秘密作戦は進む8
マイクとドクは急いでいた。
ステーションの廊下をつかつかと歩き、ステーション内の病院にやってきた時、入口の所にはエドマクがタバコを吸いながら立っていた。
「マクベインさん」
マイクが声をかけ、エドマクは二人に気づいた。
「おう、来たな。出航間際だったってな。悪かった」
「いいえ。それでセラは?」
「あぁ、こっちだ」
二人はエドマクについていった。
「セラが倒れたと言っていましたが、症状は?」
ドクが訪ねた。
「わしは専門家じゃないからよくは分からんが、とにかくえらく衰弱しとるらしい。今、点滴を打っとるそうだ」
「なぜ倒れたんでしょう」
「そんなこと、わしが知るかい」
マイクの問いに素っ気なく答えると、エドマクは一つの部屋に入った。
一つのベッドと医者と看護婦と一人の男がまず目に入った。そして次に、白い顔でベッドに横たわっているセラが。
「セラ!」
思わずドクはセラに駆け寄った。
「お知り合いの方で?」
男がマイクに尋ねた。
「はい、そうです」
「私、宇宙ステーションニルス駅警備部のシェーンコップというものです」
提示された手帳を確認すると、マイクは名刺を取り出して渡した。
「有限会社ヘルメス号マネージャーのマイクロフトモーリーです」
「あの有名な学者と同姓同名とは、変わったお名前ですな」
「よく言われます。で、セラが何か?」
「いえ、誘拐犯逮捕に協力してくださいましてね」
「誘拐犯」
そこでマイクは、ドアからは影になって気づかなかったが女の人が一人いることに気がついた。彼女は少しお辞儀をしてみせた。
「彼女が警備部に通報してくれましてね」
シェーンコップは言った。
「急いで現場に行った時には犯人は倒れて気を失っているし、彼は……彼女ですか、この人は?」
「どっちでもいいんです。性別というもののない人ですんでね」
「それじゃあ……彼がひどく衰弱して倒れていたんです。身元が分からなくて困っていたんですが、ちょうど警備部に来ておられたマクベイン氏が知っていると言われて……」
「それでわしがお前さんの所に連絡したというわけだ」
「ありがとうございます」
マイクはエドマクに礼を言った。
「いや、借りを返しただけさ」
元刑事が言った。
「それに悪人がのうのうと生きとるのに、善人が死んだら何にもならんからな」
「容態はどうなんでしょう、先生?」
ドクが医者に尋ねた。
「危険な状態は脱しました。別にここじゃなくても家……船ですか? そちらの方でも療養を心がけていただけるんなら、帰してもいいと思いますよ。意識さえ戻ればね」
ふたりはセラを見つめた。白い顔はまだ目覚めそうにもなかった。
「ところでお二人にお聞きしたいことがあるのですが」
シェーンコップが言った。
「はい」
「犯人は彼女だけでなく、セラさんも誘拐しようとしたらしいのです。心当たりはありませんかね? 犯人の二人は海賊の一味として指名手配になっていたものなんですが」
「海賊ですか」
まさか、バレーサルガッソーで鉢合わせになって攻撃してきたのを逆に叩き潰した、とは言えないよな。
「いいえ、知りませんが」
「そうですか。……まいったな」
「……海……賊……」
誰かがそう呟いた。ベッドの上から。
「ああ、セラ! 気がついたんですか!?」
ドクがそう呼びかけた。セラが薄目を開いてドクを見た。
「良かったぁ」
女の人が安心したようにそう言った。
しかしセラの顔は安心という感じではなかった。震える手をゆっくり伸ばしてドクの襟を掴んだ。
「ド……ク……。言いたいことが……あるんだ……」
「無理をしてはいけませんよ。安静が第一です」
医者がそういうのでマイクは止めに入った。
「すみませんが。僕らだけにして頂きたいんですが」
「……わかりました」
シェーンコップがそう言い、みんなを促して外に出た。
「マイク……も……いるの……?」
「いるよ。なんだい?」
「海賊……ヴェルドゥ……知ってます……か?」
「ヴェルドゥ」
「彼らの……ボスです。僕を……人質にして……ヘルメス号と……戦おうとして……それで……」
「……ヴェルドゥ。知りませんね。マイクはどうです?」
ドクに言われてマイクは考え込んだ。
「ヴェルドゥ……ヴェルドゥ……海賊の……ああっ!」
いきなり大声を出したマイクにドクは驚いた。
「な、なんです?」
「あいつかぁー。しかしもう20年も前じゃないか。何で今更出てきたんだろう。まったく厄介なのが出てきたなあ」
頭を掻きながら考え込むマイクにドクが声をかけた。
「知ってるんですか、マイク? 隠してないで教えてくださいよ」
「待った待った。一応キャップに話してからにするよ。……で、セラのことなんだけどね」
セラは、その話が出ると少し無理してるのだろうが、微笑んで見せた。
「僕はもう少し……ここにいますよ……。ついていっても……邪魔ですし……給料であと2、3日……入院できるでしょう……。そうすれば……すぐに……」
「あのねぇ、セラ」
まるで子供に言い聞かせるように、マイクは言った。
「セラは僕らを友達のかいもない、薄情な奴らにしたてあげるつもりなのかい?」
「……え……?」
驚いているセラをよそに、ドクがマイクに言った。
「食費、足りますか? 私の給料から引いてくださってもいいですよ?」
「あのね、ドク。ボランティアだよ、ボランティア。ただに決まってるじゃないか」
「いや、だって、前に“赤字覚悟、雀の涙ほどでも金はもらう”って言ってたでしょう?」
「それはそれ、これはこれだよ。口は時々持ち主を無視して800アムルほど先を走っていくことがあるんでね」
「……立派な長距離ランナーですね」
「ありがとう」
今度は無理なく笑うことのできたセラを見て、マイクが言う。
「とにかく、かついででも連れていくさ」
右手の親指をピンと立て、不器用にマイクはウインクしてみせた。
「宇宙へ」




