秘密作戦は進む3
次の日、コルボラン社社長のヴリップ氏がヘルメス号にやってきた。
トルトニウムは彼にとっても大事な商品らしい。それで御自ら来たというわけだ。
セラはすでにヘルメス号を降りた。今日の午後にはニルスの地表に降り立つことになるだろう。
ドクは骨休めか、個室でのんびりしている。
アレックとキャップは荷物おろしの手伝いをしている。そしてマイクはドリップしの話に付き合っている。キャップとマイクの立場が逆のようにも思えるが、こちらの方がうまくいくのだから仕方がない。
「こちらで商品ヲ売りさばくことになりましてね」
ハワードの入れたドロル系人好物パパリアの樹液を飲みながら、ヴリップ氏は言った。
「それでステーションに来たとイウわけでしてな」
「やはりなんですか、細かく少しずつ売りさばくおつもりで?」
「そウしたイところなんですがね、どウしても全部買イ取りたイとイウところが3口アりましてね。しかも高価で細かく売るよりも多くの儲けを生みそうなので、その3口に絞ってイるんですよ」
「どれくらい出すと言っているんです、それらの人は?」
「はっきりしたことは言エませんがね、こちらの言イ値の10倍は出しそウなんですよ」
思わずマイクはコーヒーから口を離した。
「10倍。そいつはすごいな。その三つの方々の名を教えていただくわけにはいきませんかね? なんせこういう不景気な世の中ですから、“金をたくさん持っている所についた方が勝ち”というようなところがありますんでね。どうにか……。少しだけでも……」
「そうイウことはちょっと……」
「ダメですか……? そこをなんとか……」
マイクが低い姿勢で頼んでくるのにほだされたのだろうか。
「ウーん……。はっきり申し上げるわけにはイきませんがね……3口ともあレキス星系の軍関係者なんですよ。イや、やはり軍需産業は儲かるんですかねェ」
「軍関係者とすると、アラハンの反乱軍のような?」
「さア、そこまではどウでしたか」
言葉を濁し他の話題へとすり替えるヴリップ氏を見てマイクは限界を悟った。
どうやら引き出せるのはここまでだな。あとはアレックスとキャップに期待するか。
*
宇宙ステーションニルス駅。
そのステーションホテルの一室に3人の男が集まっていた。
お互いに顔見知りのようではあるが、一言も話さない。そのまま椅子に座って、じっと牽制し合っているような雰囲気である。
「イやア、オ待たせイたしました」
ドアを開けてにこやかに入ってきたのは、ヴリップ氏だった。3人の緊張気味のまなざしが注がれる。
四人がそれぞれの席に着くと、ヴリップ氏は話を始めた。
「先ほど荷物ヲわしの倉庫に入れ終わったところです。はイ、それでは取引を始めることにイたしましょウか。
皆さん、それぞれの上司からの許可はオ持ちでしょウな? 結構。それでは只今からオ配りする用紙に、団体名と金額をオ書きになってくださイ。アとから回収イたします。
……皆さん、オ書きになられたよウですな。では、こちらにイただきましょウか」
手元に集められた紙の一枚一枚に目を通している商人に、三人は心配そうな視線を投げかけた。
「なるほど……。ふむふむ……。ほお……」
そして紙をテーブルの上に置くと、周りの人々を見回した。
「さて、皆様の提示されました額を今こうして見せていただいたわけなのですが、今回の取引は……」
一瞬の静寂が部屋を支配した。ヴリップ氏は立ち上がり、右手のうちの一本を一人の人物に示していった。
「オめでとウござイます、あラハン軍の方。それでは商談の方へ移りましょウか」
「あ、ありがとうございます」
信じられないという気持ちと安堵の念の入り混じった表情でその男は立ち上がると、差し出された手と握手した。
「それでは失礼して……。さて、今回の支払イ方法ですが……」
残りの二人はヴリップ氏とアラハン軍の男が部屋を出て行くのを少しの間ぼんやりして見ていたが、そのうちの一人が後を追って部屋を出た。
「……やはり連盟通貨で?」
「いえ、ウィトゥリアンの相当部分でどうでしょうか」
「結構です」
後から追いかけてきた男は歩きながら話している二人の間に割り込むと、ヴリップに話しかけた。
「ヴリップ! いや、ヴリップさん。2倍出す。いや10倍でもいい。売ってくれ。頼む。この通りだ」
土下座した男に向かいグリップは冷たく言ってのけた。
「アなたはあラハン反乱軍のオ方でしたね。アなたの提示された金額では、たとえその2倍、10倍でもあレキス政府の方の提示額にさエも追イつかなイんですよ。ましてや、あラハンの方の2倍、10倍の額がオ宅に出せますか?」
反乱軍の男は微かにうめいた。
他の二人はそれをみると何事もなかったように立ち去った。
さて、部屋の方に残ったアレキス政府の男はどうしただろう。
彼はハンドテレフォンで誰かと連絡を取っていた。誰と? それはまだわからない。
2、3回のコールの後、相手が出た。
「……もしもし?」
艶やかな女の声だった。
「黒バラか。少佐だ。まずいことになった」
心底困ったような少佐の声に、向こうはクスクスと笑った。
「その様子じゃうまくいかなかったようね」
「それ見ろと思ってるんだろう」
「ご明察」
またくすくすと笑う声に、少佐は一瞬言葉が出なかった。
「そちらはどうなんだ」
「反乱軍の分は押さえたわ。ヴェルドゥ、まだこれからも色々と使えそうね。そちらの分だってそのうちにこちらの手に入るわ」
「なに? なにかやったのか?」
「こちらは何もしないわよ」
黒バラと呼ばれた女はふんと鼻で笑って見せ、あとを続けた。
「何もしなくったって、彼らが勝手にこちらへ持ってきてくれるわ」




