64、魔力の名残
背後から、轟!と風を巻き上げる炎が上がる。
その炎の色は、魔王の証である……どこまでも濃い漆黒。
「あの炎を防いで、」
私の声に応えるように、黒い炎が強くなる。
それと同時に、竜のドラゴンブレスが発射される。
向かってくる脅威から逃げてはならない。
そう思いながら、手に力を込めた。
「____私達を守れ!!」
目の前の黒い炎が、私達を守るように急速にドーム型に変形する。命じたことそのままに、蒼い炎を黒い炎が弾く。
レンと私を守るように。
すると上空の疾竜が、その目を細めたような気がした。
そして何を思ったのか、ゆっくりと翼をはためかせ、空の向こうへ飛んでいってしまった。
それを、呆然と私達は眺める。
「……なんだったの……?」
どうして、疾竜は私達を諦めて、去っていってしまったのだろう。もしかして興味がなくなった……?
……ああ、いや。逃げられたのならもうそれでいい。余計なことを考えてる暇はないね。前へ進まなくちゃ。
*
「……見えたな。あれが、洞窟の入口だ」
森を抜け、暗く湿っぽそうな、しかし大きくてどこか神秘な洞窟の入口を見つけた時には、もう既に私達はヘトヘトでボロボロだった。
迷いの森の名の如く、やはり道は入り組んでいて、凶暴な魔物にも何匹か遭遇した。
やはり私は黒い炎を操れなければ、魔王としての威厳は無いに等しいらしく、無条件に降伏し、忠誠を誓ってくれる魔物なんていなかった。
コノヤローランスさんめ、役に立たない知識を与えおって。
「先に治癒しとくか」
「あっ、それ、ゲームっぽい」
「なんでもかんでもゲームに繋げるのやめろ」
いやぁそういうつもりでは。
「負うものは幻、負わされるも幻。
儚き世のように疵は消える、
法術典項の二十五、“天清”」
私の火傷を治した術も、どうやらこれだったようだ。
フーデッドケープの焦げ跡などは直らないが、体のところどころにできた擦り傷や切り傷などは綺麗に消えた。
「それにしても……レン、ここで術を使っても大丈夫なの? 魔力が満ちてるんじゃないの?」
「いや……だいぶ薄まった。多分、洞窟の奥深くにある聖剣のおかげだな」
ただ、とレンが目を細める。
「洞窟の奥深くに竜たち幻獣のボスクラスがいるのは、間違いないな。聖剣の守護獣には竜がぴったりだ。
……何せ、あいつらは魔物のくせに聖力に強い」
「こわっ」
なんなんだ、幻獣って。しかも、あれがボスじゃないんだ。
ボスはボスらしく、洞窟の奥で泰然と待っているわけか。さしずめさっきの竜は門番と言うところだろうか。
……うん。
そりゃ教会側が自分のところから戦士を出したくないわけだ。
「もしゲームだったら、凄まじいクソゲーだね」
「ある意味、魔王城よりも攻略に手こずるパターンのやつだな」
「……魔王不在の魔王城なんて、もう最終ダンジョンじゃないよね」
今の魔王城ならきっと、勇者じゃなくても落とせるぞ。……多分。
「それじゃー、洞窟入りますか」
実に不本意だが、仕方がない。
人間(私は魔族かもしれないが)には、進まなくてはならない時があるのだ。
……洞窟の中に足を踏み入れると、一気に辺りが暗くなった気がした。レンが聖力を使って、視界を少し明るく照らしてくれる。
私は彼の後についていくことにした。
それにしてもぴちょん、ぴちょんという水音がなんとなく不安を煽るな。
心臓が早鐘を打ち始め、私は無意識にレンのフーデッドケープの裾を握りしめた。
「魔物の気配は、今のところなさそうだけどな。気をつけなきゃならないのは、魔力の名残か」




