樹海25
僕らがついた樹海は
思ったよりも観光化されていて
人が死んでいくのには
少し俗っぽい気もしたが
今はもうそんなことよりも
最後のパーティをやりたくて
わくわくしていた。
自動車を駐車場に止めて
僕らはビニール袋を手に
樹海のまだ奥深くないところに
ビニールシートを敷いた。
変な連中が酒盛りしてると警戒されないように
一応人目を避けた場所を選んだ。
「ここなんかいいですね」
樹海の木のねっこは、溶岩の中にもぐりこめず
地表に太くうねっているので
平らでいい場所を探すのに手間どったが
適度な場所を選んで、みんなで仮の休息を楽しむことにした。
紙のカップに缶ビールにワインにチューハイ
あまり飲みすぎて動けなくなるといけないので
ある程度はセーブするために、他のジュースも買ってある。
とんさんの
「樹海で逝こうツアーの成功を願って乾杯」
などと言う陽気な音頭で、僕らは楽しくお酒や
おつまみを食べた。
今生の最後の食べ物なのだ。
楽しく、おいしく食べようではないか。
「こんなに楽しい酒は久しぶりです」
いさおさんが顔を赤らめてにこにこ笑って言った。
「働いてたころは、よく同僚たちと行って、これも仕事なんだとか言ってましたねえ」
懐かしむその目に少し涙が浮かんだ。
「こんな、お酒も飲めなくなるなんて、思いもしなかったなあ、リストラなんて誰が考えたんだろ」
とんさんが答えた。
「社員を守るのが社長やら組合の仕事だけど、今はそんなモラルなんかないですからね。本来ならみんなの給与を安くして乗り切れなかったらするべきだけど、今の会社は社長が何年もやるわけではなから自分の番に給料が安くなると困るから、組合とかとの談合して、社員をリストラするんですよ。株主対策だとか、いいながら、本音はそこですね」
「長年勤めたエンジニアを放出して、そこから海外に技術移転されても、自分のいるときに問題がなければいい、そんな上ばかりがいるから、日本って低迷していくんだよね」
ナーガさんもため息をついた。
「人を切れば、その分の賃金は浮くけど、消費力も落ちるから、物が売れなくなって、不景気になるってことも分からないのかしら」
かおるさんがつぶやく
「わかっててやってるんですよ。自分達は別だから影響はない、それよりも僕らを下層に落として、安い賃金でこき使って、自分達は世界でも有数の資産家になりたい、そんな経営者ばかりですからね」
僕は倒産して、自分達だけは逃げ切った元の会社社長を思い浮かべた。
「バカじゃないの?そんなことしてもいつかは自分もだめになるってわからないのかしら」
そうわからないのだ、自分だけは特別と思う奴らには、そんな想像力はない。
僕らだってこんな目にあうとは思わなかったのだから。