樹海へ行こう27
「いさおさんが、戻ってきたらいなくて、近くを探したんだけど」
ソニアさんが動揺を隠せずに言う。
「大分酔ってたから、、、」
あるいは樹海にと迷い込んだのかもしれない。
「それは、それでありでしょ」
ナーガさんが言った。
「みんな睡眠薬は持ってるんだし、あとは本人の自由で」
そう、僕らは睡眠薬をはじめに、わけて持っていたのだ。
みんな片手にペットボトルを持ち、飲むだけのだんどりになっている
「いまさら、集団でってこともないか」
僕もそう漏らしていた。
「ところで、トンさんは?」
カオルさんが姿を現さないトンさんに気が付いたのか、僕らに問いかけた。
僕らはありのままを二人に伝えた。
「そっか、まだ、あの人はやり直す余裕があるかもね」
ソニアさんが納得したように言うと、カオルさんもうなずいた。
「ぐずぐずしてたら、日が暮れてしまうから、もう行こう」
ナーガさんがそう即して、僕らは樹海の中へと足を運んだ。
トンさんが死の間際に逃げたことや、イサオさんの行方など、もやもやするがいまここにきてはどうすることもできない。
僕らは僕らの道を行くしかないのだから、それに、仲間はまだ残っている。
そのことが心強く思えた。
思えば変な話だ。
死ぬのに他人をさそって自殺するなんて、何とも矛盾していることだろう。
でも、僕らはそういう弱い人間だから、最後にそばに誰かいてくれる安心感は
本当に死ぬ勇気を与えてくれるのだ。
鬱蒼と茂った樹海の中を僕らは奥の方へと向かった。
死ぬのにふさわしいだろう
おとぎ話の中のような場所を求めて。
大分あるき疲れたし、あまり遅くなると日が沈んでしまうだろうと言うことで
僕らは死にすための棺を見つけた。
大木の下にうねる木の根のあたりに、ちょうどいいくぼみが人数分あたったのだ。
近すぎず、離れすぎすに僕らの眠る場所は
木々の葉の隙間から木漏れ日が少しは入るとても美しい場所だった。
「ここにしましょう、なんだか童話に出てくる森のようね」
カオルさんがはしゃいだように、その場所に座った。
僕らもおのおのが、自然の棺のなかに収まり、みんなで睡眠薬をあおった。
「おやすみ」
最後のあいさつはおやすみでと言うカオルさんの提案で、僕らはおやすみといいながら
地面に体を横たえた。
おだやかな顔のナーガさんが言う「おやすみ」
童話の中の王女様のように、幸せを見つけたような笑みを浮かべたカオルさんが「おやすみなさい」と言う。
荒れた茶髪の髪が今はふんわりと輝いて、聖女のように美しい笑みを浮かべたソニアさんが「じゃあね、いい夢をおやすみ」と言う。
僕は言い知れぬ幸福感を感じながら、みんなの顔を見回し「お休み」と別れを告げた。
大地に横たわると上空は鬱蒼とした木が生い茂ってはいるのだが、それでもその隙間から、光がキラキラと輝いている。
そして、葉の向こうにある青い空がちらりと見え隠れするのだ。
僕は子供のころ以来、こんな美しい光景をみたことがないと思った。
子供のころはあんなにも世界は輝いて美しかったのに、いままで世界は灰色につつまれていたのだ。
この美しい世界で静かに消えていける自分に満足し、僕は瞼を閉じた。