秘密作戦は進む6
「アテンションプリーズ、アテンションプリーズ。25時発アブマイ行きの船、レべリウス号に乗船される方は、お早めにご乗船下さい。繰り返します……」
多くの人々が到着し、また旅立つところ。宇宙ステーションニルス駅でセラもまた、自分の船の時刻を待っていた
それにしても、とセラは思う。あの人は一体誰だったんだろう。
銀の髪にこげ茶色の瞳。そして、僕はなぜあの人のことがそんなに気に掛かるんだろう。
恋……じゃないと思う。僕は男でもなく女でもない。無性人である僕に恋はできるはずもない。
もちろん妄想でないとは言い切れない。それと同じように妄想であるとも言い切れない。少しでもはっきりした事が分かればいいんだけど……。
「あのー」
「はい?」
突然呼びかけられ、セラは振り返った。そこにはステーションの職員が立っていた。
「セリエスト・セラ・シュレイン様ですね?」
「はい。そうですが、僕に何か?」
「ヘルメス号に乗っておられた?」
「はい」
「実は、ヘルメス号のマネージャーとおっしゃる方が本部の方にいらっしゃるっているのですが、胡散臭いところが多くて。それで、本人かどうか証明していただければありがたいと思いまして」
「……」
マイクが? どうしてきたんだろう。見送りにでも来たのかな。
「こちらです、いらしてください」
職員が先導して歩き始めた。しかしセラは動かなかった。
「……どうなさいました?」
職員が振り返って聞くのに、セラは少し悲しげな顔をして言った。
「……なぜ……」
「……は?」
「なぜ僕にそのようなことを言うのでしょう。真実のない言葉では僕は動かないのに」
それを聞くと男はゆっくりと向きを変えて、もう一度セラと向かい合った。
「何のことでしょう、お客様」
「あなたは嘘をついていらっしゃる、ということです。マイクはここには来ていません。まだヘルメス号にいます。そしてあなたはステーションの職員ではない。……そういうことです」
男は少しの間黙っていたが、いきなり丁寧な態度を脱ぎ捨てると、品のないガラの悪い態度に変わって言った。
「やっぱりジプシーに嘘は通用しねえのか」
「僕への用はそれだけですか」
「待ちな」
ゆっくりと歩み去ろうとするセラを男は止めた。
「まだ、他に何か?」
「おおありよ」
男がそういうのとだぶって、アナウンスが聞こえた。
「アテンションプリーズ、アテンションプリーズ。25時10分発レイタン行きの船に乗られるお客様は8番ゲートへ……」
「船に乗る時間が来ました。失礼させて頂きます」
「ふぅーん。つまりあんたは、あの娘を殺すわけだ」
8番ゲートへ行こうとするセラの歩みが止まった。そしてゆっくり振り向いた。
「……なんですって?」
「こういうことさ、ジプシーさんよ。あんたは別に行きたきゃ行っていいのさ。誰も邪魔はせんよ。ただし」
ここでニヤリと男は笑った。
「娘が一人死ぬことになる」
「……ご冗談を」
「冗談かどうかはあんたがよぉっくご存知のはずだよなぁ、ジプシーさんよ」
セラは男の腕を掴んだ。そして男の心を読んだ。
もう一人の男と彼は一人の女性を拉致したのだ。そしてそれを使いヘルメス号と関係のあるセラを拉致して……。
男はいきなりセラから腕をもぎ離した。セラの顔からは血の気が引いていた。
「……分かったかね?」
セラは頷いた。
「では、ついてきてもらおうか」
セラは大人しくついていった。
男はロビーから離れ、従業員用のエレベーターに乗り、第三倉庫に連れてきた。
「おい、連れてきたぞ」
「ご苦労」
一人の娘と一人の男がそこにいた。
女は縛られて床に座らされていた。恐怖で震えており顔も真っ青だった。セラは彼女に近づいていってしゃがんだ。
「……すみません……」
小声でそういうのが精一杯だった。
男は無線の装置を操作して何かを聞いていた。
「おーい。とうとう反乱軍がアラハン軍の船に奇襲をかけたぞ」
「ニルスの領域内か?」
「いや外だ」
「なんだ、つまらん」
「いくらトルトニウムのためとは言っても、条約を忘れるところまで熱くはなれなかったというわけさ」
二人がニヤニヤしているところにセラは声をかけた。
「僕は来ました。この方はもう必要ないのでしょう。離してください」
ふたりはセラと女性を交互に見やった。
「とんでもねえ」
そしてクックッと笑った。
「誰がお前が来たら自由にしてやると言った。ここで自由にしたら警備部に通報されちまうだろうが。いい女だ。俺の女にでもしてやろうか」
「時々俺にも貸せや」
そして大笑い。
娘は目を瞑り顔を背けた、悪夢の続きを見ないように。
「……そうですか」
セラはうつむき、そして少し掠れた声で言って立ち上がった。
「そうだろうとは思っていましたけどね」
二人は笑いを止めた。風が吹くのを感じたのだ。
ここは倉庫のはずだ。しかも宇宙ステーションの。風など吹くはずもない。
「……おい……。もしかして……。まさか……」
ふたりはセラを恐怖の目で見た。セラの周りを旋風が吹き、衣がたなびき、髪は広がっていた。
「風よ……」
「シャ、遮霊布だ! 遮霊布をかぶせろ!」
慌てて遮霊布でセラを取り抑えようとしたが、時すでに遅し。
猛烈な竜巻は、二人を包んだかと思うと放り上げた。いつのまにか遮霊布もズタズタになっている。
女性は信じられないものを見ているかのように宙を飛ぶ二人を見ていた。
縄のあたりで小さなつむじ風が渦を巻いたのに気がついていただろうか。突然縄が解けたのに驚いている娘にセラは囁いた。
「……逃げろ……。早く……。いつまでもつかわからないから……」
セラの言葉に娘は、3人を見ながら入り口に向かってあとさずりし、その後一目散に逃げ出した。
風が治っていく。
セラは目をつぶっている。自分の力を納めるにはそれ以上の精神力を使う。苦しいのだろう。むろんそれだけではないが。
二人の体は床に叩きつけられた。痛みで二人とも気を失っている。体のあちこちから血が流れている。
……いつもだ。いつも感情に任せて使うとこういうことになってしまう。セラには、白いままの彼の衣さえも彼らの血で真っ赤に染まったように感じられるのだ。
しかし、今はその感傷に浸ってるわけにはいかない。
セラは一人の男の手を握って言った。
「どうして僕を狙ったんです」
男の心が答えた。
“ボスが……ヘルメス号の弱みを握れと……。人質にして……戦いを避けられないように……”
「ボスとは」
“海賊……ヴェルドゥ……”
「ヴェルドゥ?」
誰だろう。聞いたことのない名だ。それ以後はどっちに呼びかけても応答はなかった。
セラは、このことをマイクたちに知らせなくてはいけないと思った。ヘルメス号が関わっている以上、知らせないわけにはいかないだろう。
セラが立ち上がった時、ふと無線機が目に入った。どういうことを聞いていたんだろう。セラは無線機の前に座りイヤホンをつけた。
「警告する。警告する。これが最後通告だ」
どこか軍人調の声だ。
「我らの艦隊は17隻。そちらは一隻だ。勝ち目はない。今ならまだ間に合う。降伏しろ。さもないと総攻撃をかける。繰り返す……」
「てやんでい! 誰が降伏できるかってんだ、ちくしょうめー!」
あれ? どこかで聞いた声だ。せらは思った まさか。まさか、まさか……。
「1対17ぁ!? それがどうした、やれるもんならやってみやがれってんだ! てめえら全員、道連れにしてやらあ!」
……間違いない……船長だ……。
てことは、計画で言っていたトルトニウムを運ぶ船がアラハン軍のもので、それをアラハン反乱軍が襲っているって事か。
それにしても1対17。いくら船長やアレックスでも無理だ。
助けねば。
セラはそこで座り込み、心を飛ばした。




