44、船旅
魔族同士で契約を交わして、主従関係になることはない。ランスさん曰く、主従関係になるとするならば、儀式的ではなく雇用やしきたりらしかった。地球とほぼ同じで。
だけど、人間と魔族は主従契約を結べるんだ。
へぇー、知らなかった。
「それって、魔族にはどんなメリットがあるの?」
「聖力に触れても全く問題なく力を振るえる。ただ、その力は主人によって制限されるな」
「へぇー」
まさに使い魔、って感じだなぁ。
でも、戦争中の今じゃ、そんな人はいないだろうな。
「やばいな、そろそろ出航だ」
レンが港の方で、蒸気を出している白い船を見ながら言った。
蒸気船なんだ、この世界の船。てっきり帆船かと思ってた。
「走るぞ!」
「うんっ」
昨日はしっかり寝たし、ご飯も食べたし、お風呂にも入れたし、体力は万全だ。全力疾走しても大丈夫。
だから2人で白い石畳の坂を駆ける。
……港に走り着くと、まだ船と陸にかけられた橋のようなものが見えた。
どうやらギリギリだけど間に合ったらしい。
急いで船の目の前にいた船員らしき人からチケットを買い、あわてて船に乗り込んだ。
「あー、間に合ったー……」
「ギリギリセーフ……」
現に、私たちが乗り込んだあとすぐに、橋が船内に仕舞われた。
豪華客船というわけではないが、フェリーではない。小さめだが、ちゃんと寝室がついている船だ。
ここで2日、王都に着くまで過ごすんだ。
「レン、フロントに鍵貰いにいこう」
「そうだな」
できるなら、今度こそシングルがいい。
*
____2日間、船で過ごした結果から言えば、私たちの部屋はそれぞれシングルだった。
でないとダメだった。ツインルームは高すぎた。もっと安くしようとすればダブルになってしまう。それはいかん。
だけど、この船で2日過ごした感想としては、寝心地は最悪だった。
前述の通り、この船は決して豪華客船というわけではない。事実上最安値であるシングルルーム2つは、やたら狭く、船体が小さい分やたら揺れた。
つまるところ私たちは、2日間ろくに船酔いで寝てないのである。
『聖王都マーキュリー、聖王都マーキュリー』
船内放送がかかり、朝食中だった私たちは、お互いげっそりした顔を見合わせる。
どうやら到着したようだ。
やっと……やっと、あの船酔い地獄から逃れられる……ッ。
睡眠時間が戻ってくる……ッ!
歓喜に叫びだしたい気分だが、そういうわけにもいかない。何故ならここは公共の場であり、そもそも私にそんな体力も気力もない。
「降りる準備、するか」
「そうだね……」
そう。
私たちは、本目的の前から疲れ果てていた。
荷物をまとめ、降船手続きを終えると、私は部屋の鍵を返しに、フロントへ向かった。
フロントの受付のお姉さんは、金髪碧眼。人間である。やはり、人間の国の王都行きの船だから、クルーも人間なのだろう。
そんなことを思いながらお姉さんに鍵を手渡すと、彼女がおずおずとした様子で声をかけてきた。
「あの……失礼ですがお客様は、魔族と人間のハーフでいらっしゃいますか?」
「へ?」
「あの、色つき眼鏡を通してでも、瞳の色が蒼より少し暗いように思えましたので……」
やばっ。
私は思わず眼鏡のツルを押さえる。
「まあ、そ、そんなところです」
「そうですか。……老婆心ですが、お気をつけなさいませ。王都では戦争の影響で、ハーフの方への風当たりが強くなっています」
そっか……。
まあ、そうだよね。敵である魔族が王都にいれば、嫌だと思う人はいるよね。気をつけなきゃ。
「わざわざ、ありがとうございます」




