樹海15
「顔色悪いけど、大丈夫?」
店の常連さんにも指定された。
高橋さんは僕と同年代の女性で、派手な顔立ちをしているが、看護士をしているまじめな人だ。
「大丈夫ですよ。高橋さんこそ、夜勤続きで大変じゃないですか?」
彼女は僕の体調の悪さもすぐに見抜けるのだろう。
彼女の職業柄なのかもしれないが、女性に優しい言葉をかけてもらえるのは嬉しい。
「まあ慣れたわよ、それよりお勧めないかな?」
「今日はいい新刊がありますよ」
僕の勤める書店は、若者向けの小説やエンターテイメントを多く取り扱っている。
彼女とは好きな作者が共通するので、暇な時間帯に来店した時は、しばしば話すことがあった。
僕はもう本を買う金はないし、今の状態では本を読む気にもなれない。
案内などをチェックすればある程度の内容がわかる。
この程度なら通常の対応ができる。
心は煉獄から逃れられない、だが無理矢理笑顔を作ってみせることはできる。
「身体、、大事にしてね」
高橋さんにそう言って貰うと少し心が、ほんわりとした。
こんな生活力もない男に優しくしてくれる女の人はいないのだから。
「樹海へ行こう」のホームページに書き込むのは登録が必要なので、めったに部外者はこないのだが、たまに心ない侵入者がいる。
「負け組どうしが、どうやっても現状なんか、変えられないんだよ。早く樹海へ行けよ。おまえら、努力もしないからだめなんだよ。早く死ねよ」
ひどい言葉が掲示板に書き込まれたり、チャットに乱入して来たりする。
こう言う奴は無視するが、それでも言葉を読めば痛い。