことをする人はいなかったわ。……引っかけ、ね。やられるもんですか。
「あら」
ローザは余裕たっぷりに微笑んで見せた。
「ところによって違うものなんですのね。ここではルーペで含有率を調べる方法がとられてますの。何かの思い違いじゃありません?」
「そうですか」
かえってからっとした感じで、マイクは笑うと。
「いや、宇宙は広いものなんですね。値段はそれでいいと思います。貨物の受け渡しと代金の払込の方法ですが……」
ローザは内心ほっとした。どうやら信用させたようね。
「うちの家の者を取りにやらせますわ。代金はそちらの口座の方へ?」
ローザはにこやかに微笑みながら立ち上がり手を差し出した。
これで荷物を取った後、この男をヴェルドゥにくれてやればいいわ。獣を飼うのも餌代が大変ね。
華のようなかんばせにはそのような毒を含んだ考えは微塵も浮かんではいない。しかし、相手の台詞を聞いた時にそれは一変した。
「取りに来られる時には銃の携帯はお断りしますよ。今のような、ね」
ローザの顔は一瞬強張った。マイクはしてやったりという顔と、しまったという表情をごちゃまぜにしていた。
「な、何を……」
「……ですから」
もうごまかすのはやめたかのように、口から溢れるままにマイクは言った。
「もうやめましょうよ、会社ごっこは。ぼくだって買い手はほしいが、うさんくさいことに首を突っ込みたくないんです」
「胡散臭い?」
「ねぇ、ミズ ローザ。あなたは会社の部長と仰る。なら、なぜそんなブローチや指輪をなさってらっしゃるんです?
それは裏の世界の流出所で売っていたブローチ型の無線機と、電撃によって相手を倒すメカニズムを組み込んだ指輪でしょう。
知ってますよ。前にキャップが船の金で買いたいと言っていたやつだ。いったい誰にやるつもりだったのか知りませんけど。
それから壁に突っ立ってるこの方々。さっき気がついたんだが、5年前の全銀河格闘技大会で優勝した方々でしょう。あれからアレックス政府の情報部に買われたと聞きましたが、変わったところであったもんだ。
そしてこの部屋だ。客を接待するのにいい机と良いソファだが、花もなければ絵もない。突貫工事に特有な壁に塗った塗料。乾いているが、まだシンナー臭さが抜けていない。創業8年ですって? 模様替えでもしたんですか。
それから極めつけ。このビルには会社の看板はあるが郵便受けがない。さっき上がってる途中で見たんです。思うに僕をひっかけるために架空の会社を作ったのだと考えられます」
マイクは座ったままローズを見上げた。
「まだまだあげようと思えばいくらでもあげられますけど、まあ、こっちに実害はなかったですからね。警察には言いませんから、この話はなかったことにしてくれませんか?」
ローザは白くなった顔を引きつらせていた。
「……これまでのようね」
「へ?」
ローザが片手を上げると、それを合図に周りの男たちが襲いかかった。誰に? マイクに。
「なっ! なっなっ、なんなんです!」
いくらマイクでも力づくでは負けてしまう。たちまち組み伏せられた。
「密貿易の現行犯で逮捕なさい」
ローザの鋭い声が飛ぶ。
硬い金属音とともに冷たい鉄の感触をマイクは両手に感じた。
*
「どうだった?」
マイクが連れて行かれた後、ローザは隣の部屋に戻ってきた。声をかけてきたのはヴェルドゥだった。彼女はちらりと見ると、こう言ってのけた。
「最悪よ」
ヴェルドゥは何も言わなかった。
「……頭が良すぎるのよ。見破られるなんて……。無理やり連れて行かせたけど、あなたがうまくやらなきゃ墓穴を掘るわよ。計画が……この“黒バラのローザ”と呼ばれたこの私が、たかだか商船のマネージャーごときに……」
ローザはソファーに沈み込んだ。体の震えを止まらせられずに呟いた。
「何者よ……あいつ……」
「言っていただろう」
ヴェルドゥが言った。
「マイクロフト・モーリーだ」
*
逮捕された容疑は密貿易である。
品物が悪いというのではなく、商船としての免許を持たないのに貿易をやった、という疑いである。したがってキャップにも警察から出頭命令が下りた。
「無免許ぁ!? 冗談じゃねぇ。しかもうちの大事なマネージャーにいちゃもんつけるたぁ、やってくれるじゃねぇか。今に見ていやがれ」
司令室の椅子の上でその命令を受け取ったキャップは、だいぶイライラした口調でそう言うと立ち上がり、椅子にかけておいたスペースマンスーツの上着を肩にひっかけた。そして指をパチンと鳴らすと。
「おんぼろコンピューター! 商船協会に連絡だ! こちとら毎月の上がりはきちんと払ってんだからな! もしマイクを見殺しにする気ならこっちにも考えがあると言ってやれ!」
「らじゃー」
「アレック!」
声をかけられて、腰掛けていた機械から飛び降りたアレックスが言った。
「待ってました! 警察に喧嘩を売りに行くんすね!」
「俺はまだ何も言ってねえぞ」
そのセリフを受けるとアレックスは肘でキャップを小突いて。
「何を言ってんすか。キャップの考えることぐらい、俺が分からないとでも思ってたんすか」
「……喧嘩を売るのは最後の段階でだ。まずはいちゃもんぐらいで我慢しておけ」
「了ぉ解っ」
「私も行かせてください。いいえ、行きます」
行こうとする二人の前に立ちはだかったのはドクだった。いつになく顔が強張っているようだ。……こういう時のドクは、ちょっとまずい。
「ドクが行ったら誰がセラの面倒を見るんだ。なぁに、2アワーズでカタをつけるさ。心配すんな」
「いえ、お二人の心配はしていません」
ドクははっきりと言い切った。
「それよりも私はマイクに無実の罪を被せた人達に抗議をしたいのです。私たちはこのように不当な仕打ちを受けるいわれはないのですから 」
……いかん。ドクの後ろに正義の後光が差していやがる。
キャップは思った。確かにこいつは温厚でいいやつなんだが、筋金入りの正義感なのがイマイチ……。とにかく、こうなったらもう誰にも止められない。
「オーライ、分かったよ。一緒に来い」
「ありがとうございます!」
喜色満面といったふうで礼を言うドクにちょっと肩を竦めて苦笑した後、キャップはハワードに言った。
「じゃあ、ついでにセラの方も頼む。それからヘルメス号だ。奴らを一人たりとも入れるんじゃねーぞ」
「ワカリマシタ。オ気ヲ ツケテ」
こうして、ヘルメス号にはセラとハワードだけが残ることになった……これが後々の不幸につながる。




