57、諦めるな
その場に崩れ落ちる選手を見ながら呼吸を整えると、私は少し怯んでいるらしい選手たちを睨みつけた。
美咲先輩みたいに、相手を威圧するように。
……よし。風は追い風だ。流れは私たちにある。
「さあ次! かかってこいッ」
……次の瞬間。
疾風のように駆け抜けた剣先が、私の目の前にいた選手たちを薙ぎ倒した。
姿を現したのは、長身の騎士。鎧の腕の青い星。私の質問に答えてくれていた人だ。
レンの声が聞こえる。
「気をつけろ! 聖王騎士団の隊長格がそっちに行った!! 片割れの騎士は倒したけど、そいつ相手に油断はするな!怪我するぞ!
……ぐっ、くそっ」
向こうの方で、剣戟音。
……聞いた限りはレンも迎撃に手いっぱいのようだ。救援は望めない。
「こっちは大丈夫! 任せて!!」
レンの名を呼べないのが少し辛い。
正体を隠して戦うって、難しいんだね……。
「さっきのお嬢ちゃんか。まさかここまでの腕とはな」
「……さっきは、いろいろ教えてくださって、ありがとうございました」
「だが、お前にも地図を渡すわけにはいかん」
「知ってます。だから、私はここにいる。私には私の目的がある」
隊長が片手剣を構える。
私も両手剣を中段に構えると、息を整えた。
相手は格上だ。経験だって私なんかとは比べ物にならない程にあるだろう。
でも、私はこの世界で、少し魔王としてそれなりの体力補正があるらしい。
だから恐らく、いくつもの修羅場を乗り越えても、そこまで疲れなかったんだろう。
大丈夫だ。
これは型のある剣道の試合じゃない。私は自由に戦える!!
「行きます!」
「来い!」
足に力を込めて跳躍し、一気に隊長格である騎士の間合いに入る。
他の選手たちは、レンが倒してくれるから、私はこの人に集中できるんだ。
……頼んだよ、レン!!
私は上段に振りかぶった両手剣を、隊長の頭上に振り下ろした。
「面ンンン!!」
____刹那、弾ける金属音。
止められた、とわかった瞬間、片手剣がすっと引かれる。
手首を狙ってることに気づいた。あわてて飛びのいて、剣を躱す。
……この人、強い。私は表情を引き締めて、剣を握りなおす。
一瞬の気のゆるみが命取りになる。
本当に負けて命が取られるわけではないけど、緊張した空気がリング上を包んだ。
そうだ、これだ。
剣道の試合での、この張りつめた空気。
真剣であれば、敗北は命を落とすことを意味する、戦い。
それが、肌で感じられるこの瞬間が好きだから、
私は剣を握っているんだ。
____一陣の風が吹く。
ひゅお、という空気が私の頬を撫でたその刹那、膨れ上がった殺気とともに、隊長が動いた。
「シッ!!」
鈍色の剣尖が閃き、一直線を描いて私の手元を狙う。
まさに閃光のように。
しかし実際にはそんなことを考える余裕もなく、私は横に転がりながら、それを辛うじて避けた。
動く殺気に、追撃されることを悟った私は、半ば反射的に剣を差し出した。
____ガキィィン!!
耳を貫くような金属音。骨まで浸透するような衝撃に歯を食いしばりながら耐える。
受け止めたのに、こんなに手が痺れるなんて。
「いっつ……」
「どうした、逃げるだけか!」
「逃げません!」
“剣士”でいる間は、私は逃げない!
体勢を立て直し、再び隊長に肉薄する。
振りかぶった剣は、いとも簡単に受け止められた。
鍔迫り合い。力で押し負けたら、それで終わってしまう。
「諦めるな!」




