幼女の尖兵に成って冒険者として依頼を受ける話
さて、更に半月かけて小デブと仲良くなり小デブの親父殿にも顔を覚えられた。
なので小デブとは夜の居酒屋等で待ち合わせをして昼間にゴブリンを狩っただの雑魚魔物を狩っただのと話をして盛り上がる。
この小デブは冒険者にあこがれているらしい。
「レオンは毎日が楽しそうで良いな」
ある時、小デブが漏らす。
「そうかい?
確かにお金には少し余裕があるけど、それでも気楽な日々ではないよ。
僕としては君の方が楽しそうだ」
「ハッ!
オレは親父の跡を継ぐだけの存在だ。確かにこの日々で楽しい生活を送ってはいるが、それは全て親父の金だ。オレが何かしたもんじゃない」
「成程なぁ。
そう言えば面白い話を聞いた事がある」
そろそろ計画に移そう。
「面白い話?」
「ああ、そうさ」
ちょいちょいと顔を寄せるよう仕草をして小デブに耳打ちをする。
「此処の領主は勇者の一人を監禁してるらしいじゃないか」
告げたところで小デブがバッと僕から離れた。
「止めろ!
領主はお得意先の一つなんだぞ!」
小デブが声を殺して叫ぶ。メイド勇者はピクリと完全に反応をしていた。
「良いじゃないか。
勇者を助けようぜ?顔を隠せばバレないよ。それに正義は此方にある。
女の子を助けて、後は知らん顔だよ。僕も協力する」
楽しそうだろ?と笑い、席から立ち上がる。
「じゃ、考えて置いてくれよ。
なーに、ちょいちょいっと館に入って荷物と一緒に連れてくれば良いだけだよ」
それじゃあね、と席を立つと小デブの分の金を払って居酒屋を後にする。これで種は撒けたな。乗らなかったら乗らなかったで正面からの正攻法だ。
宿屋に向かい、部屋に入ると一人の女が居た。もう、気配無さ過ぎでビックリして何の迷いもなくサプレッサー付きのMP7出しちゃった。
向こうは部屋の真ん中に座って座禅している。何や此奴?
「えぇっと?」
「お初にお目にかかります」
「お初にお目にかかります」
女が頭を下げるので取り敢えずその前に座って頭を下げる。
「神様に頼まれて貴方と同じ任を持った者です」
「成程ね。
正直、この場所に同じ任務持った人が二人来てもどうしようもないんだよね。
ま、良いや」
「はい」
それから情報共有。
2時間かけてこの世界の事と僕が今置かれている現状に付いて説明する。
「成程、理解しました。
暫くは貴方の下で活動に付いて学びたいのですが……」
「んー……まぁ、良いか。
それはそうと肝心の君の能力を知りたい」
重要な事だ。
「貴方はジェダイビートと言うインディーズゲームを知っていますか?」
「ジェダイビート?
剣振ってリズム取るやつだっけ?」
「はい」
女は立ち上がるとバトン程の長さがある太さが小さな缶ジュース程の鉄パイプを僕の前に突き出した。
何だろうか?と見ていると、ブォーンとピンク色の光が出てきた。おー……成程。
にしても、ビームサーベルにしては柄が長い。
「それで?」
柄の反対側からも光の剣が現れる。
「ダースモールの剣じゃん」
「はい」
話を聞けば敵の攻撃が見えるそうな。
試しに短剣で軽く斬りかかると全ていなされるか弾かれた。ナイフを出して本気で掛かっても上手く流されるか防がれるのだ。
また、攻撃チャンスも見えているとかで試しに廊下にあるモップを渡すと二撃目で頭を叩かれた。
「こりゃ強いな。
戦うことに関しては何にも心配はいらないね」
「はい」
後はまるっきり僕と同じらしく毎日金をもらうし缶飯やお菓子なども貰っているそうな。
取り敢えず、明日にでも冒険者として登録して身分を確保しなさいと告げ今日はお開き。
彼女は部屋は隣に取っているらしく隣の部屋に戻っていった。やれやれ。僕も寝よう。
ベッドに入って眠りに就く。
「うーん、この」
そして、ベッドに入ってから2時間後にふと視線を感じて目が覚める。見ればメイド勇者がベッド脇に立っていた。
僕が目を覚ますと同時に頭を下げるのだから堪ったもんじゃない。コワすぎるだろ。
「夜分遅くに大変御無礼を致します、レオン様」
「良いよ別に。
勇者様誘拐計画かい?」
ベッド脇の水差から水を一杯注ぎ一口。
「はい」
「主様を引き込むのはやめろって脅しに来た?」
多分その逆だろうね。
「その逆でございます」
それ見ろ。少し驚いた顔をして、目を見開く。
「君も勇者様を助けて名を上げたいのかな?」
「いいえ違います」
メイド勇者は首を振る。
「私にはとある事情があり、とある勇者様を探しているのです」
「成程、君の探してる勇者様かどうかを確かめる為に参加したいと?」
僕の問いにその通りだとメイド勇者は頷いた。成程なぁ……構わないよ、勿論。
「全然構わないよ。
詳しくはまた明日の夜。宵闇の子猫亭で話そう。彼にもそう伝えておいてよ」
「分かりました」
メイド勇者は深々と一礼すると窓から去って行った。よしよし。想定外に上手く事が進んでいるな。
「今のが勇者ですか?」
そして、扉が開きクワイ・ガンジンが入って来た。
「うん。
あの人はまだ帰還させたら駄目だよ。と、言うかこの件は君はノータッチだよ。僕の段取りあるからね」
「勿論。
私は見学させて貰う立場です。横から口出しはしません」
なら良い。
今日はもう遅いから今度こそ寝よう。そう告げて僕はベッドに潜った。やれやれ。
翌朝、朝飯を食べているとクワイ・ガンジンがやって来た。
無言で僕の後ろのテーブルに座り、食事を取り始めた。
「昨晩、勇者が部屋に居ましたよね?」
「うん。監禁勇者の救出に参加してくれるらしい」
なんか、スパイみたいな遣り取りでスコ。
「成程」
「君は取り敢えず冒険者の身分とこっちの武器を手に入れると良いよ」
「それに付いては私に考えがあります」
「考え?」
なんだろう?
「私は勇者を騙ろうと思います」
ほう。
「成功する見積は?」
「私自身の身体能力は貴方のギリースーツと同等です」
「武器は?」
「勇者召喚の時に入手した能力らしい、と言う事にします。
チートです」
なるほどね。
「それは良いかもね。
メイド勇者と同じ感じになる訳か」
流浪の勇者。
「駄目でしょうか?」
「良いんじゃない?
駄目だったら死ぬだけさ」
「ありがとうございます」
それからお互いに無言で食事を終えて別時期に席を立つ。
宿屋から外に出るとメイド勇者が視界に入る。ちょっとビックリした。
メイド勇者は軽く会釈をするので僕も手を挙げる。それからメイド勇者の隣に。
「私の主人も貴方の計画に賛同して下さりました」
「それは重畳。
何時、計画を練る?今晩?」
「はい。今晩、商館に来て下さい」
「分かった」
そこからメイド勇者と分かれて冒険者ギルドへ。
ギルドは落ち着いており、繁忙期を過ぎたのだ。
「依頼を受けたいんだ」
「どうぞ」
依頼一覧をみせてくれた。掲示板には貼ってない。理由は簡単。貼ると誰かが剥がしたり持っていったりボロボロになるから。
大きめの一覧が掲示板に置いてあり、混んでる時は其処で眺めてから依頼を頼むのがマナーだが、空いてればカウンターで直接見て悩む方が良い。
どれを見てもつまらなそうな物しかない。そんな事を思っていると、一件面白そうな物があった。
「この、領主の館の警備ってのは?」
「ああ、これですか?
この前領主の館に泥棒が入ったらしくてですね、何も取られてはいなかったのですが臨時でもう少し警備を増やすのですが、如何せん内容の割に給金が高くないので人気も無くてですね」
結局残ってるのですよ、と受付は笑う。
これは良い。これを受けるか。
「これ受けます。
楽しそうだ」
「はぁ……では、依頼を発行しますね。
領主の館へ行き、依頼達成後は達成札を持って帰ってきて下さい」
「はーい」
これは良い。
ギルドから出てそのまま館に向かう。館では相変わらず騎士や兵士が守りを固めていた。
「止まれ!何用か!」
「ギルドで警備の依頼を受けたのさ。
その面接」
ほらとギルドから発行された依頼証明書を見せるとすんなりと通して貰えた。
そして監視兼案内人の兵士に連れられて館の中に。館の中はさほど警備が多い訳ではないが巡回している者が多かった。
ふーん。
そして、応接室に通されて待機。暫くすると神経質そうな男と監禁されている勇者が現れた。
「お前が警備の依頼を受けた冒険者か?」
「はい、領主様」
多分身なりからして領主なのだろう。
「良いだろう。
お前、この者が誰か分かるか?」
男、領主は勇者を見やる。
勇者でしょ?とは言えないのでジッと勇者を見てからフムと考える。格好は野暮ったいローブを着ており、俯き加減である。
「領主様のお子さんですか?」
年齢的にはそんな感じ。40代のおっさんの10代真ん中ぐらいの子供。
「分からぬなら良い。
何時から仕事に付ける?」
「明日以降ですね〜
今日は何にも用意してないので」
「分かった。では明日の昼までに来い」
「はいはーい」
パーと手を広げると領主はわかったと頷き、では明日の昼の鐘が鳴ってから来る様にと告げて去って行く。勇者は僕に一礼して去っていく。ふむ、よく分からんね。
だが、取り敢えず計画は第二段階に入った訳だ。
なんだかな~上手く行き過ぎるな〜
ま、無事に潜入成功。
館を後にして宿屋に戻る。夜まで待機。待機している時にふと思った。
「クワイ・ガンジンの名前知らないや」
そう。ジェダイビートの暗殺者の名前を知らないのだ。
ま、良いか。
はよう殺しに行けや!!!