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樹海へ行こう19話

みんなの秘密を知っている。

リアルに出会うとチャットの向こう側のイメージとしっくりこなかったが

生身になれないだけで、会話をすればまた違うのだろうと

何げなく観察してしまった。

ソニアさんは風俗店で働いるはずなので、とびきり派手で肉感的な女性を想像していたが

そのイメージとは真逆で、痩せぎすでうつむき加減の地味な女性だった。

女性は化粧をすれば変わると言うけれど、それでもあまり派手にはならない感じがする。

それは彼女にまつわる、無気力で枯れたような感じからではないだろうか。

四十代だと言うのに、申し訳ないが六十はすぎた人のように見える。

薄いメークに痛みきった髪の毛にシワの多い顔は苦悶の影が見え隠れして

彼女を疲れきったように見せていた。

前に語った彼女の人生が彼女を追いつめているんだろう。

「世間は生きてれば何とかなるって言うけど、何にもならないんだよね。

道は閉ざされていて、良くなることなんかない。

悪くなって疲れだけが残って最後に死ぬだけなら、余計な苦労を継続していくのが苦痛なんだよね。

私だって人並みの生活が送りたい。だんなが親戚にだまされて連帯保証人になったばっかりに

大丈夫だからなってくれとか言った親戚なんかどっかに行方くらませてさ

私たちは自分のユメだった家売ったり、貯金や保険をおろしたり。

それでも、まじめにがんばったのに、悪運って重なるんだよね子供がさ交通事故で死んじゃって

夫の心が折れちゃった。酒におぼれて、さらに借金まみれになって、仕方なく働きにでたけど

返せる額じゃなくなっていくから、ホステスから風俗にあっと言うまに堕ちたよ。

嫌だけど仕方ない旦那のためと思ってるのに、今度は旦那がそれをなじって暴力ふるわれて

なんで私はここにいて、こんなに辛い思いをしなきゃなんないんだろって、ばかばかしくなったの

自分達が苦労して手に入れた幸せを、自分達のせいじゃないのに、簡単にとられて、風俗までして

子供はいなくなり、旦那も壊れてさ、守るもんなんてどこにもないのに、何してんのかな?って

この先ドラマみたいなすばらし幸せな展開なんかおこるはずもないんだから、辛いだけ無駄な気が

するんだよね」

ソニアさんの語った過酷な過去が僕の脳裏によみがえった。

希望のない未来に何をささえに生きていけばいいのか?

人は簡単にそのうち何とかなると言うけど、それは所詮他人ごとで、本人にしかどうすることもできないし、また本人ですらどうもできないのだ。

ナーガさんだってそうだ。

本人がどれだけがんばっても、この世の中は運のいいものと悪いもの、要領のいいものと悪いものがいる。

優しい心だけでは生きてはいけないのだ。

皮肉でいつも粋な言い回しで僕らを笑わせるナーガさんだが。

実際は背の高いやせ形の暗い感じの男性だった。

僕はもっとちゃめっけのある人を想像してたのだが、そんなものだろう

ネットでは誰しもある程度の仮面をかぶっているのかもしれない。

ナーガさんはこの先に絶望した人だ。

男性の就職は20代できめないとあとはろくなところがないそうだ。

日本が新卒か即戦力主義と言うくだらない主義にはまっているから中途半端な人間の行き場は

その日ぐらしの不安定な職しかないのが現状だろう。

彼は内定していた会社が赤字のために内定を取り消され、そのあと入った企業がブラック企業だった。

名ばかりの管理職に抜擢されはりきったのはいいものの、待遇は普通の社員以下だた。

残業は百時間を越えても払って貰えない。

悪くすれば泊まりもあったが、給与は社員に管理職名目の1万だけで、日曜出勤もざらだった。

上司からのパワハラを毎日のようにうけ、だんだんと自分がおかしくなっているのに気がつかないで

最後に過労で倒れて入院し、そのためにムリヤリ退職に追い込まれた。

当時は自分は上司の言う通りの仕事のできない人間だと思っていたらしい。

しかし、だんだんと会社のやりくちが世間でも批判されるようになると、それがその企業の安い人件費で人間を使う方法であったのだと気がついたのだ。

裁判をしようにも、何年もたったあとだったし、彼は今も鬱病にかかり、身体も心疾患にかかってしまったために、戦う気力さえない状態だ。

それに、彼の会社だけがそうなら納得はできるが、今の日本はどこもにたりよったりで、彼のような中途半端な年齢で持病持ちを雇う会社はない。

今はつなぎのフリーターをやっているが、どうなるか考えると夜も眠れないようだ。

資格を取っても、経験がなければだめだと言う。

育てる気のまったくない企業ばかりで、彼は未来に希望を持てないでいる。

もう未来はとざされているのが、今の若者の現状だろう。

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