73、癒着
レンの呟きに、私は顔を上げる。彼は横目で私を見ると、言った。
「先代魔王は、やっぱり教会の一部とつながっていたんじゃないかって」
「え……?」
「教会は、悪魔文字について知っていた。これは、悪魔文字……英語で書かれた石板を読んでから、俺たちが達した結論だったよな?」
「うん」
私は頷く。その推測なら、洞窟に行くまでにレンと一緒にしたはずだ。
「聖ミスリルの独立機関である教会の一部は、勇者の一族……、
つまり俺たち王族を倒したかった」
レンは深く青い目で、どこか遠くを見つめるように話す。
「一方で、先代魔王も、追い払っては挑んでくる勇者を煩わしく、そして脅威に思っていたはずだ」
「教会の一部と先代魔王は……利害が一致していた?」
血の気が引いていく。それが意味することはたった一つだ。
「まさか……先代と教会は、始祖の時代の真実を知りながらも、本当に歴史を、秘匿してたの?」
「恐らく間違いないだろうな。教会の一部と先代魔王は、初代王の真意を知りながらも、歴史を秘匿することで戦争を続けようとしたんだ。大きなことを隠すには、協力者がいた方が便利だからな」
「うそ……!」
そんなことが……あっていいはずがない。
種族間戦争を知らない私でも、背筋に悪寒が走るくらいの企みだ。
生まれてから戦禍の中にいて、全てを見てきたレンは今、どんな気持ちで冷静な表情を作っているのだろう。
「双方にメリットがあったから、教会と魔王は手を組んだ」
「……そして、教会の実力者たちは魔王に悪魔文字を習い、石板を読んだ」
「そしてあの石板からすべてを悟り、勇者が先代魔王を倒してからも、すべてを隠し通そうとした」
「だけど、先代魔王が死んだ今、魔族とつながっていてもメリットはない。だから速やかに情報を処分しようとした。聖剣の地図と石板をどこかの誰かに渡し、竜にまんまと殺されてもらうために」
声に出して整理してみたら、怒りで頭の奥が焼き切れそうになってきた。
それはきっと、レンも同じ……いや、もっと強い気持ちだろう。
「ただ、教会は神聖文字は読めない……おそらく隠している石碑はいくつかあるだろうけど、全ての始祖の時代を知っているわけじゃないな」
「信じられない……」
こんな世界、もういたくない。
汚くて、醜くて、見ていると頭が痛くなってしまう。
地球に……日本に帰りたい。
……いや、違う。
地球でもきっと、争いはあった。たくさんの人が死ぬ、醜い戦場があった。
…………私が、知らなかっただけだ。
「変えたい」
無意識に呟いていた。
私は……この世界を、変えたい。
「……そうだな。俺も変えたいよ」
「……レン、」
「俺たちが本来持っている権力は、決して無力なものなんかじゃない。間違わないように使えば、きっと世界は変えられる」
だから今は、少しでも望みを絶やさずにいよう。
私はもう、間抜けではいられない。
私を認めてくれた不死鳥や、竜のためにも。
ランスさんのためにも。
「で? レン、さっきまでの話が、ランスさんとどうつながっていくの?」
「……お前、あの“智の王”は偽物だって思ってるんだろ?」
「う、うん」
すっ、とレンの目が細められた。
「俺も同感だ。あいつは、“智の王”ランスロットじゃない」




