樹海へ行こう31話
だがこんな僕に何があるのか
自虐的な自分史しか
語るものはなかった
でも、こんな歪なきずなでも
ひとは集まって、一時の夢を見れたのだ
人の弱っている様を見ることが
安心できると知ってる僕だからこそ
あきれられ、軽蔑されてもいい
彼女の気持ちを和らげたいと
樹海へ行こうと言うサークルの話をした。
高橋さんは、はじめは驚いたものの
だんだんと話に聞き入ってくれた。
「医療に携わるものが言うのはなんだけど、人ってどうして自分の死を
自分じゃ決められないんだろうと思う、生きてる方がつらいことってあるよね
がんばっても、がんばってもだめなときに、それでも生きていればとか
嘘だよとか思うことがあるよ」
僕は彼女から嫌われると思っていたのだが、そんな感想ではなく少しほっとしたし
僕もこの体験を誰かに話したかったのだとその時に気が付いた。
「つらかったね、でも、、でも私は生きててくれてよかったって思う」
高橋さんがその言葉をかけてくれたとき
僕は思わず泣いていた。
誰にも気にも留められず、誰にもかかわることのない僕は
そんな言葉を求めていたのだ。
心に深い傷のある高橋さんだからこそ出た言葉だと思う。
こんな時に男は女性にHな衝動を感じてそうなるものかもしれないが
僕と高橋さんはそんなことを考えることすらできなかった。
ただ、お互いが本当の意味での渇望をしていたのだ。
長い夜を僕らは際限もなく、いろんなことを語りあった。
ネットではない生の声、表情、リアルでしか味わえない意識の交換がそこにあった。