秘密作戦は進む2
18日まで一日おき連載となっております。ご注意ください。
その日の夜。
珍しくディアスとアレックスはステーションの繁華街へ行かずに、ヘルメス号の喫茶室にいた。
セラとマイクとドクもである。
ハワードも、アレックに直してもらって順調だった。
これからトルトニウム奪取計画を立てなくてはならないのだ、しかしその前に、決めなくてはならないことがある。
「どうする、セラ?」
ディアスが言う。
「おれたちゃこの後、アレキス星系に寄ってくから、ラドラスに帰るにしてもパレ・サルガッソーは通らねぇし、こっからはこれといってセラが必要なこともねぇ。それはまぁ、いてくれるに越したことはねぇが、なんといってもあぶねー橋だ。嫌なら降りたっていいんだぜ?」
セラはホットミルクのコップを両手で持って、一口飲んでから静かに言った。
「一つだけ……気になることがあるんです。それさえなかったら、一緒に行きたいと思うんですが……」
「なんだいそりゃ」
到着してからステーションで買ってきたチョコボンボンを口の中に放り込みながら、アレックスが訪ねた。
「瞑想の途中で見たヴィジョンなんです。……もしかしたらただの妄想だったのかもしれないけど……でも、もしあれが本当のことで、本当にあの姫君が助けを求めているんなら、やっぱり僕は命をかけてでも助け出さなくちゃいけないって思うんで……」
「姫君? 美人?」
アレックスの質問にセラは少し苦笑してみせた。
「ええ、まあ、ね。こげ茶色の瞳を持つ、美しい方ですよ」
「それなら俺だって行きたいよな。何もセラだけじゃなくてさ」
「アレック」
マイクに窘められ、少ししゅんとなったアレックスだった
「まあ、セラがそうしたいというのなら、止める理由はないけどね」
「すみません、マイク。勝手なことを言って」
「いや、大体契約ではパレ・サルガッソーでの水先案内だけだったんだしさ。明日にでも給料は払うから」
「ありがとうございます」
そこで急に警報が鳴り響いた。
「貨物室ニ侵入者発見。貨物室ニ侵入者発見」
「度胸のある奴だな。このヘルメス号に忍び込もうとするなんざ」
ニヤニヤ笑いを浮かべるキャップを無視して、マイクは聞いた。
「防御装置はどうしたんだい」
「作動シマシタ。今、侵入者ハ眠ッテイマス」
「それじゃあ」
キャップはゆっくりと立ち上がって言った。
「ご対面と行くか」
*
「アッチャー……」
「嘘だろおー……」
「なんでまた……」
「夢であってくれよぉー……」
セラを除いた四人はその男を見て口々に言った。セラはきょとんとして、うんざりといった顔の四人を見た。
「どうなさったんです? この人が何か?」
「あぁ、そうか。セラはまだ知らなかったんだね」
ドクが説明した。
「この人はね、元GPRの刑事でね。随分目の敵にされていたんですよ、私たちは。もう10年前からになるかなぁ」
「……15年。ドクが来る前から目の敵にされてたよ」
マイクが口を挟んだ。
「そうだったんですか」
「そうだと思う。それでも去年定年退職したって言ってたから、もう大丈夫だと思ってたんだけどなー」
「身を落として泥棒にでもなったんじゃねーかな」
アレックがそう呟くと、やにわに男はむくりと起き上がった。
「馬鹿を言うな……。お前らじゃあるめーし……」
まだ催眠ガスが効いているせいか、大声が出せないらしい。
「……エドマクの親父さん」
キャップが頭を掻きながら言った。
「GPRを退職されたと聞きましたが」
珍しい。キャップが敬語を使っている。火山が噴火でもするんじゃないか。
「それくらいでわしがお前らを諦めるとでも思ったのか。残念だったな、ディアスよ」
「いい加減にそういう言い方やめたらどうです。こちとら、普通の商人なんですからね」
「何、今に尻尾を掴んでやる。その時になって吠え面かくなよ」
「親父さんもいい加減年なんだから、楽隠居した方が長生きできるだろうに」
「お前さんが人の年を言えるか。わしより歳くってるだろうが」
「しかしね、親父さん。あ~……っと……」
キャップは一瞬言葉に詰まると、マイクの方を見てその手を叩いた。
「タッチ」
「……なんです?」
「俺は敬語が苦手だ。お前行け。俺、パス」
「何なんですか、一体。まあ、いいですけどね。さて、マクベインさん。覚悟はあってのことでしょうね」
「何が覚悟だって?」
この冷徹英明なマイクを内心苦手に思っているエドマクは、少したじろいた。
「ヘルメス号に忍び込んだことですよ。ここで僕がステーションの警備隊に通報したら、誰が見たってあなたは不法侵入者ですよ」
「何を言う。わしは密輸の証拠をあげようとだなあ……」
「マクベインさん、昨年退職なさったですって? それじゃあ、今はただの一市民でしょう。何の権限もない、ね。立派な犯罪者ですな」
「そうだそうだ」
無責任にバッグを盛り上げるアレックス。
「まあ僕としましても、何であれ15年も付き合ってきたマクベインさんを警備隊に突き出すのは忍びませんし、あっさり引き下がってくださるのなら何も見なかったことにいたしましょう」
元GPRの刑事としてのプライドと、一人の人間としての保守が相争っていたが、しばらくするとエドマクはポツリと言った。
「……分かった。また出直すとしよう」
「また来るつもりなんすか!」
アレックがついつい口を滑らす。
「当たり前だ! お前らを捕まえることが、わしの生きがいなのだからな」
そう言ってエドマクは服の埃を払いながら立ち上がり、ふらつきながらドアの方へと歩いて行った。その後をセラが追いかけて行った。
「外までお送りしましょうか?」
「……ありがとう」
そこでふと溜息をついてエドマクは言った。
「新入りさんかい? 気を付けなよ? 朱に交われば赤くなるって言うからなぁ」




