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64、魔力の名残

背後から、轟!と風を巻き上げる炎が上がる。

その炎の色は、魔王の証である……どこまでも濃い漆黒。


「あの炎を防いで、」


私の声に応えるように、黒い炎が強くなる。

それと同時に、竜のドラゴンブレスが発射される。

向かってくる脅威から逃げてはならない。

そう思いながら、手に力を込めた。


「____私達を守れ!!」


目の前の黒い炎が、私達を守るように急速にドーム型に変形する。命じたことそのままに、蒼い炎を黒い炎が弾く。

レンと私を守るように。


すると上空の疾竜が、その目を細めたような気がした。

そして何を思ったのか、ゆっくりと翼をはためかせ、空の向こうへ飛んでいってしまった。

それを、呆然と私達は眺める。


「……なんだったの……?」


どうして、疾竜は私達を諦めて、去っていってしまったのだろう。もしかして興味がなくなった……?

……ああ、いや。逃げられたのならもうそれでいい。余計なことを考えてる暇はないね。前へ進まなくちゃ。





「……見えたな。あれが、洞窟の入口だ」


森を抜け、暗く湿っぽそうな、しかし大きくてどこか神秘な洞窟の入口を見つけた時には、もう既に私達はヘトヘトでボロボロだった。

迷いの森の名の如く、やはり道は入り組んでいて、凶暴な魔物にも何匹か遭遇した。


やはり私は黒い炎を操れなければ、魔王としての威厳は無いに等しいらしく、無条件に降伏し、忠誠を誓ってくれる魔物なんていなかった。

コノヤローランスさんめ、役に立たない知識を与えおって。


「先に治癒(ヒール)しとくか」

「あっ、それ、ゲームっぽい」

「なんでもかんでもゲームに繋げるのやめろ」


いやぁそういうつもりでは。


「負うものは幻、負わされるも幻。

儚き世のように疵は消える、

法術典項の二十五、“天清(テンセイ)”」


私の火傷を治した術も、どうやらこれだったようだ。

フーデッドケープの焦げ跡などは直らないが、体のところどころにできた擦り傷や切り傷などは綺麗に消えた。


「それにしても……レン、ここで術を使っても大丈夫なの? 魔力が満ちてるんじゃないの?」

「いや……だいぶ薄まった。多分、洞窟の奥深くにある聖剣のおかげだな」


ただ、とレンが目を細める。


「洞窟の奥深くに竜たち幻獣のボスクラスがいるのは、間違いないな。聖剣の守護獣には竜がぴったりだ。

……何せ、あいつらは魔物のくせに聖力に強い」

「こわっ」


なんなんだ、幻獣って。しかも、あれがボスじゃないんだ。

ボスはボスらしく、洞窟の奥で泰然と待っているわけか。さしずめさっきの竜は門番と言うところだろうか。


……うん。

そりゃ教会側が自分のところから戦士を出したくないわけだ。


「もしゲームだったら、凄まじいクソゲーだね」

「ある意味、魔王城よりも攻略に手こずるパターンのやつだな」

「……魔王不在の魔王城なんて、もう最終ダンジョンじゃないよね」


今の魔王城ならきっと、勇者じゃなくても落とせるぞ。……多分。


「それじゃー、洞窟入りますか」


実に不本意だが、仕方がない。

人間(私は魔族かもしれないが)には、進まなくてはならない時があるのだ。


……洞窟の中に足を踏み入れると、一気に辺りが暗くなった気がした。レンが聖力を使って、視界を少し明るく照らしてくれる。

私は彼の後についていくことにした。

それにしてもぴちょん、ぴちょんという水音がなんとなく不安を煽るな。

心臓が早鐘を打ち始め、私は無意識にレンのフーデッドケープの裾を握りしめた。


「魔物の気配は、今のところなさそうだけどな。気をつけなきゃならないのは、魔力の名残か」

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