6、2回目の人生、大ピンチ
「ああ、いえ……違います、マナミ様」
「……はい?」
「今の勇者は、統一王政府のトップではございません。第一王子が現勇者となっております。そして、その第一王子は我ら魔族の手に落ちており、それで我ら魔族と人間は戦争となったのです」
なんてことだ。
戦争の非はまさかの魔族側にあった!
ヤバイ、これで魔族の女王(仮)の私は、戦犯確定じゃないか。戦争が終われば、打首獄門とかに処刑されてしまうのか。
嫌だぁぁ!!
「ですから、マナミ様。勇者が我らの手にある今のうちに、アシュタロスを統一すべきなのです。新たな魔王が降臨されたと聞けば、政府軍も更なる動きを見せるはずです、
つまり。
貴女様には、早々に御身に宿る強大な魔力を制御する能力が必要なのです」
「強大な魔力って……だから、私は人間なんですってば……。魔王になんて、なれません。
ましてや戦争だなんて、そんなの……」
無理に決まってる。
私は、戦争だなんて言葉は、教科書の中でしか耳にしたことがない。
剣道をやっているとは言え、それは制限時間内の単なる“スポーツ”であり、殺し合いに使えるものではないのだ。
「いいえ、貴女は魔族の女王にあらせられるお方です。黒い炎を操り、意のままに消した……。
黒い炎は魔王の象徴、そして、魔力が強い者ほど純粋な黒に近い目の色と髪の色をするのです」
私は無言で、自分の髪を一房持った。
日本では当たり前のような黒髪。
それが、ここでは王である証拠だというのか。
「“最凶”そして“憑依”の悪魔、と呼ばれた先代様も、貴女ほど純粋な黒の髪を持ってはいらっしゃいませんでした。
マナミ様はきっと、始祖様……初代魔王陛下に匹敵する魔力をお持ちです」
その始祖様って日本人じゃないのか。
未だに黒髪が高魔力の象徴ということに納得のできない私は、唇を尖らせる。
____そして、その、刹那。
再びの破壊音が、焼けた森の向こうで、響き渡った。
「な、ななな……なんですか!?」
今度の破壊音は、爆破音に似た音だった。映画とかでしか聞いたことのない音。
『死』の臭いが近くに来たような気がして、みるみるうちに血の気が引いていく。
「人間達が、再び我が軍に攻撃を始めたようです。今まで私が指揮を執っていたのですが……貴女を一度王城へ連れてゆかねばならないので、少々自陣が心配ではありますが」
「は? 攻撃?」
まさか、ここ……。
ぶわっ、と今まで以上の冷や汗が背中で吹き出た。
「お察しの通り。ここ『名前の無い島』は激戦区の1つです」
いやぁぁぁ!!
私、今まで戦場のど真ん中にいたの!?
だから、あの男の人はあんなに怪我をしていたの!?
だったら、ランスさんはやっぱりあの人を殺し…って、もうやだぁぁぁぁ!!
「ここではゆっくり説明もできません。
一度王都へ行きましょう」
「はい?王都?」
王都……って、多分、首都のことだよね?
この島は魔族と人間が戦う激戦区なのに、どうやって首都に行くの?
……さっき、ランスさんはここを『名前の無い島』と言っていた。
しかし、私が治めるらしい国の名前は、『影夜国』。
つまり、ここ『名前の無い島』と『影夜国』とやらの王都は、全く別の別の場所にあるということになる。
人間の武器が弓矢である世界だ、ここに飛行機があるとは思えない。
「船なんて、出せるんですか……? ここ、戦争中なんですよね」
「ええ。ここ一帯はもちろん、この海域は海戦も起こっています」
やっぱりぃぃぃ!
「ああ……私の2回目(多分)の人生終わった……短かった……」
がっくりと肩を落とすと、ランスさんが「え?」と呟いた。