56、順調
殺人はなし、というルールのお蔭で、だいぶ心に余裕が持てている。きっとなんでもありのバトルロイヤルだったら、私はここにいなかった。
まあ、いつもだったら、学校の剣道の試合とかでも信じられないくらい緊張するんだけど、私はこの5日間で、どうやら少しだけ強くなれたようだ。
いきなり魔王になって、何度も死に目を見た。
ちょっとやそっとじゃ、動じないんだから。
『それではぁ……はじめッ』
お姉さんの合図とともに、ゴングが鳴らされる。
お腹の底に響くような重低音を耳にした直後、
目の前の人の剣が既に攻撃軌道に入っているのが分かった。
「くっ……!!」
とっさに体を反転させ、そのまま、刃はないが重たい剣を目の前の胴に打ち込む。
衝撃を受け、私に攻撃をしようとした人は、その場に倒れこんだ。
よし……1人目!!
「やるな愛美!」
「これでもインターハイ出場者ですから!!」
と、不意に背後に熱気を感じる。
転がるようにリング中央に行くと、さっきまで私が経っていた場所に焦げ跡がついている。
はっとして顔を上げると、目の前には白い法衣のインテリさんと、ふわふわ宙に浮く紅い妖精。
まさか、この妖精……火精!?
____ごうっ!!
「わっ!」
また急いでその場を飛び退く。
火精が発する炎は、竜人たちのドラゴンブレスには流石に及ばないものの、まともに食らえば大やけどだ。
そしていつの間にか、隣にいたはずのレンの姿も消えている。きっと、向こうにも人だかりができているから、そこで激戦を演じてるんだろう。
レンのことは信じるしかない。私は私で、この法衣のインテリ眼鏡をどうにかしなきゃ!
「ちょっと、借りるね!」
火のせいで、ひるんで誰かに攻撃を加えたくても加えられないらしい人たちの群れに突っ込んで行くと、私は両手に握った剣を真横に薙いだ。
目の前の人が持っていた盾が弾き飛ばされる。
私はそれをキャッチすると、剣を鞘に戻し、目の前に構えてインテリ眼鏡に突進する。
「うわっ!?」
私の行動が予想外だったのか、あわてるインテリ眼鏡。その隙を見逃さず、私は盾を投げ捨てると、すぐさま抜いた剣で火精を弾き飛ばす。
蒼白になったインテリ眼鏡は、微動だにしない。
私は迷わず、彼の肩を思いっきり、押した。
……ばっしゃあああん、と上がる水柱。
そして、沸き起こる歓声。
「いくらバトルロイヤルだからって、女の子に火を浴びせるって、どうなのっ」
ぶはっ、と水面に顔を出したインテリ眼鏡に舌を出すと、再び背後で歓声が上がった。
思わず振り返ると、そこには水柱。
どうやらレンが、インテリ眼鏡の片割れを場外失格にしたらしい。
よしっ、順調!
……しかし、ガッツポーズをする間もなく、背後に剣が迫る。
私はそれをぎりぎりで受け止めると、鍔迫り合いののち、一瞬剣を引いた。そして、雄叫びとともに胴を打ち据える。
「胴ゥォオオッッ!!」
絶妙なタイミングでの“引き胴”は、美咲先輩の十八番だった。
私も教えてもらったし、鍔迫り合いは強いんだからね、私。




