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87、初代王達の望んだ世界


更衣室に顔を見せたランスさんが、蕩けそうなほど甘い笑顔を見せる。騙されないぞアイドルフェイスめ。私がそこまでイケメンに弱いと思ったら、大間違いなんだから!


「では行きましょうか陛下。人間も魔族も広場ではかなりの数が集まっております。バルコニーから見下ろせば、それはそれは絶景ですよ」

「……そっか」


二種族が、同じ場所で、同じ光景を目にして、笑ってくれる。

それだけで、私は少しだけ、魔王になるという重責を軽くしてもらえている気がする。


髪を整え、深呼吸すると、私は戴冠式の行われる広いバルコニーに足を進めた。


____瞬間、沸き起こる拍手。

熱い歓声と溢れるほどの人の笑顔の数に、私は泣きそうになるのを堪えた。

ランスさんに教えられたとおりに、三人の四天王が待つバルコニーの中心部に行き、私はその場に目を閉じて跪いた。

三人の四天王が忠誠を誓うたびに、歓声が何度も湧き起こる。

それは、きっと魔族の声だけじゃなくて。


「我々、影夜国の公爵である“獣の王”“妖の王”“死の王”“智の王”は、ここにいるマナミ・イチノセを、第十三代魔王と認める!」


宣言と共に、そっと私の頭に、漆黒の王冠が乗せられる。

わっと沸き起こる歓声を鎮めるように、私は目を開けて立ち上がった。

そして集まった人たちに目を向ける。

途端、しん、と静まりかえる民衆。


少しは私は……威厳のある女王でいられているだろうか。


「愛美」


正装したレンが私の手を取り、バルコニーの少し出っ張っている部分まで連れて歩いてくれる。

そして歩きながら、小声で呟いた。


「結構似合ってる」


横目でレンの顔を見る。口角を吊り上げる少し意地悪な笑み。

私は少し頬を膨らませて見せた。


「馬子にも衣装って言いたいんでしょ。ちんちくりんで悪うござんしたね」

「そこまでは言ってないだろ」

「じゃあどこまでなの?」

「馬子にも衣装ってとこまで」


殴ったろか。


「____行って来い」


レンをお睨む間もなく、私はバルコニーの出っ張ってる部分に、私は背中を押されて進み出た。

目の前には、音声を拡大させる魔術がかかった拡声器(マイク)


……緊張は消えている。

ありがとう、レン。殴ったろかって思ってごめん。

私は深呼吸すると、言った。


『お初にお目にかかります。第十三代魔王に就任いたしました、一ノ瀬愛美です。今日のこの日は、皆様にこうやって集まって頂き、感激の至りです』


私の言葉を聞き洩らさぬように、皆が静かにしていてくれる。

私は安堵しながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


『私は所謂、平民の出です。魔王として城に招かれるまでは、普通の女の子として生きていました。……ですから堅苦しい言葉や、皆様を引っ張っていけるような言葉を、ここで言うことはできません。ただ、』


目を閉じ、この世界の時の流れに想いを馳せる。

……今私にできることは、なんだろうかと。


『せめて私は、皆様に誠実な王であろうと思います』


私は本来、人の上に立てるような人間ではないから。ただ、嫌なことがあれば声を上げるだけの、弱い民衆でいた方が楽だという人間だから。

だけど、もう、そうではいられない。


『すべての争いを排斥し、すべてを平和にすることはきっとできないでしょう。いつの時代でも、人間も魔族も醜く、戦いを繰り返す……それが人と言うものです。きっと今ここにも、相手の種族を許せない人がいると思います。

けれど、私はこの国の国王陛下と協力することで、二つの国を豊かにしたい。

それぞれが努力することで、努力した分だけの豊かさを手に入れられる、公平な世界を作りたいんです。

もう腕力と強さだけで、全てが決まる世界にはしたくない』


きっと、それが初代の二人の王が望んだ世界だから。

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