幼女の尖兵に成って居酒屋で情報収集する話
娼婦館で手に入れた情報を基に領主の館を偵察する事にした。
ギリースーツを着込んで屋敷の外壁に取り付く。時間は深夜。領主の館は街の中にある。街全体は18メートル程はあるだろう高い壁に囲まれており、領主の館は2メートル程の煉瓦の壁だ。
軽く助走を付けて跳び上がり、壁を蹴って更に上に。壁に取り付けば後は体を壁の向こうに放り込んで終わりだ。
トサリと落着して暗視装置を頭部に取り付ける。アメリカ軍の使う最新鋭の暗視装置。GPNVG-18って奴。
それで屋敷を見るが中々に厳重な警備だ。まぁ、帰還作業してまだ3日だもんな〜あ、窓際に反応ありじゃん。
どれどれ?
見れば黒髪の日本人だ。ふむふむ。バレットを取り出してエイム。勇者発見だな。
突然、勇者は此方に視線をくれる。かなりビビった。その場から動かず、ジッと対峙。暫く見つめ合っていると勇者が視線を部屋の中に。
ふむ、一旦引こう。
バレットを仕舞ってその場から離れる。暫らくすると武装した兵士達が先程までいた場所に駆け寄ってきて周囲を探っていた。おー……何やアイツ?姿が見えたのか?双眼鏡を取り出して再び勇者のいた窓を覗く。
やはり居た。一度視認したので輪郭が現れる。窓際でいつかのオーガ族のタンク。
「……」
暫く観察していると勇者がやはりコチラを見た。ウム。バレたな。
勇者はオーガ族に何かを言うと、オーガ族が持っていた斧を窓を叩きつける。斧は何か見えない壁にぶち当たり、大きく弾かれたが再度斧を叩き込まれるとバリンと割れた。そして、オーガ族は斧を振りかぶってこちら目掛けてぶん投げて来た。
慌てて横に転がると斧は僕の居た場所を大きく刳ったのだ。
オーガ族は大剣を片手に窓から出てくるのが見えたので慌てて壁から脱出。何だあの女?何の能力だ?
「ハー……キッツ」
屋敷から大急ぎで逃げ出してギリースーツを脱ぐ。その足で居酒屋に向かう。娼婦の次は飲み屋。情報収集は大事だ。
あの勇者の力を知らなくては……
「ビールとソーセージの盛り合わせ」
カウンター席に座り、店主に告げる。
ビールはすぐに出て来て、暫くすればソーセージが出て来る。ビールを一口飲んで取り敢えず一服。
「んーウマイ」
ソーセージを齧ると中から肉汁が溢れ出た。おー良いね。
「お前さん、見ない顔だな」
ウマウマやってると見知らぬ男が話し掛けてきた。
「ん?うん。最近こっち来たんだよ。ほら、勇者が殺された日。ちょーど門潜る時に救援の騎士達が出てくのを見たよ」
言うと、あぁと男は頷いた。
「勇者勇者と持て囃されても最近死にまくってるよね」
「ああ。
所詮は剣の振り方すらも知らんナヨの餓鬼よ」
まぁ、よく飛ばされてくる人間の半分近くが知識あっても体力無し、体力あっても知能なしだからな。軍人とか会ったこと無いし。
「それに関しては僕は何とも言えないけど、でももうちょっと頑張れよって思うよね〜」
「全くだ。
挙句の果てに領主の野郎は自分の館に勇者を閉じ込めているらしいぞ」
キタキタ。
男のジョッキが減って来たので追加を頼む。男はニッと笑う。
「へぇ、そんな事あるの?」
「あるんだよ。
何でも、領主の野郎が召喚した勇者にホの字らしくてな」
なんじゃそりゃ。
「それで勇者を匿ってれば世話無いな」
「全くだよ。
しかも、館全体に強固な防御魔術を掛けて外部からの攻撃に対して異様に強くしてるらしい。
明日、館近くに行ってみろよ。この前の件も合わせてかなりの数の騎士や兵士が立ってやがるぜ」
成程なぁ〜そりゃいい話を聴いた。
「成程。それってこの街じゃ有名な話なの?」
「いや。俺は館に出入りしてる商人の倅から聞いたんだよ。
ほら、彼処にいる」
男の指差す先を見ると小デブな男が油のたっぷり乗った肉を貪りながら周りに集まる屈強な男に自慢話をしていた。男の後ろには勇者が居る。おいおい……何だ彼奴は?
勇者多いな。しかも、正体隠してるのかメイド服着てるぞ。
「後ろのメイドさん、なかなか美人じゃないか」
「何でも、異国のかなり腕の立つ殺し屋らしい。
あの小デブの親父がアレを猫可愛がりしててな。何処からか護衛として雇ってきたらしい」
「なんじゃそりゃ……」
「だから狙ってるんなら諦めな。命が幾つあっても足んねぇよ」
男の言葉に笑ってその通りだと答える。
それから暫く男と飲み、別れる。取り敢えず、あのメイド勇者も暗殺リストに入れておくか。順番的には囚われの勇者が先だな。
あの男についてもちょっと接近する必要があるか。メイド勇者は何時でも殺せるけど囚われの勇者は面倒だからね。
いうて令和なってもやる事は変わらんよね