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ツンデレギツネ

作者: 賽子ちい華
掲載日:2018/11/10


 ある国の出来事です。



 王様は、隣の国から王子を招きました。

 王子をお姫様と結婚させて、次の王様にしようとしたのです。


 招かれた王子は、お姫様のことをすぐに好きになりました。

 お姫様が、とても美しかったからです。


 ある日、王子はお姫様が好きで好きでたまらなくなります。

 それで、衛兵と番犬を斬りつけて、お姫様の寝室に忍び込んでしまいました。


 これには、お姫様も驚いて、キャーっと悲鳴をあげました。


 悲鳴を聞いて駆けつけたのは、お城の魔女です。

 魔女は、魔法で部屋を煙で包みます。


 そして、煙が無くなると、お姫様はいなくなっていました。

 部屋の中には、王子とカエル一匹だけが残っておりました。


 魔女は王子に言います。


「王子様、あなたは悪い人です。

 だから、私はお姫様を隠しました」


 王子は悲しくて泣きました。


「そんなぁ、お姫様ぁ、愛しいお姫様ぁ」


 泣いている王子に、魔女はチャンスとヒントを与えます。 


「王子様、あなたは心を入れかえなさい。

 そして、お姫様をちゃんと愛しなさい。

 それができたなら、国のどこかにいる動物にキスをしてあげなさい。

 そうしたら、お姫様にもう一度会えるでしょう」


 それを聞いて、王子は喜びます。

 王子は、お姫様を探す旅に出たのでした。






 それからしばらく経った、ある日。


 お城の近くの森の中で、一匹のキツネが食べ物を探しておりました。

 キツネはその日、食べ物がなかなか見つかりなくて困っていました。

 だから、普段は行かない湖のほとりまで来てしまっていたのです。


 キツネは、ふと気がつきます。

 湖のほとりに、一人の青年がいたのです。


(逃げなくちゃ!)


 キツネはそう思って、逃げようとします。

 そうしたら、青年が両手を振って、キツネに何かを伝えようとしてきます。


(何かしら?

 でも、私が人間に近づくわけないじゃない)


 キツネは、気になりました。

 だけど、森の中へ逃げていきました。






 それから五日後。


 キツネは、食べ物を探していたら、また

湖のほとりまで来てしまっていました。

 すると、またあの青年に会いました。


(逃げなくちゃ!)


 キツネはそう思って、逃げようとします。

 そうしたら、青年が両手を振って、キツネに何かを伝えようとしています。


 ただ、この前と違うところがありました。

 それは、青年が両手に二つのオレンジを持っていることでした。


(あ! オレンジだ♡)


 キツネは、オレンジが気になって、逃げずに足を止めました。


 すると、青年はオレンジをキツネにポーンと投げてきました。


(バカじゃないの!

 キツネがオレンジなんて食べるわけないじゃない。

 でも、たまたま私はオレンジが好きなのよね♡)


 キツネは、オレンジを食べました。


 キツネが、オレンジを食べ終わった頃。

 青年は、もう一つのオレンジを投げてきました。


(か、かんちがいしないでよね!

 私は嬉しくなんてないんだから。

 でも、食べ物は大事!

 せっかくだから、もらっていこう)


 キツネは、オレンジをくわえます。

 そして、森の中へ逃げていきました。






 それから四日後。


 キツネは食べ物を探していたら、また湖のほとりまで来てしまっていました。

 すると、またあの青年に会いました。


(また、いるわね)


 キツネはそう思って、足を止めました。

 すると、青年はまたオレンジをキツネに投げてきます。


(あ! オレンジだ♡)


 キツネは、オレンジを食べました。


 すると青年は、今度はその場に座ります。

 そして、もう一つのオレンジを自分の隣に置きました。


(か、かんちがいしないでよね!

 信用なんてしてないんだから。

 でも、オレンジは好きだからもらっていこう)


 キツネは、オレンジをとりにいきます。

 青年は、優しい微笑みでキツネを見つめてきます。


(なんなのかしら?)


 キツネは、そう不思議に思います。

 でも、キツネはオレンジをくわえます。

 そして、森の中へ逃げていきました。






 それから三日後。


 キツネは、湖のほとりまで来ていました。

 すると、またあの青年に会いました。


(あ、やっぱりいる!)


 キツネはそう思って、足を止めました。


 今日は、青年は座っています。

 そして青年の隣には、オレンジが置いてありました。


(か、かんちがいしないでよね!

 信用なんてしてないんだから。

 でも、オレンジは好きだから食べていこう)


 キツネは、青年の隣にいってオレンジを食べました。

 青年は、優しい微笑みでキツネを見つめてきます。


(なんなのかしら?)


 キツネはそう不思議に思って、青年の微笑んだ顔を見つめていました。


 しばらくして、青年がもう一つのオレンジを差し出してきました。


 キツネは、オレンジをくわえます。

 そして、森の中へ帰っていきました。






 それから二日後。


 キツネは、湖のほとりまでやって来ました。

 すると、またあの青年に会いました。


(あ、やっぱりいる♡)


 キツネはそう思って、足を止めました。


 青年は、今日も座っています。

 そして、青年の隣には、オレンジが置いてありました。


(オレンジは好き♡ 食べていこう)


 キツネは、青年の隣にいってオレンジを食べました。

 すると、青年が優しく微笑みながらキツネの背中を撫でてきました。


(か、かんちがいしないでよね!

 信用なんてしてないんだから。

 でも、オレンジ食べてる間だけなら触っててもいいかもね)


 キツネがオレンジを食べ終わると、青年がもう一つのオレンジを差し出してきました。


 キツネは、オレンジをくわえます。

 そして、森の中へ帰っていきました。






 次の日。


 キツネは、湖のほとりに行きました。

 すると、またあの青年に会いました。


(あ! いた!)


 キツネはそう思って、足を止めました。


 青年は、今日も座っています。

 そして、青年の隣にはオレンジが置いてありました。


(また、背中を撫でてくるかしら?)


 キツネがオレンジを食べていると、やっぱり青年が、優しく微笑みながらキツネの背中を撫でてきました。


 そして、キツネがオレンジを食べ終わると、青年が、もう一つのオレンジを差し出してきます。


 キツネは、もう一つのオレンジも青年の隣で食べました。

 すると、青年が優しく微笑みながら、またキツネの背中を撫でてきました。


(か、かんちがいしないでよね!

 嬉しくなんてないんだから。

 撫でるの好きみたいだから、オレンジのお礼に触らせてあげてるだけだからね!)


 そう思いつつ、キツネは青年の隣に、しばらく座っておりました。






 そんな風に、キツネと青年は毎日過ごすようになったある日のこと。



 人間の女と男が、湖のほとりまでやって来ました。

 キツネと青年は、それを遠目に見ておりましたが、何か様子が変でした。

 女の人は男から逃げて、男は女の人を追いかけているようです。


 男が何かを言っています。


「僕は王子だよ。何が気に入らないのさ。

 一緒に楽しく遊ぼうよ」


 女の人は、とても怯えた様子です。

 キツネは、女の人がかわいそうに見えました。

 キツネは、男が何となく嫌いでした。

 だから、邪魔をしに男の前に飛び出したのです。


「なんだ、このキツネは!」


 男は怖い顔をして叫びます。

 でも、キツネはひるまずに、女の人をかばってに立ち塞がりました。


(か、かんちがいしないでよね!

 人間を助けるわけじゃないわ。

 ただ、この男が気に食わないだけなんだから!)


「邪魔をするな! 斬り殺すぞ!」


 男は腰の剣を抜いて、キツネを斬りつけようとしました。


(あ、まずいかも……)


 キツネがそう思った時です。


 青年が男にキックをして、キツネを男から守ります。


「なんだ、こいつは! 殺してやる!」


 やられた男がすごく怒って、怖い顔で、今度は青年を斬りつけようとします。


(あ、あぶない!)


 キツネが青年を心配したその時です。


「待て! 王子よ!」


 遠くから、とても威厳のある声が飛んできました。


 その声に男は驚きます。

 そして男が振り向くと、そこには王様と魔女とメイドが立っていたのです。


 男は怯えた顔で言いました。


「お、王よ!」


 王様は男の呼びかけは無視して、魔女に言いつけます。


「魔女よ、あの者に罰を与えてやってくれ」


「待ってください王よ!

 私は隣の国の王子ですよ!

 私にそんなことをして良いのですか!

 それに、後継ぎがいなくなったら、困るでしょう?」


「バカ者が!

 女を怖がらせる者など王族でも、ましてや男でも無いわ!

 ただの獣だ!」


 そう言って、王様はたいへん怒っておりました。


 怒った王様の命令を受けて、魔女は魔法を使います。

 すると、男を煙が包み込んで山羊(どうぶつ)の姿に変えてしまいました。


 その後で、魔女は手のひらにカエルを出してみんなに見せます。

 そして、メイドに言いました。


「メイドよ、ごめんなさいね。

 今まで黙っていましたが、このカエルはそなたが愛している衛兵なのです。

 あの事件の時に、魔法でカエルの姿に変えていました。

 キスをして元に戻してあげなさい」


 そう言われて、メイドはカエルにキスをします。

 すると、カエルは煙に包まれます。

 そして、衛兵の姿に戻るのでした。





 今度は魔女は、山羊(やぎ)を見下ろして言いました。


「見ましたか、王子様?

 大丈夫ですよ。同じように、あなたを愛してくれる人を探してキスをしてもらいなさい。

 そうすれば、元の姿に戻れるでしょう」


 そう言った魔女ですが、今度はとても怖い顔をします。

 そして、大きな声で山羊(くず)に言いました。


「あなたのような男を愛する者など、獣にもいませんけどね!」


 山羊(おうじ)はとても怖くなります。

 そして森の中へ、逃げていきました。






 そんなやりとりのあと。

 王様と魔女と衛兵とメイドは、お城に帰っていきました。


「姫はどこに行ったのだろう?

 わしがあんな男を隣の国から招いたばっかりに、こんなことになってしまった」


 帰りながら、王様は心配そうに言いました。


 魔女は王様に言います。


「大丈夫ですよ、王様。

 きっともうすぐ、お姫様はお戻りになられるでしょう」


 そう言って、キツネの方をチラリと見て、帰っていくのでした。





 さて、残されたのは、キツネと青年と女の人です。


 助けられた女の人は、顔を赤くして青年の方を向いています。

 キツネは、なんだか心がモヤモヤしました。


(わ、私には関係ないんだから!)


 キツネがそう思っていると、女の人が青年を見つめながら言いました。


「あの、ありがとうございます。

 ぜひ、お礼がしたいので私の家まで……ひっ!」


 女の人が話している途中で、キツネは青年と女の人の間に飛び出してきました。

 そして、キツネは牙をむいて、女の人をにらみます。

 だから、女の人は驚いて、逃げていってしまいました。


(あれ…… 私、何をしているんだろう。

 あいつ、怒ったかな?)


 キツネはそう思って、おそるおそる後ろを振り向きます。

 すると、青年が優しく微笑んでキツネを見つめていたのでした。






 それから、しばらく経ったある日。


 キツネと青年は、湖のほとりで過ごしておりました。

 オレンジはないけれど、キツネは青年に背中を撫でさせて、気持ち良さそうにしています。


 ふとキツネが青年の方を向くと、青年もキツネの方を向いて、今度はキツネの首のやわらかな毛を撫でてきました。


(か、かんちがいしないでよね!

 毛づくろいしようと思った場所だったの!

 だから、触らせてあげてるだけなんだからね!)


 キツネはそう思いつつ、気持ち良さそうにしています。

 すると今度は、青年の両手がキツネのほっぺに触れてきました。


(な、なによ!

 か、かんちがいしないでよね!

 私はあんたのことなんか……)


 キツネはそう思いながら、目をつぶっていました。

 それに応え、青年はキツネに優しくキスをしました。





 すると、キツネと青年は煙に包まれます。

 煙の中で、キツネは全てを思い出しました。


 そうです。

 キツネはあの時に、姿を変えられたお姫様だったのです。


 煙が晴れて、キツネから元の美しい姿に戻ったお姫様は、涙をその目に浮かべています。


 そしてキスをしてくれた、目の前の者に言うのです。


「ずっと、探してくれていたんだね。

 ずっと、待っていてくれたんだね。

 私が心を開くまで、何度も何度も、会いに来てくれたんだね。

 ありがとう……ありがとうポチ!」



 「 わん♡ 」





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― 新着の感想 ―
[良い点] 伏線がきちんと回収されているのですね。 冒頭で、衛兵と番犬が……のシーン、 残酷に思えたので、読了したら安心しました。 [気になる点] 寓意、たしかに織り込まれていますね。 [一言] 和み…
[良い点] ぽ ち だ っ た の か 。 王子が途中退場しちゃってどうなるのかと思いきや…。 愛は愛でも恋愛ではなかった。 でもまあ、ハッピーエンドだよね。 [一言] 一緒に切られた衛兵がカエルか…
[良い点] まさか、犬だとは思いませんでした。 最後に盛大に笑ってしまったのは仕方がないです。許してください。 『美しい鷹』の方でも言いましたが、文章が読みやすくて良いと思います。 ポチ好きです。ポ…
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