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61、敵の気配

東大島の港に着いた、というアナウンスが流れる。

それを聞いた私達は荷物をまとめ、この乗り心地最悪の安船からとっとと退散するべく、急いで鍵を返してチェックアウトを済ませた。


「愛美、部屋に忘れ物は?」

「ないってば、もう! 私はレンの妹とかじゃないんだからね」

「だってお前、たまになんか抜けてるし」


余計なお世話だ。

膨れてみせると、レンは真面目な顔のまま私に近づくと、かつらに手を伸ばし、髪に触れる。


「黒髪出てるぞ」

「あ……ありがとう」


不意打ち!

神がかった美貌が目の前にいきなり来ると、心臓に悪いからやめて欲しい。

バクバクしている心臓を押さえつつ、私は船を降りていくレンを追う。

……ああもう、いろいろ大変なことがありすぎて、聖剣探しも上手く行く気がしないよ。





「聖剣アポロンのある洞窟は、中立区域の東にあるって話したとは思うけど」


5日前ほど前に、歩いた中立区域の街並み。

賑やかな市場や魔物を連れている人間達の間を縫いながら、私達は地図を見ながら進む。

うーん、王都マーキュリーとは、また違った食べ物のいい匂いがする。あ、あそこに焼きマシュマロの店がある。まだお金余ってたし、買ってこようかな。


「そこに行くにはまず、この中立区域の東のゲートをぬけなくちゃならない。港は南にあるから、結構遠いな……、

ってお前、何勝手にマシュマロ買ってんだよ! 美味そうだなもう!」

「ひとつあげよっか?」

「お、ありがとう……って俺の金だよ」


むくれながら、串に刺したマシュマロを受け取るレン。溶けかけたそれを頬張りながら、再び地図に目を落とす。

……やっぱり、東のゲートまでは少し歩くようだ。


そして街の中心に行くと、人がごった返していた。賑やかな市場を通り越して、東京みたいになっている。


「サントル広場に到着したら、十字路を東に曲がる。ええと俺達は、南から来たから、右に曲がればいいんだな」


レンは地図を見ながらぶつぶつ呟いているが、フーデッドケープのせいで実に怪しく見える。

しかも呟いている内容は、別にいちいち口に出す必要もないもの。

慎重なのか、地図が苦手なのか……。

もし後者だったら笑える、と思いながら、私は焼きマシュマロの串をそばにあったゴミ箱に投げ入れ、レンに続いて歩き続ける。


そして。

レンと私は、一つの門の前で立ち止まった。


「見えたな。あれが東のゲートだ」

「へぇー、結構大きいんだね」


イメージとしては、商店街のアーケードの入口に近い。それを少し大きくしたようなデザインだ。形自体はシンプルで、装飾はない。

素朴な造形美、とまで言うと大袈裟かもしれないが、なかなか圧倒される。


「これをまっすぐ行けば、迷いの森だな」

「なんかあれだね。ゲームのダンジョン名によくありそうなネーミング」

「それも、お前の『初代魔王か人間王が、元地球人だった』っていう仮説なら、納得できるかもな」

「もうやめてってばー。あれは冗談だよ」

「いや、あながち間違いじゃない可能性も」


ゲートの直前まで来ると突然、レンが少し青い顔で立ち止まった。

なに? と戸惑いながらレンの顔を覗き込むと、彼は少し低い声で答えた。


「……見られてる」

「え?」

「視線を感じる。背後に数人、俺達を監視してる奴がいる」

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