46、はめられた
港町をしばらく歩くと、大通りへ出た。一気に視界が開け、店や劇場などが増える。
私は、賑わってるなあ、と辺りを見回しつつ歩いていく。
さっきからやたらおいしそうな匂いがしてくるから、あまったお金で何か買いたくなるなぁ。
「……レン、なんでそんなフード押さえてるの?」
「さっきも言っただろ。勇者が、しかも第一王子がこんなところにいるとバレたら、大変なことになるんだって」
「そうだけど、うつむいてればバレないんじゃ……」
フード押さえなくても、顔が見られなければ目の色も髪の色もバレることはないのに。
「念には念を、だ。そう言うなら愛美、その色つき眼鏡貸して。目の色は伏せてればバレない」
「えー! 魔王がここにいるってばれた方が大惨事だよ!?」
「ウィッグがあるだろ。バレないバレない。それにもう眉毛の色でだいぶアウトだし」
「眉毛までまじまじと見る人なんていないでしょ!」
もー、とぼやきながら私は眼鏡をレンに渡した。
「それにしても、あー、いい匂いがするぅ……」
やっと顔を上げて歩き始めたレンを横目にしながら、私は辺りの店を見渡した。
お肉の匂いや、甘いスイーツの匂い。
あー……、やっぱり食べ歩きがしたい。お金に余裕があったら本当に買ってるのになぁ。
私のお金じゃないけどね!
「あれ」
呆れた顔して黙っていたレンが、不意に声を上げた。
なんだろう、と思ってレンの視線の先を目で追うと、そこにあったのは闘技場。
闘技場、コロッセオはイタリアだったっけ、と思いながらそれを見つめていると、レンが呟く。
「なんで聖王騎士団がここにいるんだ……? 父の警護じゃなかったのか?」
「え?」
聖王騎士団? ……何それ。
そう聞くと、レンは闘技場の方を指さした。
それを再び目で追うと、確かに鎧を纏った屈強な男達が何人もいる。……うんうん、中世の騎士って感じだね!
ただイメージと違うのが、鎧が白金色だというところ。そして、王家の象徴である星が鎧に描かれているところ。
「あれが聖王騎士団?」
「そう。父の……国王の警護だったはずなのに、なんでここにいるんだ? しかも隊長格まで来てる」
もしかしてあの人か。白い星の騎士達の中で、青い星が腕に描かれている騎士。確かに鎧のデザインも微妙に違う。
「闘技場で何かあるのかな」
「さぁな。俺もここ何ヶ月かスレイブヤードにいたから、よくわからない。……とりあえず探ってみるか」
「そうだね」
私は頷く。
頷いて、ただレンが騎士達に近づくのを待った。
「…………」
「…………」
「……いやお前が行くんだぞ?」
____しばらくの沈黙のあと、レンが声を上げた。
何故。
私は次期魔王で、今は人間の敵で、バレたら首が飛んじゃうんだよ?
帰ってきて落胆されるレンとは、危機感の度合いが全然違うんだよ?
……と、目で訴えても冷血王子(今命名)はいけしゃあしゃあと言い募る。
「考えてもみろ、俺と騎士団の隊長格は顔見知り。うつむいててもバレる可能性が高い。その点、お前は魔族だけどまだ魔王じゃないし、見た目若い女子だろ。ローリスクハイリターンだ」
「黒い髪がバレたら死ぬんだよ!? ハイリスクだよ! 訂正して!」
「わかった訂正する。ハイリスクハイリターンだな」
「しょうがないな。行ってあげる」
……ん?
自分で返事をしてから気がついた。
なんか腑に落ちないぞ? 今何があった?
天使のような笑みで、レンが言う。
「大丈夫、愛美みたいな弱そうな女子、へっぽこがついたとしてもとても魔王には見えないから」
その言葉で理解した。
完全に嵌められた! 私のバカあぁぁ!!




