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80、呪い

レンの声が聞こえたと思ったその時、突如目の前にオーロラ色の光を纏った鏡が現れる。

思わず目をつぶって、無意識に頭を庇いしゃがんだが、その鏡のせいか、私に刃は届かなかった。

更に、耳を劈くような金属音のあと、先代魔王の呻き声とともに、肉を断つ音が聞こえた。


「……っは、間に合ったか……」


レンが荒い息をつきながら、膝を下につく。

それとともに、目の前の鏡が掻き消える。


「法術典項の……九十番台……、どんな衝撃や攻撃でも跳ね返す、神聖文字の法術……か。

さすが勇者、と言っておこう」


呟くように言った先代魔王の亡霊は、腕から血を出している。

跳ね返すの? だから鏡だったんだ……!

でも、と私は唇を噛み締める。

レンは悪くない、悪いのは、全て先代魔王の亡霊なんだけど、彼の身体は、ランスさんのものなんだよね。

血を流してる腕を見て、ぎゅっと心臓が締め付けられるような錯覚を覚える。

ごめんなさい、ランスさん。

どうか許してください。

後で必ず償いますから。


どうすれば、ランスさんを傷つけないで先代魔王を倒せるだろうか。道づれにするという手段は絶対に取りたくない。それでは先代魔王とやってることが変わらなくなってしまう。


不意に、レンがその場に倒れた。

それを狙って、すかさず“獣の王”が炎を吐いたが、それを不死鳥が防ぐ。


「レンっ! 大丈夫!!?」

「は……っ、やばいな、魔力の気配の満ちる王都で聖力を使うと……やっぱり疲れる」


声を発するにも辛そうなレンを見て、私はぐっと唇を噛んだ。

これも、全て、私の力が至らないせいだ。

ランスさんが傷ついてるのも、レンが辛そうなのも。それがすべて真実なのに、私の奥の意識は、未だにここから逃げ出そうとしていて。

ずっと被害者面をして、それなのに、あわよくば“世界を救った救世主”になることを望んでいる。


まるで、ゲームか、マンガの主人公みたいに。


「教えて……ください、初代魔王陛下」


私に足りないものって、なんですか?

それが補えれば、私は先代の亡霊を倒すことが出来るんですか?


そして。

空気を切り裂く怒号が辺りに鳴り響き、大地が鳴動する。

弾かれたように顔を上げれば、すかさず不死鳥が私を背にのせ、疾竜がレンを背にのせて宙に舞いあがった。


『魔剣の覚醒が始まりましたね』


不死鳥が視線を足元に移した。私もそれに続き、思わず息を呑む。

地を這う黒い魔力の光。まるで亡者の怨念から紡ぎ上げられたような。

そんな禍々しい空気を纏って、確かに魔剣はそこに在った。

“ランスさん”の、燃えるような赤の瞳はさらに爛々と輝き、力を増している。

手に持った魔剣ディアボロスは魔力の光をどんどん強めていき、赤い瞳を持った三人の王をすら包み込んだ。


『見なさい陛下。あれが“呪い”です』

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