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58、迷いの森



「まさか……王都に到着してその翌日に、また東大島に戻ることになるなんて……」

「泣き言言うな。こっちまで泣きたくなるだろ」


レンが、切なそうな目で、古びた地図を見る。

彼が切ない目をしている原因が、恋とかだったならば、きっとドラマの1シーンを見てるように絵になっている。

……残念ながら、それは全く違うのだが。


そう、そこに記された、聖剣のある洞窟場所とは、東大島にある中立区域の東、迷いの森のそのまた奥に位置していたのである。

また売れそうなものを換金してお金を作ったものの、私達の状態は素寒貧に等しい。

また、あの吐きそうになる安船で航海することになるんだろう。

レンが切ない目をしていたのはそのせいである。ほんと私も泣いてもいいかな。


「せめて……あの安船でも……スイートルームに乗りたい」

「無理だ諦めろ。迷いの森で野宿したいのか」

「嫌ですごめんなさい」


闘技場で試合をしたその翌日の朝早く、私達は東大島行きの船に乗り込むべく、王都を出た。そして港へ向かう。

ああ、まったく……今から、すごーく、すっっごーく、憂鬱だよ。


「さて、試合の後はゴタゴタしてて、石板の内容は見れてなかったよな」

船に乗り込み、チェックイン(?)を済ませた私たちは、荷物をそれぞれの部屋に置くと、ランチのためにカフェテリアにやってきた。

そして、端っこの席に陣取り、黒い石板をテーブルの上に置く。


「これも、始祖の時代の歴史の石板なのかな」

「どうだろうな。いずれにしても、読んでみるしか手はない」


そう言って、レンが視線を石板に落とす。私もそれに倣い、石板を見下ろした。

瞬間、息を吞む。


「これって……どういうことなの……!?」


……書かれていたのは、英語の文だった。

つまり、これは……悪魔文字の石板!


「『我 この文字で 聖剣のすべてを記し

これを 真なる勇者に捧げる

愛す者を心に 勇気を胸に 剣を抜くがよい

さもなくば 聖剣は本来の力を失い 更なる戦いを生むだろう

争いを好む者は 真の勇者ではない』」


レンが一言一言をかみしめるように、石板に刻まれた文字を読んだ。……私は驚きと感激で、思わず顔を押さえる。

『悪魔文字で書かれた、聖剣の扱い方』。

そして『神聖文字で書かれた、魔剣の扱い方』。

本当の歴史のひとかけらが、今、私たちの手に集まった。

私たちは、停戦の……いや、終戦への『理由』を手に入れた!


「レン! これで、もしかして……!」

「いや、まだだ。この石板が本当に聖剣の扱い方を示したものなのか、証明できてない」

「それなら、あの神聖文字の石碑だって、証明できてないじゃない。それよりも注目すべきは、ここだよ」


そう言って、私は石板の初めの方を指さす。

『この文字で聖剣のすべてを記す』というところ。……そして、『真なる勇者に捧げる』というところだ。

神聖文字で書かれた例の石碑にも、同じような文があった。

……『魔族の王へ捧げる』。

初代の人間王が、これを書いたということには、それだけでも大きな意味を持つと思う。

そして今度は、初代魔王陛下が文を勇者へ捧げている。

少なくとも始祖の時代は、今のように憎みあい、争い合うような状態ではなかったということだ。

そして、今度の石板ではわざわざ初代魔王陛下が、『この文字で』と記している。

これは、彼自身が、悪魔文字で聖剣のことを記す意味を分かっていたということだ。

それなら、わざわざ危険を冒して聖剣を見に行かずとも、戦争を止められる。この石板とあの石碑には、それだけの価値がある。

しかしレンは首を縦に振らなかった。


「愛美の意見は正しいよ。でもそれじゃ頭の固い貴族の連中は納得しない。教会ももちろん、面倒な形で絡んでくる。

あいつらは恐らく、歴史を秘匿し、戦争を長引かせることを目的にしてる」


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