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3、兵士の吐露

「俺たちが……っ、」

「え?」


カーキ色の軍服から零れ落ちた紙切れが、ひらりと草原に着地する。

外人さんが体を起こしたことでわかった。この人、後頭部を怪我してたんだ。

額を切ったとかじゃなかったんだ……!


「あ……あなた、大丈夫!? さっきのは冗談だから、早く救急車で」

「俺たち人間がお前らに一体……、何をしたッ、魔族め!!」

「わっ!?」


凄い力で突き飛ばされて、尻餅をつく。何故か、触れられた肩でじりっ、という音がした。

金髪の外人さんは、爛々と光る目で私を見つめている。

その目にあるのは……濁りのない憎悪。


「ま……魔族? 家族じゃなくて、魔族って言ったの……?」


足下に視線を落とすと、彼が落としたのが写真だと気づく彼と同じような金髪の女性と、小さな男の子。

その写真は、血と泥で汚れていた。

……それを見た瞬間、一気に肌が粟立った。

今まで夢だと思ってたものが、いきなり現実になってくるような、そんな感覚。


ここは……もしかして、夢ではない?

どこか、地球ではない……世界、なの?


「絶対に……許さん……! 勇者さまが……王子殿下が、必ず魔族を滅ぼす!」

「私は……魔族なんかじゃないよ!人間だよっ」

「魔族じゃ……ない、だと……!? バカを言うな! その闇色の瞳と髪が、凄まじい魔力を保持する証…魔族の覇王の証だろう!

……ううっ」

「!! 大丈夫!?」


苦しそうに低く呻き、彼は再び草の上に倒れてしまった。

闇色の……? 黒髪と、黒い目が何かの判断基準になってるってこと?

……いや、今はそんなことを考えている場合ではない。関わってしまった以上、見過ごせない。この人を、どうにかして助けなくては!

そう思い、慌てて彼に駆け寄って手を伸ばすと。


「っ!!」


バチィ!!、と。

見えない何かに、阻まれるように火花が散った。

火花を出したものの正体は、彼の首にかかっていた、白い五芒星が描かれたペンダントだった。

急いで手を引っ込めた今も、白く強い光を放ったまま。

呆気に取られた私を見て、兵士はまた顔を歪める。


「魔除けとの衝突……やはり、お前は……人間などでは、ない」

「魔除け……」


そんな、バカな。

私は自分の指先を見つめた。じりじりと痛む指先は熱を持ち、火傷を負ったように腫れている。

私はぐっと手を握り締めると、ビリッと制服の袖を破った。そして火花が散るのも構わず、目の前の彼の怪我に手を伸ばす。

血が出ている箇所をちぎった布で縛り、出血している後頭部をタオルで押さえた。

でも……い、痛い……!本当に痛い!

熱した金属に、ずっと触れているみたいだ。


「き、貴様は……何を、」

「見てわからないの!? 手当だよ!! あなたには家族がいるんでしょ!? どうしてこんなところで倒れているのかはわからないけど、私のこんな火傷より、あなたの傷の方がひどい! もう何も喋らないで……ッ、頭の傷が開く!」


唖然とした顔で、彼は私の顔を見た。

……痛いのも、面倒なことも、私は嫌いだ。

でも、目の前で人が倒れているのに、何もしないなんてできない。

人が人を助けるのに、理由なんていらない!

……バッグの奥の方に入っていたスプレーを見つける。体育の後の臭い消し用だけど、コールドスプレーの代わりになるかもしれない。

私はタオルにスプレーをかけると、また彼の頭に当てる。

その時だ。

ごう!! と背後で凄まじい音がしたかと思えば、背中に激しい熱を感じた。

振り向くと、そこにはさっきの……紅い炎が。

草も焼き尽くして、もうここまで……!?

やっぱり、ただの火ではないのだろうか?


「逃げ……ろ……」

「え、」

「お前は……他の、魔族とは……違うようだ……。俺は、もう助からないだろう……。その、膨大な魔力の使い方を……学び、世界を変えるため……、

今は、この火から、逃げろ」

「な……何、言ってるの!?見捨てて逃げるなんてできない!!」


炎のせいで、熱風となった風が、落ちていた写真を巻き上げる。

その写真が火の粉に焼かれたところを見て、私の心臓が、どくん!! と大きな音を立てた。


……この世界が、なんなのかは知らない。

でも……でも!

私になにかの力があるなら、目の前にいるこの人を守りたい!


……ドンッッ!!!


轟音が、轟いた。


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