65、大岩
「魔力の名残?」
「そう。魔力は、その力の持ち主のこの世への執着心が強ければ強いほど、呪いや悪霊、精神体としてこの世に留まりやすいんだ。
たまに、強い魔物……さっきの疾竜なんかが死ぬと、その魔力が植物に憑依したりして、取り返しのつかないモンスターになったりする」
「こわッ。何それ……」
火を噴く巨大植物を想像して、私は身震いする。そんなのとは絶対に戦いたくないぞ。え、ここ、植物とか生えてないよね……?
恐る恐る辺りを見回してみるが、壁は岩石だし、生えているのもコケだけだ。安心して、それから私は、少しむくれてみせる。
……うう、余計なこと言って。怖くなるからやめてよね。
「お」
ふとレンが声を上げ、立ち止まった。
なんだろう、と思って前を覗いてみれば、そこは。
「行き止まり……!」
「ウソだろ、まさか地図が間違ってたってのか」
レンが慌てたように目の前の壁をぺたぺたと手で探る。
ど、どうしよう。私も手で探って入るものの、この壁には突起もないし、ドアの取っ手とかもない。
引き返すしかないのか、と考えたその時。
かちっ。
何かが私の手によって、凹んだ感触が。
「ボタンか!?」
「そうみたい! なにか押したような気がする!」
間違いない。ボタンかスイッチっぽいものを確かに押した感触があった。
私が顔を明るくすると、レンも笑顔で頷く。
そして、二人で目の前の壁に変化が起こるのを待った。
……待った。
「……なんでなんにも起こんないのよー!!!」
私は思いっきり目の前の行き止まりの壁をドンドンとこぶしで叩く。
コノヤロー、期待させやがってちくしょー!
「待て愛美、暴れるにはまだ早い」
「え?」
「何か聞こえないか?」
目を閉じて、耳を澄ませる。
すると微かにどこかから、ゴゴゴゴ……という、何か重いものが動いているような、迫ってくるような音が聞こえてきた。
おお……! これは!
「もしかしたら、この扉にも何か仕掛けがあって、今動こうとしてるんじゃないか?」
「なるほど!さっすがレン、頭いい……、」
そう言いかけて、私はぴたりと動きを止める。
待って。ええと……、
迫ってくるような?
「どうした、愛美?」
レンの声はもはや耳に入らなかった。
私は蒼白になりながら、恐る恐る後ろを振り向いて。
怪訝そうなレンも、後ろを振り向いて。
2人そろって、大口を開けて叫んだ。
「「岩ああああ!!?」」
____そう、迫ってきていたのだ。
転がる大岩が、背後から。しかも、ものすごい勢いで!
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! 潰されたくないぃぃ!!!
「落ち着け愛美、こういう場合、だいたい目の前の扉が直前で開くから、」
「直前じゃ遅いぃぃぃ!!」
「待てこんな狭い所で炎を使うな、」
構ってられるか!
「ぶっ壊す!!」
叫んで、手にともした黒い炎を、思いっきり目の前の壁にぶつける。
私は感じないが、凄まじい高温である黒い炎は、目の前の岩の壁すら融かして。
跳ねかえった熱波が、“光盾”を介しても私たちに届く、
「やばい伏せろ!!」
レンの叫び声に、はじかれたように私はその場に伏せた。
身体があった場所を、すごい熱風が通り抜けて行ったのがわかる。
少し背後で、じゅわあ、と少し岩が融ける音がした。きっとあの転がる大岩だろう。
「立ち上がって走れ!」
「うんっ」
レンが、私の手首を掴んで走り出す。
足元の固い地面もあまりの高温の黒い炎のために、白い灰となりかけている。
じゅうじゅうと嫌な臭いをたてる煙を気にする間もなく、私達は開けた道を一気に駆けた。




