59、きつい船旅
「戦争を長引かせることを目的としている……?」
「教会も一枚岩じゃないってことだよ。
権力分立を守り国を守ろうとする一派もあれば、王家の失脚を目論む一派もいる。戦争が長引いて勇者の一族……つまり王家が敗北したことを理由に、自分たちが国政者になり替わろうとする輩が」
なるほどね。
だから教会は、王家に情報を渡したくなかったんだ……。
王家は神聖文字を受け継ぐ血筋。
悪魔文字の研究も王族では進んでいるようだし、万が一のことがあれば石板の内容がわかる。
聖剣のことが悪魔文字で書かれていることがわかれば、終戦のきっかけとなってしまうから。
その点、一般人の手に渡れば、石碑の内容を知られることはない。
「教会側が聖剣に関する情報を、いつまでも隠しておくには無理があるからな。それならいっそ、何も知らない人間に渡してしまえばいいってわけだ」
「……待って」
今の話に違和感を感じた私は、レンの話にストップをかける。
「今までの仮定が正しかったとすると、教会は情報を秘匿したかったんだよね……?」
「そうだけど」
「だったらどうして、……“教会は石板の内容を知ってた”の?」
「……っ!!」
レンの目がこれでもかというくらい見開かれる。
……そうだ。悪魔文字が読めるのは、この世に二人だけ。
魔王であり日本人である私と、元日本人であるレンだ。それなのに、教会が王家に情報を隠そうとするのはおかしい。
だって、教会も石板の内容がわかるはずがないんだから。
「……まさか……教会は悪魔文字を解読できたのか?」
「そんなの、無理だよ! 始祖の時代の資料は、ほとんど残ってないんでしょ? それなのに、未知の言語を解読できるわけないじゃない」
「だったら……誰かに教えられた?
いや、そんなはずはない、だってこれが読めるのは……俺と愛美だけのはずだ」
「……とりあえず、わからないことをいつまでも考えてたって仕方ないな。まずは……聖剣を手にして、この石板が正しいことを示さなきゃならない」
「……そうだね」
変わらず、私達の目的地は聖剣のある洞窟だ。
教会が石板の内容をどうして知れたのかとか、どうして神聖文字の石碑がスレイブヤードに隠されていたとか、謎は未だに多くある。
今はまだ、その真実を知る段階ではない。
きっと手を伸ばしても、陽炎のように消えてしまうだろう。
「せっかくカフェテリアに来たんだ。なんか頼もうか」
「え? でもお昼ご飯には早いよ」
むしろ、食べたばかりなので、食事は御遠慮したい。何故ならテーブルも体も揺れるから。
「あのな愛美。このくそ揺れる船で、ご飯も早め早めに食べなきゃ、ホントに眠れなくなるぞ」
…………う。
「確かに……そうだね」
そうだった。
前回の航海でも、全然寝れてないんだったっけ……。
「「ふぁぁあ……」」
*
なんだよ話が違うじゃないか。
寝ぼけ眼のまま起き出して、顔を洗って狭いシングルルームを出ると、大きなあくびがレンと重なった。
昨日、ちゃんとご飯を早め早めに食べておいて、すごく早く寝たのに、
……ぜんっぜん眠れなかったんですけど。
ああ、くっそ超眠い……。
「これ、速船だったよな……」
「うん、確かね。だから、今日のうちに東大島の港に着くはずだよ……ふぁーあ」
「どうりで、前より揺れるわけだ……」
隈のある顔で、レンが恨めしげに呟く。
いや、仕方ないんだけどね。豪華客船に乗れるだけのお金が無いんだから。
レンは王子様で、何不自由なく城で暮らしてた時もあっただろうから、そりゃキツイだろう。




