ツンデレギツネ
ある国の出来事です。
王様は、隣の国から王子を招きました。
王子をお姫様と結婚させて、次の王様にしようとしたのです。
招かれた王子は、お姫様のことをすぐに好きになりました。
お姫様が、とても美しかったからです。
ある日、王子はお姫様が好きで好きでたまらなくなります。
それで、衛兵と番犬を斬りつけて、お姫様の寝室に忍び込んでしまいました。
これには、お姫様も驚いて、キャーっと悲鳴をあげました。
悲鳴を聞いて駆けつけたのは、お城の魔女です。
魔女は、魔法で部屋を煙で包みます。
そして、煙が無くなると、お姫様はいなくなっていました。
部屋の中には、王子とカエル一匹だけが残っておりました。
魔女は王子に言います。
「王子様、あなたは悪い人です。
だから、私はお姫様を隠しました」
王子は悲しくて泣きました。
「そんなぁ、お姫様ぁ、愛しいお姫様ぁ」
泣いている王子に、魔女はチャンスとヒントを与えます。
「王子様、あなたは心を入れかえなさい。
そして、お姫様をちゃんと愛しなさい。
それができたなら、国のどこかにいる動物にキスをしてあげなさい。
そうしたら、お姫様にもう一度会えるでしょう」
それを聞いて、王子は喜びます。
王子は、お姫様を探す旅に出たのでした。
それからしばらく経った、ある日。
お城の近くの森の中で、一匹のキツネが食べ物を探しておりました。
キツネはその日、食べ物がなかなか見つかりなくて困っていました。
だから、普段は行かない湖のほとりまで来てしまっていたのです。
キツネは、ふと気がつきます。
湖のほとりに、一人の青年がいたのです。
(逃げなくちゃ!)
キツネはそう思って、逃げようとします。
そうしたら、青年が両手を振って、キツネに何かを伝えようとしてきます。
(何かしら?
でも、私が人間に近づくわけないじゃない)
キツネは、気になりました。
だけど、森の中へ逃げていきました。
それから五日後。
キツネは、食べ物を探していたら、また
湖のほとりまで来てしまっていました。
すると、またあの青年に会いました。
(逃げなくちゃ!)
キツネはそう思って、逃げようとします。
そうしたら、青年が両手を振って、キツネに何かを伝えようとしています。
ただ、この前と違うところがありました。
それは、青年が両手に二つのオレンジを持っていることでした。
(あ! オレンジだ♡)
キツネは、オレンジが気になって、逃げずに足を止めました。
すると、青年はオレンジをキツネにポーンと投げてきました。
(バカじゃないの!
キツネがオレンジなんて食べるわけないじゃない。
でも、たまたま私はオレンジが好きなのよね♡)
キツネは、オレンジを食べました。
キツネが、オレンジを食べ終わった頃。
青年は、もう一つのオレンジを投げてきました。
(か、かんちがいしないでよね!
私は嬉しくなんてないんだから。
でも、食べ物は大事!
せっかくだから、もらっていこう)
キツネは、オレンジをくわえます。
そして、森の中へ逃げていきました。
それから四日後。
キツネは食べ物を探していたら、また湖のほとりまで来てしまっていました。
すると、またあの青年に会いました。
(また、いるわね)
キツネはそう思って、足を止めました。
すると、青年はまたオレンジをキツネに投げてきます。
(あ! オレンジだ♡)
キツネは、オレンジを食べました。
すると青年は、今度はその場に座ります。
そして、もう一つのオレンジを自分の隣に置きました。
(か、かんちがいしないでよね!
信用なんてしてないんだから。
でも、オレンジは好きだからもらっていこう)
キツネは、オレンジをとりにいきます。
青年は、優しい微笑みでキツネを見つめてきます。
(なんなのかしら?)
キツネは、そう不思議に思います。
でも、キツネはオレンジをくわえます。
そして、森の中へ逃げていきました。
それから三日後。
キツネは、湖のほとりまで来ていました。
すると、またあの青年に会いました。
(あ、やっぱりいる!)
キツネはそう思って、足を止めました。
今日は、青年は座っています。
そして青年の隣には、オレンジが置いてありました。
(か、かんちがいしないでよね!
信用なんてしてないんだから。
でも、オレンジは好きだから食べていこう)
キツネは、青年の隣にいってオレンジを食べました。
青年は、優しい微笑みでキツネを見つめてきます。
(なんなのかしら?)
キツネはそう不思議に思って、青年の微笑んだ顔を見つめていました。
しばらくして、青年がもう一つのオレンジを差し出してきました。
キツネは、オレンジをくわえます。
そして、森の中へ帰っていきました。
それから二日後。
キツネは、湖のほとりまでやって来ました。
すると、またあの青年に会いました。
(あ、やっぱりいる♡)
キツネはそう思って、足を止めました。
青年は、今日も座っています。
そして、青年の隣には、オレンジが置いてありました。
(オレンジは好き♡ 食べていこう)
キツネは、青年の隣にいってオレンジを食べました。
すると、青年が優しく微笑みながらキツネの背中を撫でてきました。
(か、かんちがいしないでよね!
信用なんてしてないんだから。
でも、オレンジ食べてる間だけなら触っててもいいかもね)
キツネがオレンジを食べ終わると、青年がもう一つのオレンジを差し出してきました。
キツネは、オレンジをくわえます。
そして、森の中へ帰っていきました。
次の日。
キツネは、湖のほとりに行きました。
すると、またあの青年に会いました。
(あ! いた!)
キツネはそう思って、足を止めました。
青年は、今日も座っています。
そして、青年の隣にはオレンジが置いてありました。
(また、背中を撫でてくるかしら?)
キツネがオレンジを食べていると、やっぱり青年が、優しく微笑みながらキツネの背中を撫でてきました。
そして、キツネがオレンジを食べ終わると、青年が、もう一つのオレンジを差し出してきます。
キツネは、もう一つのオレンジも青年の隣で食べました。
すると、青年が優しく微笑みながら、またキツネの背中を撫でてきました。
(か、かんちがいしないでよね!
嬉しくなんてないんだから。
撫でるの好きみたいだから、オレンジのお礼に触らせてあげてるだけだからね!)
そう思いつつ、キツネは青年の隣に、しばらく座っておりました。
そんな風に、キツネと青年は毎日過ごすようになったある日のこと。
人間の女と男が、湖のほとりまでやって来ました。
キツネと青年は、それを遠目に見ておりましたが、何か様子が変でした。
女の人は男から逃げて、男は女の人を追いかけているようです。
男が何かを言っています。
「僕は王子だよ。何が気に入らないのさ。
一緒に楽しく遊ぼうよ」
女の人は、とても怯えた様子です。
キツネは、女の人がかわいそうに見えました。
キツネは、男が何となく嫌いでした。
だから、邪魔をしに男の前に飛び出したのです。
「なんだ、このキツネは!」
男は怖い顔をして叫びます。
でも、キツネはひるまずに、女の人をかばってに立ち塞がりました。
(か、かんちがいしないでよね!
人間を助けるわけじゃないわ。
ただ、この男が気に食わないだけなんだから!)
「邪魔をするな! 斬り殺すぞ!」
男は腰の剣を抜いて、キツネを斬りつけようとしました。
(あ、まずいかも……)
キツネがそう思った時です。
青年が男にキックをして、キツネを男から守ります。
「なんだ、こいつは! 殺してやる!」
やられた男がすごく怒って、怖い顔で、今度は青年を斬りつけようとします。
(あ、あぶない!)
キツネが青年を心配したその時です。
「待て! 王子よ!」
遠くから、とても威厳のある声が飛んできました。
その声に男は驚きます。
そして男が振り向くと、そこには王様と魔女とメイドが立っていたのです。
男は怯えた顔で言いました。
「お、王よ!」
王様は男の呼びかけは無視して、魔女に言いつけます。
「魔女よ、あの者に罰を与えてやってくれ」
「待ってください王よ!
私は隣の国の王子ですよ!
私にそんなことをして良いのですか!
それに、後継ぎがいなくなったら、困るでしょう?」
「バカ者が!
女を怖がらせる者など王族でも、ましてや男でも無いわ!
ただの獣だ!」
そう言って、王様はたいへん怒っておりました。
怒った王様の命令を受けて、魔女は魔法を使います。
すると、男を煙が包み込んで山羊の姿に変えてしまいました。
その後で、魔女は手のひらにカエルを出してみんなに見せます。
そして、メイドに言いました。
「メイドよ、ごめんなさいね。
今まで黙っていましたが、このカエルはそなたが愛している衛兵なのです。
あの事件の時に、魔法でカエルの姿に変えていました。
キスをして元に戻してあげなさい」
そう言われて、メイドはカエルにキスをします。
すると、カエルは煙に包まれます。
そして、衛兵の姿に戻るのでした。
今度は魔女は、山羊を見下ろして言いました。
「見ましたか、王子様?
大丈夫ですよ。同じように、あなたを愛してくれる人を探してキスをしてもらいなさい。
そうすれば、元の姿に戻れるでしょう」
そう言った魔女ですが、今度はとても怖い顔をします。
そして、大きな声で山羊に言いました。
「あなたのような男を愛する者など、獣にもいませんけどね!」
山羊はとても怖くなります。
そして森の中へ、逃げていきました。
そんなやりとりのあと。
王様と魔女と衛兵とメイドは、お城に帰っていきました。
「姫はどこに行ったのだろう?
わしがあんな男を隣の国から招いたばっかりに、こんなことになってしまった」
帰りながら、王様は心配そうに言いました。
魔女は王様に言います。
「大丈夫ですよ、王様。
きっともうすぐ、お姫様はお戻りになられるでしょう」
そう言って、キツネの方をチラリと見て、帰っていくのでした。
さて、残されたのは、キツネと青年と女の人です。
助けられた女の人は、顔を赤くして青年の方を向いています。
キツネは、なんだか心がモヤモヤしました。
(わ、私には関係ないんだから!)
キツネがそう思っていると、女の人が青年を見つめながら言いました。
「あの、ありがとうございます。
ぜひ、お礼がしたいので私の家まで……ひっ!」
女の人が話している途中で、キツネは青年と女の人の間に飛び出してきました。
そして、キツネは牙をむいて、女の人をにらみます。
だから、女の人は驚いて、逃げていってしまいました。
(あれ…… 私、何をしているんだろう。
あいつ、怒ったかな?)
キツネはそう思って、おそるおそる後ろを振り向きます。
すると、青年が優しく微笑んでキツネを見つめていたのでした。
それから、しばらく経ったある日。
キツネと青年は、湖のほとりで過ごしておりました。
オレンジはないけれど、キツネは青年に背中を撫でさせて、気持ち良さそうにしています。
ふとキツネが青年の方を向くと、青年もキツネの方を向いて、今度はキツネの首のやわらかな毛を撫でてきました。
(か、かんちがいしないでよね!
毛づくろいしようと思った場所だったの!
だから、触らせてあげてるだけなんだからね!)
キツネはそう思いつつ、気持ち良さそうにしています。
すると今度は、青年の両手がキツネのほっぺに触れてきました。
(な、なによ!
か、かんちがいしないでよね!
私はあんたのことなんか……)
キツネはそう思いながら、目をつぶっていました。
それに応え、青年はキツネに優しくキスをしました。
すると、キツネと青年は煙に包まれます。
煙の中で、キツネは全てを思い出しました。
そうです。
キツネはあの時に、姿を変えられたお姫様だったのです。
煙が晴れて、キツネから元の美しい姿に戻ったお姫様は、涙をその目に浮かべています。
そしてキスをしてくれた、目の前の者に言うのです。
「ずっと、探してくれていたんだね。
ずっと、待っていてくれたんだね。
私が心を開くまで、何度も何度も、会いに来てくれたんだね。
ありがとう……ありがとうポチ!」
「 わん♡ 」




