68、聖剣アポロン
「王子で勇者で元日本人は褒め言葉じゃないからな!? ただの事実だ、」
どこか悲痛な声で叫ぶレンの言葉を遮るように、洞窟の奥の方から白銀の光が一気に弾けた。
……あまりの眩しさに目がくらむ。
私は思わず目を手で覆うが、レンは何もしないまま、難しい顔でその光の奥を見つめている。
え、だ、大丈夫なの? レンの目、潰れたりしない?
まさか……勇者だから?
これが……聖なる光だから?
……すごい。こんな光の洪水の中、目を開けて立っていられるなんて。
____しばらくして、光はゆっくり小さくなり、その形を変えていった。
そう……そして見紛うことなき、剣の形に。
「あれが……聖剣、アポロン」
……、なんて神々しい光だろう。あの量の光を、全て溜め込んだように銀色に輝いている。
魔剣ディアボロスを夜闇に例えるならば、この聖剣は大空に輝く日輪だ。
太陽の神の名を冠する聖なる剣と、悪魔の王の名を冠する魔の剣。
まさに正反対。
『さあ、抜くがよい』
レンが緊張した面持ちで、光り輝く聖剣に歩み寄っていく。
そして、その前に立つと、手の平を胸に当てて、何かに誓うようにこう言った。
「『愛す者を心に、勇気を胸に』」
そして彼は、厳かな動作で、光に包まれる剣の柄を握った。
竜がそれを聞いて、微かに笑った気がして……ああ、と私は気づく。
さっきのは、石板に書いてあった内容……!
「おおおぉっ……!」
レンが真剣な表情で、剣を握る手に力を込めた。
そしてそのまま、右手を少し庇いながらも、一気に引き抜こうとする。
そして剣が差してあった地面から、新たな金色の光が生まれ、彼の足元には白い五芒星の魔方陣が浮かび上がる。
破邪の象徴、五芒星の魔方陣が。
「認めろ、聖剣アポロン。俺が真の勇者だ」
すると、
____カッ、と。
レンの言葉に呼応するように、聖剣がより一層強く光り、
「「!!」」
それは、レンの手の中に消えて行った。
……消えて行ったぁぁぁ!!?
「うっそ! ちょっと、消えちゃったよレンッ!?」
「ぎゃあああ、戦争を止める手がかりがぁぁぁ!」
2人で声を合わせて絶叫する。
どうなってんだこれ!!!
「どうしようレン! もしかしたら、戦争を止めるきっかけに利用してやろうという私たちの不敬な心が聖剣にばれたのかも!」
「ゲッ、それはやばい! すみません聖剣アポロン様、人間ごときが調子乗りました! 帰ってきてください!!」
『……いや、これでよいのだ』
「「え?」」
どこか笑いを含んだ竜の声に、私達は叫ぶのをやめて顔を上げる。
唯一無二の古代の魔物は、厳かな顔つきを微かに緩めながら、私達を見た。
『若き王子よ。聖剣はお前を真なる勇者……聖王の正当継承者と認めた』
「……!!」
『聖剣は既に、お前の体の中にある。本当にそれを必要とした時、心の底からその名を呼べ』
「名を……」
『そうだ。……真の聖剣の継承者が現れ、私も安堵している。……永き時を生き過ぎて、私の残す力はもう、ほとんどないのだ』
そ、そうなんだ……。
永遠に近い時を彷徨う幻獣も、年を取れば弱ってしまうものなんだ。
私は……少しだけ胸が詰まった。
いつかは不死鳥も、年老いて弱くなってしまうのだろうか。




