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ヘルメス4

「……で、なんですぐに知らせてくんなかったんだい?」


 セラに会ってひとしきり喜んだ後、アレックスが言った最初の言葉がこれだった。


「機関室にいなかったからどこにいるのかわからなかったんだよ」

「そういう時のために船内放送ってもんがあるんでしょうが。ホイ、エレ卓直ったよ」

「サンキュー」


 こうしてやっと全クルーが揃った。


「じゃあ、今回の仕事の話にするぜ」


 船長はそう言って、マイクに話を促した。


「今回の仕事は、ポルポス星産のトルトニウムをアルゴム星系ニルスへ輸送することだ。

 ご存知の通り、あちらの方はコンピューター及び自動統制システムが正常に働かないから、ゲストスタッフとしてセラに来てもらった。

 荷物は明日ステーションに着くから、それの積み込みとステーションとの手続きがあって、まあ3日後ぐらいには出発だね。予定では、全行程は船内時間で約1ヶ月。……すでに前金をもらって船の修理代に回したから、絶対にこの仕事はやり遂げなくちゃいかない。

 無論、成功すればボーナスも出る。以上」


 クルーたちの間にはいつも仕事の前にある、ある興奮が沸き起こっていた。そこへ、キャップが口を挟んだ。


「……あー……で、だ……」


 そこでちらりとマイクを見た。


「実はぁ、帰りにもうひと仕事することにぃなってるん……だ……が……」

「キャップ!」


 マイクロフトの声に船長はちょっと首をすくめたが、先を続けた。


「しょうがねえだろうが、約束しちまったんだからよぉ。なに、アルゴム星系の隣のアレキス星系のアラハンに、陣中見舞いを持っていくだけのことさ」

「陣中見舞いって言うと、また反乱軍に武器でも提供するんですか」

「えー……。あー、まーそういうもんだ」


 珍しくはっきりものを言わないディアスだが、マイク達はあまり気に留めなかった。


「どこから持ってくるんです、それを」

「危うい橋だが、俺にかかっちゃ、なに、赤子の手をひねるより容易いもんさ」

「よっ! かっこいいよっ! さすが我らのマーキュリーリアス!!」

「……やめなよ、癖になるじゃないか」


 アレックスがノせるのを、ドクターが止めた。


「……キャップ、あんた、どれだけの前科を積み上げりゃ気が済むんです?」

「ジェンカ?」

「前科!」


 うんざりした顔でマイクが言うのに、ディアスはすまし顔で。


「前科にはならんさ、まだ1度も捕まってねえんだからな」

「死刑台に一段ずつ登ってることは確かですね」

「なに、首くくったぐらいじゃ俺は死なんさ」

「キャップは死ななくても僕は死にます」

「根性さえありゃ、あんなぐらいじゃ誰も死なんぞ」

「そんなわけないでしょう! だから、なんで僕に黙ってそんなこと引き受けたんです!?」

「言ったら反対するだろうが」

「当たり前です。僕はこの船のマネージャーですよ。船を金銭的、法律的に、安全に運行させるのが僕の役目です」

「……お前いつからそんな保守的になった……。ヘルメス号に乗ったのだって、もっと、自由に生きるための、自分たちの城が欲しかったからだろうが」

「20年近く乗ってりゃ考えだって変わります。それに自由っていうのは規則に沿ったその中での……。あぁ、こんなこと言ってる場合じゃない。僕が言ってるのはですねぇ……」


 二人をぼけーっと見ている3人の中で、セラがアレックスに聞いた。


「……いいんですか? 放っておいて」

「いいのいいの。本気でやってるわけじゃなし。マイクがキャップの言うことを聞くための、一種の儀式みたいなもんだしな」

「儀式。確かにそうですけどね。いくら長い間付き合ってても、これだけはどうも、なれるって事が出来なくって」

「……そろそろ止めた方がいいかね?」


 ドクターが二人に聞いた。


「いや、まだいいんでないの? もう少し見てようや、面白いから」


 そうアレックスに言われてドクターはそのまま見ていたが、やはりどうも我慢できずに二人の間に割って入った。


「まあまあ。二人とも、そこら辺で止めたらどうです。

 とにかく、今回は約束してしまったことをそう簡単に反故にもできないでしょう。これで反故にしたら、かえって船の名に傷がつきますよ。“信用第一”はマイクの十八番じゃなかったですか」

「そうだそうだ」

「……そうだじゃありませんよ、キャップ。これからは自分勝手に厄介な仕事を引き受けるようなことはしないでくださいね」

「……わーったよっ」


 こうして渋々ながらキャップは、「勝手に仕事を入れない」と約束したが、ここにいるクルー全員は知っている……キャップが今まで一体何回そう約束してきたかを。……キャップの約束などあてになるわけがないんだ、まったく……。



 マイクロフトは大きくため息をついて忌々しげに頭をかき、ジロッとキャップを見た。

 少したじろぐキャップがいた。


「な、なんだよ、オイ」

「出港日が5日後になりそうですよ、キャップ」


 マイクロフトはそのままの姿勢で言った。


「航路、アラハンの反乱の進行状況、それぞれの組織力や資金、政府の持っている軍艦の型や弱点、この頃の武器の相場価格……。あー、次から次へと調べなきゃならんもんが出てくる」

「お、おい、相場価格って、お前うりつけんのか」

「当たり前でしょう? この船はですね、ボランティア団体じゃなくて商船なんですよ。

 たとえ他から見たら安かろうと、赤字覚悟だろうと、雀の涙ほどだろうと、売って金をもらうのが商船根性ってもんですからね」

「赤字覚悟、すずめの涙ねぇ……」


 アレックスがニヤニヤしながら呟いた。意地張らずに「ただでも別に構わない」って言えばいいものを……。


「それで結局、帰りにアラハンに寄るんですか?」


 セラが聞いた。



「そうだよ。だからちょっと忙しくなると思う。文句が出てきたらいいだしっぺのこの人に言ってやってくれ。僕は知らん」


と言ってマイクが指したのは誰か……言うまでもあるまい。


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