子犬のコロと動物サーカス
お子様に読み聞かせられるお話を意識しております。
いつもより少し長めです。
子犬のコロは散歩が大好きです。
今日も散歩をしていると、広場の方から賑やかな音が聞こえてきました。
「何があったんだろう?」
コロが広場に行ってみると、黄色い大きなテントが立っていました。
看板には「ぎょうてんサーカス」と書かれています。
色とりどりの旗が飾られ、楽しい音楽が聞こえてきます。
「サーカスだって? 面白そう!」
コロはワクワクしながらテントに入ろうとしました。
でも残念。
入り口の所でサーカスの人に止められてしまいました。
「こらこら、ここは人間のお客さんしか入れないよ」
「そんなぁ、ボクもサーカスが見たいよ」
「ダメダメ。動物は出る側。君、火の輪くぐりとか、玉のり行進は出来るのかい?」
「そんなのムリだよ」
そんなすごい事、子犬のコロには出来ません。
結局サーカスは見られず、コロはしょんぼりしたまま帰ります。
その途中で、ネコのミーミに出会いました。
「あら、子犬のコロ。悲しい顔してどうしたの?」
「ボク、サーカスが見たかったんだ。でも、サーカスを見られるのは人間だけなんだって」
耳も尻尾もたれ下がったコロは、とても可哀想です。
ミーミは少し考えて、良い事を思い付きました。
「だったら、私たちで動物のためのサーカスをやりましょうよ」
「どういう事?」
よく分からないけれど、何だかとても楽しそうです。
ミーミは得意気に言います。
「町中の動物たちに声をかけて、サーカスを開くのよ。出演者もお客さんも、全部私たち動物なの。ステキでしょ?」
「すごいや! ボク、楽しみになってきたよ」
コロは元気が出てきました。
「じゃあアタシ、ネコのみんなに伝えてくるわ」
「ボクもお友だちみんなに伝えるよ」
コロとミーミのサーカスの話は、あっという間に町中の動物たちに広まりました。
「動物による動物のためのサーカスだって? 面白そう!」
「日時は一週間後の夜の公園か」
「絶対行くぞ! オレの技を見せてやる」
みんな一生懸命、サーカスに向けて特訓をします。
コロも犬の仲間といっしょに、毎日特訓をしました。
そして一週間後の夜が訪れました。
公園にはたくさんの動物が集まります。
動物サーカスの始まりです!
「おほん。さて、みなさん、空にご注目。まずは鳥たちによる空中演舞です」
司会のハクビシンがそう言うと、みんな空を見上げます。
「カァー」というカラスの合図と共に、スズメやハト、ムクドリたちが一斉に空を飛び回りました。
鳥たちは口や足に、ガラスやビン、鏡などを持っています。
夜空にチカチカと反射して、まるで星が空を飛んでいるようです。
「キレイだなぁ」
コロもみんなも口をあけて空に見とれています。
すると突然、ネコたちがピョーンと前へ出てきました。
「さて、お次はネコたちの空中跳びです」
ハクビシンの言葉を合図に、ネコたちは公園の高い木に登り、ピョンっと跳び移ります。
木から木へ、とても軽やかです。
もし跳び移れなくても、大丈夫。
ネコたちはスタッとキレイに着地します。
「かっこいい!」
コロが歓声を上げると、ミーミは優雅にみんなの前に立ち、おじぎをしました。
「次は魚とカメ、ネズミたちの共演、はっそう跳びです」
みんなが公園の池を見ると、コイやカメたちが顔を出します。
そして彼らは背中を水面から出し、対岸に向かって一列に並びました。
「行くっチュー!」
たくさんのネズミたちが、次から次に、コイやカメの背を舟がわりにして池を渡ります。
まるで水面を走っているかのようです。
「すごい! 忍者みたいだ」
コロは尻尾をブンブンと振りました。
「さて、最後はイヌたちによる多玉転がしです」
いよいよコロの出番です。
たくさんの犬たちが、ボールを持って輪になります。
コロもサッカーボールを前に、輪に入ります。
「ボクもがんばるぞ!」
コロが「ワンッ」という合図を送ると、みんな一斉にボールをパスし始めました。
このボール回しが、コロの特訓の成果です。
「やるじゃない」
他の動物たちが歓声を上げる中、ミーミも楽しそうに多玉転がしを見つめます。
でも、コロたちの技はそれだけではありません。
もう一度コロが「ワンッ」と鳴くと、犬たちはパスを止めてドリブルを始めました。
たくさんの犬たちが、誰にもぶつかる事なく、華麗にボールを操ります。
コロも一生懸命ボールを転がしました。
最後はみんなで「ワオーン」と鳴いて、おしまいです。
「以上、全ての演目が終わりました。みなさん素晴らしいパフォーマンスでしたね。お疲れ様でした」
ハクビシンのあいさつが終わった後も、歓声は止みません。
みんなみんな、大満足の大喜び。
動物サーカスは大成功で幕を下ろしました。
その帰り道。
コロとミーミはまだ夢見心地のまま歩きます。
サーカスを見るのも出るのも、両方体験できるなんて、こんな贅沢な日はなかなかありません。
「あぁ、楽しかったなぁ」
「そうね。また面白い事を思いついたら、みんなでやりましょう」
コロとミーミは顔を見合わせて笑いました。