55、バトルロイヤル
「いやぁ、実に運が良かった。私はこれで、ここの世界にいる分の幸運をすべて使い切ったような気がしてならないよ」
「やめろそういうこと言うの。一緒にいる俺にまで不幸が降ってきそうだ」
……1回戦を突破して、私たちが戻ってきたのは控室ではなく例の武器倉庫みたいな場所だった。
そして生き残った(?)私たち以外の9チームは、いろいろな人間がいた。
インテリ風の眼鏡の人たちや、ほんとに合格したのかと疑われるような強面の男たちや、……そうそう、騎士たちのチームは1チームだけ残っていた。
一人はレン曰く隊長格で、パートナーとして彼のそばに控えているのは聡明そうな騎士。頭がよさそうな人もいるんだ。そりゃそうだよね。
「父もバカじゃないってことだ」
レンが目を細めた。
「教会が絡んでくるとわかれば、さすがに筋肉バカだけを派遣するような真似はしないな。じゃなきゃ、いくら強くても一国の王になんてふさわしくない」
「……だけど、もう多分知能をテストする試合じゃないよ」
脳みその出来だけをテストするつもりなら、わざわざ教会とやらが闘技場に地図を預けるわけがない。
闘技場は、戦うから闘技場なんだ。ふさわしくないのは、リングの上でやるテストだろう。
あれほどシュールな光景を受け入れていた観客の度量の深さに、私は心から感服する。
「……そうだな。最終戦は典型的なバトルロイヤルだ」
「だから、レンはまたここに来たんだね」
パンフレットを手に持ちながら、レンは頷く。
「武器の使用が許可されている以上、薄くても防具があったほうがいいからな。……それに鎧があったほうが、正体がばれにくいだろ?」
「確かに……」
正体を隠しながら戦うのは、このフーデッドケープでは足りない。
特にレンは、風にあおられてフードが脱げれば一発で正体が露見してしまう。
王太子であり、勇者であるレンの顔は、類まれなる美しさだ。一度見たら絶対に忘れないほどの。
「バトルロイヤルでは、殺人は許可されてない。それについては良かった」
「そりゃあ……教会が殺生を許しちゃダメでしょ」
「そりゃそうだな。ただ……」
レンが険しい顔でパンフレットを睨んだ。
「チームメイト、つまりパートナーとは協力し合っていいものの、最後まで立っていられた者が勝者となるって書いてある。
勝者のいるチームが優勝ってわけだな。
つまり、最低でも相手は倒さなくちゃいけないんだ。多少の怪我は覚悟しておくべきだ」
*
____リング上に集まった人間は、簡易か重装備かは別として、全員が防具を纏っていた。
騎士2人は変わらない白金色の鎧。他は皮の鎧や迷彩柄の軍服など、さまざまで目に新しい。
あれ、あのインテリ眼鏡さんは、白い法衣っぽい薄い格好だ。肩に止まっているのは、紅い妖精。武器はない。うわあ、あの人、魔物を使役して戦うつもりなんだ……。いろんな人がいるなあ。
辺りを見回しながら、私達はそれぞれの位置につく。
そして私はレンの隣で銀の両手剣を構え、開戦のゴングを待った。
『今回のバトルロイヤルでは、殺人はなし! よって失格の定義は、両膝をついて10秒経ってしまうか、人工の海に落ちてしまうこととします!! 時間はもちろん、私どもが計りますので不正はできませんよ!!』




