79、不死鳥の援護
一瞬にして吹雪が掻き消えた。
剣を一振りした風圧だけで、吹雪と竜巻ごと、“妖の王”を吹き飛ばす。
「なんだと……!」
「すご……これが、聖剣アポロン……」
信じられない。ほとんど力を込めてないのに、どんだけハイスペックなの。私は驚愕の想いで、自分が手にした剣を見つめる。
本来使用するはずのレンが、これに聖力を込めて使えば……、どこまで強くなるだろう。
ここに、治療ができる人材がいないことが残念だ。
だから……今は、私がこれで戦うしかない。
「なぜ……貴様が聖剣を使える、小娘!」
「一時だけの、主従関係だって」
まさか、魔族との主従契約が“あんなこと”だったとは。
簡易契約だって言ってたから、きっと緊急事態の手だったんだと思う。
だけど、それって……だああああ、もう!!
「とっとと命令してクダサイゴシュジンサマ!!」
「全力で行け!遠慮はいらない」
「了解!」
刹那、跳躍。
黒い焔を噴射することで一気に加速、魔剣を持つ亡霊に斬りかかる。
白銀の剣と漆黒の剣が邂逅し、激烈な金属音を響かせた。
剣が重い……!
私は顔を歪ませると、一歩引いた。
魔剣の重さがとんでもない。どうしてあんなに重いものを軽々振るえるの。
やっぱりおかしい。
それは、正しい使い方をしていないせいなのだろうか。
「よそ見をしている場合か!!」
「っ!」
“ランスさんの声”に反応して、反射的に身を屈める。
頭上の少し上を、剣先が掠ったのがわかった。
一瞬固まった体を叱咤して横に転がり、更なる追撃を躱す。
「こんなものか!」
魔王の亡霊の叫びとともに、魔剣から吹き出す漆黒の魔力。それが何より悍ましい闇に見えて、私はぐっと聖剣の柄を握る。
息を吸い込んで、ゆっくりと剣先を上段へと移動させる。
その動作に呼応するように、魔王の亡霊も重心を下に沈めた。
「ハアァッ!!」
再びの跳躍。
狙うは頂点、面の一本。
一歩、二歩と踏みしめながら、一気に飛び上がって、上から剣を振り下し、
「駄目だ愛美! 罠だッ」
「!!」
その言葉に、とっさに反応することができなかった。
刹那、魔王の亡霊がこちらを見てにやりとほくそ笑む。
背筋に怖気が走ると同時に、白銀の風刃が宙に舞う。
いくつもの、小さな飛ぶ斬撃となって。
「うそっ」
蒼白になった次の瞬間、私は赤い焔によって地面に叩きつけられていた。
受け身をとれずに転がり咳き込むが、火傷はない。
……この炎は。
「不死鳥! ありがとうっ」
『礼には及びません。くれぐれも油断はせぬよう』
「うん!」
そして、その次の瞬間。
____どう!、と。
不死鳥の横から、噴射されるオレンジ色の炎。
不死鳥はそれをふわりと舞い上がることで避けると、その赤の羽根で、炎と風を生み出す。
今のは、“獣の王”の火炎噴射だ、と認識した時には、既に熱風が猛然と吹き荒れていた。
熱さと風で前が見えない。黒煙が立ち上り、辺りに広がり更に視界を奪う。空気を吸ったら、喉まで焼け付きそうだ。
そして、悪寒。
振り向くと、そこには先代魔王の亡霊が持つ魔剣が迫っていた。
しまった! 避けられないっ……!
「白銀の歌を映せよ鏡、水底に沈むは夜半の月。
法術典項の九十二、“反射”!」




