70、衝撃
「どうして。どうしてお前が……ッッ!!」
……レンの声が、どこか遠くに聞こえる。
思考回路がどこかにいってしまったかのように、私の心は答えを求めて彷徨う。
どうして、なんて。
それは、一番私が聞きたいことだ。
「竜は幻獣だぞ! 魔物を束ねる最強の存在だ!! それを、魔王の幹部が殺していいのかよ!?」
「おや。ずいぶん口調が荒くなりましたね、勇者」
「そんなことを話してるんじゃない!話題をすり替えるな、“智の王”!!」
叫んだレンに、ランスさんは笑みをたたえた。
「もともと魔物は魔族に仕えるものですよ。それを魔族が粛清して何が問題だというのですか。ましてや、魔物の身で聖剣を守る守護獣を名乗るなど」
殺されて当然では? と。
飄々とした表情で、彼は……言い放った。
違う。違う、違う。この人は、私の知ってるランスさんじゃない。
ランスさんはもっと優しくて、メイドさんのことも癒してあげていて、微笑みだって、甘くて爽やかで。
こんな残忍な笑みをする人……私は知らない。
「誰なんですか、あなた……! ランスさんは、こんなひどいことしない……!」
「ああ、そこにいたのですか……陛下」
「!」
見たこともないような冷たい目に、聞いたこともないような冷たい声に、私は思わず後ずさる。
どこまでも赤く美しく残酷な光をたたえるランスさんの目は、暗闇の中で異様な空気を纏っていた。
ランスさんの目って、赤かったっけ……?
恐怖でゆがんだ思考で、必死に記憶を漁る。
「先ほども言いましたが、実に残念だ。人間と……よりにもよって勇者と行動を共にするなど……、
貴女は影夜国の主に相応しくない」
「なっ……」
信じられない。信じたくない。目の前の人が放った言葉が。
どうして、どうしてこんなことに。
「貴女がまだ、魔王でなくて……そして未熟で弱くて本当によかった」
「どういう、こと」
私のとぎれとぎれの問いに、彼は答えた。
無表情の、赤い瞳のまま。
「貴女を、国家反逆罪の罪で、処刑します」
気が遠くなりそうだった。
生まれたのは裏切られた、とか、そういう簡単な心情ではなく。……ぐるぐるとした気持ち悪さに頭がおかしくなりそうだった。
「処刑……だと……!?ふざけんなよ!お前達はは黒を持つ王の器すら迫害するのか!!」
「ですから彼女は王の器に相応しくないと言ったのです。……そして、レオナード第一王子」
「!」
ランスさんの目が嗜虐的に細められる。
「____貴方も、彼女と共に脱獄の罪で処刑する」
「……ッッ!!」
レンが蒼白になって、一歩後ずさる。
私はもう何も言えない。ただ黙って、2人を見ることしかできなかった。
ランスさん、なの?
本当にあなたはランスさん?
休戦協定の締結すら、破棄したことをを覚えていないと言ったことすら、全て嘘だったというの?
違う。信じない。私は信じない。
私は……あの時の、優しく笑ってくれたランスさんを信じたい。
「間抜けな勇者です。私の追跡に気づいていたのなら、仕留めにくればよかったのに」
声を上げたのは、ランスさんの後ろにいた女性だった。
あの人は……!
「お前っ……! あの時の、実況の!!」
レンの声に、ハッとして顔を顰める。
そう、彼女は、私たちに地図を渡した実況のお姉さんだったのだ。
……見られていたのだ、あの時。
レンが眼鏡を落とした時、お姉さんは彼の王家の印を、その目で視認していたのだ。
彼女は教会の手の者ではなかった。
焦茶色の髪は、彼女が高位の……恐らく貴族レベルの魔族だということを示している。
「人間の国は、聖力が邪魔して、うまく魔力を隠せなかったので。追跡の際気づかれて、肝を冷やしましたが」
煌々と輝く赤い目をしたランスさんの後ろで、彼女も赤い目をして笑う。
正に、そう……悪魔のように。
「アリシア、捕らえなさい」
「はっ、ランスロット閣下」
「くっ!」
右手に聖力の光を宿らせたレンが、後退しながらお姉さん……アリシアさんを睨んで。
……しかしその時、彼女を阻んだのは、先程より少し威力が弱まった蒼いドラゴンブレスだった。




