72、考え
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……次期魔王だったはずの少女と勇者が気を失い、竜の亡骸が横たわる洞窟で、“ランスロット”は冷たい声で言った。
「アリシア、魔王城へ帰還します」
「はっ、ランスロット閣下。……しかし気になることが一つあるのですが」
「なんです?」
魔族の中でも貴族家……伯爵の娘であり、圧倒的な力を持つアリシアでさえも、四天王を前にして、緊張を解けるはずがなかった。
体を固くし、強張った声音で告げる。
「竜が守護していたはずの、聖剣アポロンの姿が見えません。……いったいどこに、」
しかし彼はそれを意にも介さなかった。
「……いずれにせよ、勇者が持っていないのならば問題はない。早く用意を」
「……御意のままに」
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……気がつけば、私は暗い牢獄の中にいた。
ハッとなって辺りを見回すと、手首と足首につけられた拘束具が目に入る。
……ここはスレイブヤード?
いや、違うか。恐らく、影夜国王都シャドウィングの中心にある私の城……魔王城だ。
「起きたか、愛美」
「……レン」
苦笑いが混じった声で、すぐそばから声がした。
泣きそうな思いでそちらを見ると、そこには同じように拘束されたレンがいた。
私達は、同じ牢に投獄されたらしい。
……唯一の救いは、レンにも私にもそこまでの外傷がなかったこと。どうせ死にゆくのだから、拷問や尋問などいらないということだろうか。それとも、かけらほど残った敬愛の気持ちの表れだろうか。
どちらでも構わない。
とりあえず……怪我が少なくてよかった。
「レン、背中……大丈夫?」
「ああ。青あざくらいにしかなってないと思う。微妙に……というか結構痛いけど」
「どっちなの?」
「痛いっす」
軽口のたたき合いで、少し気が楽になった。
まあ、同じ牢に入れられることは二回目だ。
そこまでパニックにならなくてもいいよね。
……不意に、レンが真剣な顔になって表情を引き締めた。
私が瞠目していると、彼は真剣な目を私に向けて問う。
「……どう思う?」
「どう思うって……何が?」
「何がって……“智の王”ランスロットの行動についてだよ」
ああ、と思いながら私は答えた。
「……あれは、ランスさんじゃない」
「!」
私の言葉にレンは目を丸くし息を吞んだが、すぐに元の表情に戻った。
「……その根拠は?」
「ランスさんは赤い瞳なんかじゃない。薄い黒の瞳なの。……それに、メイドさん達にまで癒しの魔術を使うような人が、アリシアさんがやられたとき、動揺しないわけがないよ」
しかしレンは苦い顔のままだった。
「その考えが、主観的なものでないという証拠は?」
「……ない」
問われた質問の答えは、『否』だった。
……でも、私にはどうしても信じられないのだ。
ランスさんは、私が勇者といたからって、問答無用に死刑にするような人じゃない。
竜を……魔物を非情に殺すような人じゃなかったはずだ。
「……俺も一つ考えたことがある」
「え? 何?」




