クーデター1
「ええええーっ!」
ドク達がセラが倒れた本当の理由を知ったのは、次の日キャップ等に会った時だった。
「知りませんでしたよ」
コーヒーの湯気を顎に当てながらマイクが言う。
「そんなこと、これっぽっちもセラは言ってくれないんですからね」
「俺も知らなかったぜ、そんなことがあったっつーのは」
キャップがくすねたワインを飲みながら言う。
「何が“ちょっとしたことで”だ。あいつはちょっとぐらい自慢した方が普通人並でいいんだ、全く」
「で、セラはどったの」
床に座り込んでいるアレックスが聞く。
「部屋で寝てますよ。安静第一ですからね」
ドクが言う。
「今、ハワードが面倒を見てます」
ここはフロンゲルの指令室。床に座って車座になっているヘルメス号クルーたちである。
ついさっきトルトニウム積み替え作業が終わり、今、座談会となっている所である。彼らにかかっちゃ、政府軍屈指の戦艦も形無しである。
「しっかしヴェルドゥねぇ……。あいつ、まだ生きてやがったのかよ」
そうキャップが呟くと、マイクも頷いた。
「こっちが今まで生きてるんだから、あちらさんが生きてても何の不思議も無いんだがね」
「おい。キャップ。マイク」
しびれを切らしたアレックスが呼びかけた。
「なんだ?」
「何二人で思い出に浸りこんじまってるんだよ。こっちにはてんでわからねーじゃねーか」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「言ってませんでしたよ」
ドクにまで言われたのなら本当に言ってなかったのに違いない。
「まぁ、平たく言えばだ」
キャップは言った。
「俺たちがぶっ潰した、二十数年前全盛を極めてた、ヘルメス号の元の持ち主の、海賊の親玉さ」
「俺達ですって? 人聞きの悪い……」
マイクが反論した。
「暴れまわってたのはキャップだけで、僕は何もしませんでしたよ」
「あ、ひっでぇ。俺にだけ擦りつけようってのか」
「とにかく昔のことですよ。僕とキャップがまだ“プロフ”“ディアス”で呼び合ってた頃のことですからね」
「……うまくごまかしやがったな」
「そうですか?」
「ってことは、そいつが20年かけて復讐しに来たっつーことなのかね」
アレックスが頬杖をついて言った。
「私にはとても真似できませんね、したくもないですが」
ドクがそう言うと、キャップはまた一杯ワインを流し込んだ。
「とにかくセラのお礼参りもあるしな。売られた喧嘩なら買ってやるさ」
「……なるほどね。それでよくわかったよ」
突然うんざりとした顔でマイクがいうのを、皆は不思議そうに眺めた。
「何が?」
「……キャップが喧嘩した後にくる請求書があんなにたくさんあるわけ」
「……あはははは」
「ごまかすんじゃない。“売られた喧嘩は買ってやる”なんてこと言ってるんなら、これから先も請求書が溜まりそうですね」
「……さて、これからのことなんだがな」
「……うまくごまかしましたね」
「良いお手本が目の前にいるんでね」
マイクにニヤッと笑って見せて、ディアスは話を続けた。
「トルトニウムをこのまま積んでいるわけにはいかねえよな。それで、アレキス星系シルレスで売ろうと思ってんだがね。
あそこはトルトニウムも高く売れるし、アレックス星系政府の都市だからトルちゃんもアラハン軍にゃ入ってこねえだろ。無論、ニルスを経由した三角貿易で入り込むのは責任持てないけどよ」
「へえ、キャップもちゃんと商売のことを考えていられるんですね……と、失敬」
「いいのいいの、ドク。ほんと、キャップにしちゃ上出来だよな。まるでどっかの商船の船長をみてえじゃねーか」
「……アレック、てめえヘルメス号が商船だっつうことを忘れてやがんな……。しかしまあ、俺が今まであんまり商売のこと考えてなかったっつーのも事実だしな。実のところシルレスで売るという考えは、ドリーマーズにいるジョンソンの親父さんから教えてもらったものだしな」
「どうりでね。いつものキャップに似合わないことを言うと思ったら」
「あぁ、マイクまでそんなふうに考えてたのかよ」
「真実です」
すました顔でコーヒーを飲むマイクに、ディアスは何か言いかけたがやめてそっぽを向いた。言論じゃあノックアウトされるって事は百も承知の上だしね。
視線の先のスクリーンには宇宙の星々が輝いていた。
「ヴェルドゥか……」
その呟きに応ずるようにマイクが言った。
「今頃どこにいるんでしょうね、ヴェルドゥ」
「俺が知るかよっ」




