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81、振り返るな

「“呪い”……? 嘘、だってみんな、さっきより明らかに強くなってるよ……!」

「その代わり……自我を失いかけてる」

「レンっ」


竜の背中に乗ったレンが、青白い顔で言う。無理しないでいいのに……!


「あれがきっと、魔剣の呪いだ。力を与える代わりに、自我を奪う。正しい使い方をしない者は、きっと魔剣自身が主人と認めないんだ……」

「でも……強くなったのは、確かだよ」


私は自分が持つ聖剣アポロンを見た。

断続的に白銀の光を発し続ける聖剣は、きっと魔剣と共鳴しているのだ。

……ごめんなさい、聖剣アポロン。

あなたを振るうのは、レンのはずなのに。

本来触れてはいけないはずの、魔王の私があなたを握ってる。


「迂闊に近づくのは危険だな。……愛美、体勢を整える。一回聖剣で結界を張れ。念じればできるから」

「でも、」

「大丈夫。聖剣はお前を拒んでない。所持者である俺の“従属”である、お前を認めてるんだ」


拒んでない、認めてる……か。

でも、私は本来、これを手にしちゃいけない側の人間だよね?

そんな思考を押し込めて、ぐっと聖剣の柄を握った。目の前に白銀の光を放ちながら、丸い結界が築かれていく。


「来るぞッ」


レンの叫び声とともに、下では黒い光が集まって、何本もの漆黒の槍が宙に浮かんだ。

____ズガガガッ!!

空気を斬り裂いて、私達に向かって放たれた槍が結界に刺さっていく。

最後の一本が飛来。

それと同時に、澄み切った音を立てて、張ったばかりの結界が砕け散った。


『ぐっ』

「不死鳥!」


最後の一本は、結界を壊したばかりでなく、勢いを弱めずに不死鳥の羽を貫いた。

血の代わりに赤い炎が噴き出して、不死鳥の体がぐらりと揺れた。

そしてそのまま、地面に向かって私を乗せたまま墜ちていく。

思わずぎゅっと目を閉じると、レンの「“浮雲”!」と言う声が届いた。

私と不死鳥は、ふわりと地上に下ろされる。


……どうしよう。またレンに聖力を使わせてしまった。


「レン……っ、不死鳥っ」


横たわる不死鳥に駆け寄る。不死鳥は黄金の目を開けると、『問題ありません』と言った。


『ただ……しばらくは飛べなさそうですね』

「ごめんなさい……」

『謝る暇があるのなら、前を向きなさい。油断をしている余裕が貴女にありますか?』

「っ、」

『来ますよ。構えなさい』


刹那、吹き荒れる猛吹雪が私を襲った。

とっさに聖剣を横に薙ぐと、剣先から放たれた衝撃波が、氷雪を相殺する。

ただしかし、襲ってきたのは吹雪だけではなかった。生み出された、新しい……見上げるほどに大きな土人形、地獄の業火のように赤い炎の吐息。

そして、いくつもの風刃。

不死鳥の前に立ちはだかり、それを聖剣の光で打ち消していくけど……間に合わない。


私は涙を浮かべながら、歯を食い縛った。


____どうして!

どうしてただの女子高生の私が、こんな思いをしなくちゃならないの!?


あの時、死にたくなかった。

私はまだ日本で生きて、学園を卒業したかったのに!


父と母と、友だちと、平凡に生きたかった。

あの時はわからなかったけど、何気ない日常が、今は焦がれるほどに恋しい。

私は……魔王になんて、なりたくなかったのに!


その、瞬間。

聖剣による衝撃波の防御の間を縫って飛来した黒の槍が、私に迫った。


「――――っっっ!!」


脳裏に浮かぶ“死”の一文字。

これで私は死ぬのだと、そう思ったのに……、

予想していた痛みはいつまで経ってもやってこなかった。


代わりにあったのは、さっきのオーロラの鏡。

レンの、聖力で作られた、鏡。


「どう、して」


自分の身を挺してまで、レンは私を守ってくれるの? こんな大きな技を使って、どれだけ辛いか、想像できないはずがないのに。


「愛美……ッ!」


レンの息も絶え絶えな声が、私に届いた。


「____前だけ、見てろ!!」


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