83、主は
冗談に冗談で返す余裕が出てきたことに、自分自身でホッとする。
恐怖がなくなったわけではない。……なくなったわけではないが、胸に宿っているのは1本の剣のような覚悟だ。
私は手に黒い炎を宿すと、そのまま目を閉じ、すっと息を吸った。
直後、強烈な破裂音が耳の中に鋭く響く。
拡張した黒い魔力が、今にも光の檻を壊しそうだ。
「おっと……やばいな」
レンが聖剣を持つ手に力を込めると、光の檻が一段階輝きを増す。
……今がチャンス!
私は駆けだすと、自分の黒い炎を魔剣に向かって放った。
それもすぐに魔剣の発する魔力に跳ね返されてしまう。
それでも、諦めない。私は一人じゃないから。
「魔剣ディアボロス!! あなたに問います!!!」
力を込めて、叫ぶ。
「本当にいいの!!? その人の魂は、私の忠臣のものなんだからね!!!」
届かせる。届かせてみせる。
「私を誰だかわかってるの!? あなたは魔剣!
魔王のモノなんだから、あなたはいわば私の部下でしょ!!」
喰い殺させたりしない。ランスさんは……私の大切な臣下だ。
「私は、この世界を愛したい!友だちを増やしたい!! 今は未熟でも、もっと強くなって……争いを少しでもいいからなくして、この世界をもっと豊かにしたいの!!
影夜国の女王になって!!
それは、女王になって……、あなたに味方になってもらわなくちゃできないことなの!!」
私は黒い炎ごと、光の檻に突っ込んだ。
拳を振り上げる。
そして……ありったけの願いを乗せて、叫べ。
「私が主だ!!!跪けッッ!!!!」
―――――刹那、壮烈な爆発音とともに、黒い光と白金の光が交錯した。
視界と意識は一気に掻き消され……、
もう何も、聞こえない。




