89、意志は受け継がれていく
「あああああ!! もう言わないで!! 恥ずかしくて死ねる! 飛び降りて死ぬ!!」
「あはははは!!」
レンがこっちを指さして爆笑。
この野郎! 覚えてろ!!
「人に! 指を! 指してはいけませんって!! 幼稚園で習わなかったのかな!!?」
「あ、ごめん。俺、幼稚園行ってないわ」
「元の世界でに決まってるだろうがぁぁ!!」
本気で叫んで、はぁはぁと肩で息をしながらレンを睨みつけると、彼はくすくすと笑いながらよしよしと頭を撫でてくれた。
くぅ、こんなんで懐柔なんてされないんだから。
されない……んだから……。
くそっ、気持ちいい……。
「いっそのこと“夜空の姫君”で“ダイヤモンド・プリンセス”とかでも良かったけどな」
「もうやめてぇぇぇぇ!!」
「あははは、そんな拗ねんなってば、あは、あははは……。俺が、ぶふっ、悪かったってば、あはは」
「……ねぇ、謝るんなら、せめて笑いを堪えようよ」
「ごめんって、ぶはっ」
……もう許してやるもんか。
完全に不貞腐れた私は、頬を膨らませてレンに背を向けた。
するとレンは笑いを引っ込めると、唐突に話題を変える。
「それで? 話ってなんだよ」
切り替え早すぎでしょ。最初からやってくれ。
私は不貞腐れたまま荷物から1枚の古びた紙切れを取り出す。
それをレンに見せると、彼は少し目を見開いた。
「これ、初代魔王の肖像画か……!?」
「そうだよ。これを、初代聖王の肖像画と合わせて見てみたいの」
肖像画まで案内して、と私が言うと、レンは何も言わずにその場所まで連れていってくれた。
____玉座の間の近く。
広い廊下の、壁にかかっている綺麗な額縁。
「“浮雲”」
レンが、初代魔王の肖像画を持って、初代聖王の肖像画のところまで浮く。そして、その切れ端同士を合わせた。
浮かび上がったのは、
2人の、椅子に座って向き合う王の絵。
「……これ……やっぱり……1枚の、絵だったんだ」
誰が破いたのかはわからないが、きっと、会談か何かの様子を描いた絵だろう。
ああ、本当に……2人は仲が良かったんだな。
ホッと息をつき、私は微笑む。
「驚いたよ。まさかこんな絵ができるなんて」
地上に降りてきたレンが、呟く。
そして私に初代魔王陛下の肖像画を渡してくれた。
ふと、裏返して紙を見てみる。
そこには、アルファベットで書かれた、誰かの名前。
一番最初に影夜国の、王家の紋章の印が捺してあるから、これはきっと初代魔王陛下の……。
「しょう……いち、」
震える声で、それを読み上げる。
「いちのせ」
……隣でレンが、息を呑む音がした。
対して私は、ああ、やっぱり、という気持ちだった。
だから、教えてくれてたんだね。おじいちゃん。
初代魔王陛下は、おじいちゃん、あなただったんだね。
おじいちゃんは、若くして死んでなんかいなかった。ここで、初代魔王として生きていたんだ。
一ノ瀬昭一。
あなたは私の……誇りです。
そして私はあなたの……跡継ぎです、おじいちゃん。
肖像画の片割れを抱きしめて、私は大きく息を吸い、また吐いた。
レンが飾られた初代の人間王の肖像画を見上げ、嘆息する。
「……まさか、本当に初代魔王が地球人だったなんてな。しかも……愛美の先祖とは」
「おじいちゃんなの。若くして死んだって、ずっと教えられてきたけど」
おじいちゃんは、ここの世界にトリップして、魔王になったのだ。
何かのきっかけで、二種族はすれ違ってしまったものの……、平和な世の中を作ろうとした初代魔王に。
「……意志は、受け継がれてく」
呟くように、レンが言う。
「俺も……初代聖王の意志を受け継がなきゃな。立派な王になって」
「うん……っ」
「バカ、何泣いてんだよ愛美」




