45、王都マーキュリー
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「やっぱり、王都となると……違うもんだね」
船を降りて、真っ先に目に飛び込んできたのは、色とりどりの建物。
家というより、アパートメントだろうか。レンガ造りのものや、石造りのものがある。壁の色は赤やオレンジなど、多彩。
街の中心に向かって坂になっているらしい統一王都マーキュリーは、向こうの方に綺麗な宮殿が見える。
うわあ、中世フランスって感じ。
まるでヨーロッパに観光に来たみたいだ。
……だが当然、私にはそううっとりしている余裕はない。
「でもレン、これからどうするの? レンはお城に戻るの?」
____そう。
今まで共に旅をしていたレンにとっては、故郷に帰ってきたのだ。
家であるお城に戻るのが筋だろう。
そして勇者帰還を国民に知らせる必要があるはずだ。
……でも、レンがいなくて、私これからどうすればいいんだろう。
「……いや。聖剣を見つけるまでは、王宮へ戻るつもりはない」
「え?」
……しかし、帰ってきたのは予想外の答えだった。
「ど、どうして? スレイブヤードに捕まっていた勇者が返ってきたなんて、国民にとってはこれ以上ない朗報だと思うけど!」
「いや。和解交渉を失敗して、捕まった第一王子が脱獄して結果的に何もせずに王都に帰ってきたなんて、戦争中でただでさえ不安定な国民の心に、不安要素を増やすだけだ」
何もできずに戻ってきたならば、それは、勇者の敗北と同義なのだと。
きっとほとんどの国民は、勇者は捕まってもすぐに脱走し、あわよくば影夜国を倒してしまうことをすら期待しているのだ。
レンはそう言った。
「だから俺は、城には戻らない。帰ってくるのは、最低でも聖剣の秘密を握った時だ」
「……レンは、自分に厳しいんだね」
「別に、普通だと思うけど」
「そんなことないよ。だって……」
あまりに背負うものが大きすぎて、現に私はめまいがしそうだ。
……まだ16歳なのに、レンは国民の期待をすべてその背中に負っている。
「それに、民衆って、勝手だね」
「俺たちも、日本にいたときは、政治に対して好き勝手言ってただろ? 人の上に立つ立場になって初めて、わかることもある」
「私も、ほんとにできるかな……」
……いずれ魔王になるなら、きっとそれは私も背負うべき重責なのだろう。
責任を持って、国を治められる?
……不安だ。私じゃとても、務まらない。
「立ち話もなんだし、少し歩こう。中心街にある大図書館に行けば、何かわかることもあるかもしれない」
「そうだね」
そうだ、今からびくびくしたって何もならない。
女子高生で、平々凡々な私にできることなんて、最初から限られている。
それなら、私は私にできる範囲のことを、やれるだけやるだけだ。
「王都のはずれの港町は、夜景が綺麗なんだ」
「へえ……」
「日が沈んで、空が暗くなり始めた時から、建物から明かりが漏れ出してさ。この世界にカメラがないことが悔しいんだよな」
私は海岸線に沿って並ぶ色とりどりの建物を見て笑った。確かに、明かりがついていったら、暗くなってからはさぞ綺麗だろう。
船から見ればもっと綺麗だ。
「レンが作ればいいじゃない」
「バカ言うな。そんな技術力あるかっつの。俺は学校の技術も苦手だったんだぞ」
「レン、不器用なんだ」
「うるさい」




