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逮捕1

 シルレスは元々砂漠の星である。


 僅かに砂トカゲと砂魚、後は昆虫が住むくらいのなんにもない星であったのだ。

 しかしここにも開拓団が入り込み、現在シルレスは立派な商業都市として名を馳せている。全く、人間という動物は大したものである……。


「シルレスの歴史の講義なんざどーでもいーから、まず、分け前よこせっつうの」


 マイクは学術性の高い自分の講義をキャップの現実的な発言で邪魔され、ため息を吐いた。


「せっかく僕が珍しくロマンチックな考えにひたってたってのに……。分かりましたよ。じゃあ、ボーナス配りますよー」


 アレックスとキャップが歓声を上げる。どうせまた、酒場でのどんちゃん騒ぎに使うに違いないとわかってて金をやるってのも何か虚しいものがあるな。こっそりマイクはため息をついた。


 キャップの上機嫌な顔は、配られた封筒を覗いた時に曇った。


「……おい、マイク」

「なんです?」


 なぜか人の悪い笑いを浮かべて、マイクはキャップを見た。


「ちょっとこれは少なくねぇか? 命を張ってこれだけかよ」

「よーく見てくれたまえよ? 一枚紙が入ってるだろう?」


 確かに入っている。明細書と書かれた紙が。


「前借りで3000クレジット借りてたっけね? 引いた残りがそれだけなんだ」

「ひっ、ひっでぇー」

「あ。そうだ、そうだ。俺もキャップに1000クレジット貸してたんだっけ。もらっていきますぜ」

「アレックスもかよ!」


 ギャップはアレックスの持っていった1000クレジットを未練がましく見ていたが、不意にドクの方をじっと睨んだ。ドクは怯えたように笑った。


「あ……。私の方の1500クレジットはキャップの気の向いた時でいいですから」

「そうだよな! それでこそヘルメス号クルーの鏡だ。てめえらも少しはドクを見習ったらどうなんだ」

「馬鹿言うもんじゃないですよ」


 呆れたようにそう言うと、マイクは大金の入った封筒を持って出て行こうとした。


「ちょっと出かけてきますよ。出かけるなとは言いませんが、誰か一人はセラについてて行ってくださいね。まだ本調子じゃないんだから」

「あ! テメー、自分だけ大金ネコババするつもりだな!」


 あまりにも低次元のキャップの発言に、よろけそうになったマイクである。


「違いますよ、誰かさんじゃあるまいし! 商船保険の払い込みと、あと銀行の口座に入れて、それからトルトニウムの買い手を見つけなくちゃいけないでしょう。

本当はこういうことはキャンプに行って欲しいんですけどねー。誰かさんは遊んでばっかりやからなー。一度ストライキってのをやってみたいよなー。僕にこのごろ休みってあったっけかなー」

「わ、わりぃ、悪い。よっ! 凄腕マネージャー! ヘルメス号の大黒柱! ……アレックスも言えよ。こういうのは得意だろ? 持ち上げねえとてめえの方に回ってくるぞ」

「え? そうなんすか? この究極の美男子! 大宇宙の大天才!」

「……もういいですよ。行けばいいんでしょう、行けば」

「わかってるじゃねえか」


 キャップが開き直ったようにそういうのを聞いて、しみじみとマイクは思った。



“こんなの船長にしてよく20年も持ったもんだよなぁ”と。



 次の日、マイクはある会社へと赴いていた。

 商船協会シルレス支部に昨日問い合わせたところ、ちょうどトルトニウムの大口注文が来ていたのだ。ラッキーと言えなくもない話だ。


 実際、どうしてこんなに忙しいんだ。できれば他の人に代わってもらいたいもんだよな。

 しかし、ドクに商船の仕事がわかるわけもなく、ましてやキャップやアレックスではまとまる契約もまとまらない。

 結局、自分しかいないのだ。思わずマイクはため息をついた。


 応接室は広かった。しかも豪華だった。大会社ではあるようだ。

 それにしては会社の社員教育はなってないと思う。

 自分を迎えてここに連れてくるあいだの社員の無愛想なこと。どこか軍人臭さのある態度だった。

 退職軍人を使い始めてまだ日が経っていない? ……ちょっと無理があるな。

 主人のいない部屋でごつい男たちに囲まれて飲むコーヒーほどまずいものはない。なぜか殺気まで感じる。ここに美女でも出てきたら……。いかんいかん。これではディアスそのままじゃないか。


「お待たせいたしました」


 ドアの開く音を聞いて立ち上がったマイクは、入ってきた人物を見た瞬間驚いた。



「私、この会社の営業部長をしております、ローザ・マーシャルと申します。以後よろしくお願いいたしますわ」

「……こちらこそ。有限会社ヘルメス号マネージャー、マイクロフト・モーリーです。よろしく」

「変わったお名前ですのね。……どうかなさいましたの? どうぞお座りくださいな」

「いえ」


 座りながらマイクは言った。


「部長が女性の方とは知りませんでしたもので。おまけにこんな美人とは」


 確かに美人だった。

 少し歳は食っているが、かえって成熟した女性というイメージを抱かせる。大柄で、カールした黒髪が長く伸びてるのがその美しさを引き立てている。

 ……部長というより娼婦に近い気がする。社長に身を任せて部長の職をもらったのかもしれない。

 キャップには乗りこなせても、アレックスの手には余るだろうなと思った。そんなこと、今の自分には大して関係はないが。


「では商談に移りましょうか」


 そうマイクが言うと、相手が少し意外そうな顔をしたのマイクは見逃さなかった。他の奴らはもっとぼけーっとしてるんだろうか。しかし僕は商談に来てるので、デートしに来たわけではないからな。


「こちらの在庫は10ドンウェイトです。これは鉱石の重さでですがね。含有率の平均は約10%。極上品ですよ。これが在庫表で、こっちがサンプルです。ご覧になってください」


 ローザは在庫表を取り上げて一通り読んだ後、サンプルを取り上げた。ポケットから宝石鑑定家が使うルーペを取り出し、丹念に表面を見ていた。マイクはその行動をじっと見ていた。


「確かにそのようですわね」


 ルーペを外しサンプルを置いて、ローザが言った。


「値段の交渉に移りましょうか。こちらとしては1キロウェイトに100クレジットを考えておりますの。いかがでして?」

「いや、まったく素晴らしい方ですな」


 頭の片隅でほんの少しの後悔が過った。しかし今、自分が抱いている疑問を解決したいという欲求の方が強かった。

 それにもう、皮肉な調子で飛び出した言葉は口の中へは戻らなかった。


「僕もこの大宇宙を飛び回ってきましたが、宇宙広しといえどもトルトニウムの含有率を眺めただけで分かる方というのはあなたぐらいのものでした。僕があった人々はすべて、サンプルを少し削りシャーレに入れて溶液をかけて、発光した具合によって判断した方ばかりでしたよ。僕もそれが常識と思っていたが、あなたはそうじゃないらしい。よほどトルトニウムとの付き合いが長いと見える」



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