51、敗退決定?
しかし。
……とは考えてみたものの、白紙で出したらレンに何を言われるかわからない。しかも、一応私には、進学校の生徒だったというプライドもある。
……まあ、小指の爪の先分くらいしか残ってないけど。これでも武道の心得があるからね。何もしないで負けを認めるのは癪だ。
「とにかく、なんか書かなくちゃ」
マークシートでは、これは基本中の基本だ。
残念ながらこれは記述式だけど、なんとなく何かを書いておけば、部分点をもらえるかもしれない!!
斜め前の席に座っているレンは、淀みなくペンを動かしているようだ。ここからでは顔は見れないけど、余裕そうな表情をしてることが、容易に想像できる。
見てろぅ、私だって、黙ってばかりじゃいないんだから!
……だが何かを書かなくてはと言うが、何を書くのかは、正直わかっていない。
かといって、歴史を本当に書こうにも、私の知識は戦争に関することだけ。
人間の国々が、聖ミスリル統一王国になるまでの出来事など、わかるはずがない。
ならば、とりあえず本当に関係ないことを書こう。
……よし!
『ごはんの美味しい炊き方』
知っていそうで意外と知らない、ごはんの美味しい炊き方! それを書くことにしよう。
日本人の命にして主食。ごはんについて書くんだ。
やっぱり部分点はもらえないだろうけど、何か奇跡が起きるかもしれない。もうやけくそである。
『米は必ず、研ぐ前にさっと洗います。米の表面についていた油のにおいを、吸収する前に消しましょう。米をすすいだ水は、早めに捨てましょう。スピードが肝心です』
よしよし、この調子。
あ、なんか楽しくなってきた。
私はペンを動かして、歴史の記述問題の欄に、お米のおいしい炊き方を書き連ねる。
ここには誰も、おい、とツッコむ人間は誰もいない。
私は自由だ!
『米は丁寧に手指を立て、円を描くように研ぎましょう。研ぎ終わったお米は、すすぎましょう。
そしてそれを終えたら、分量をきちんとはかった水で、炊飯器のボタンをぽちっと押します。それで、おいしいご飯が炊けます』
これで、よしっと。
ふふん、見たかレン。私にだって、空欄を埋めることくらいはできるんだからね。
……逆に言えば、空欄を埋めるしかできないんだけどね! 零点街道まっしぐらだけどね!!
自嘲気味にペンを机に置くと、そこで試験終了の合図であるゴングが鳴った。
……これで私たちの敗退は決定したのである。




