41、東大島の宿事情
白金色の髪は、人間の王家の印。まあそりゃあ目立つわ、当たり前だ。
……と、いうことでレンと私は服屋にフーデッドケープを買いに行くことになった。
「ああ……これで、やっと心が休まる」
……服屋を出て、深紅のフーデッドケープを纏ったレンが、心から安堵したため息をつく。
うんお疲れ、レン。
レンのイケメンオーラに惚れて、どんどん女の人に囲まれていったのを、見捨ててごめん。
反省はしてる。後悔はしてないけども。
「んじゃ、宿探し、しようか」
「そうだね!」
そう答えて、少しだけ胸が早鐘を打つ。
なんだか、この会話って……カレカノっぽい?
ふつう、男女で宿探しとか、しないよね。恋人でもない限り。
私たちは、同志で仲間で友達だけど(少なくとも私はそのつもりだ)、なんかちょっと緊張するな。
「大丈夫、確かに今日は空き部屋があるよ。予約無しで平気だ」
「そりゃ良かった」
そして、夕食と朝食付きの宿を見つけた私達は、そこに宿泊することに決定。宿のご主人は人間で、素朴な木造の宿だ。
食事のメニューも美味しそうだし、単純な私は緊張などすぐに忘れて、わくわくしてきて、
「可愛いお嬢ちゃんと、凄まじく男前な坊ちゃんだねぇ。若い夫婦のようだが、部屋はどんなにするんだい?」
「「夫婦じゃないです」」
ご主人、私達はそんな色気のある関係じゃないんです。敵対する国の、いずれ国主になる者同士なんです。
魔王と勇者なんです。ゲームだったらラスボスと主人公なんです!!
「夫婦じゃないので、シングル2つ」
「ダブルは空いてるが、シングルは2つ空いてない」
「……ツインは?」
苦し紛れに放ったセリフに、ご主人は答える。
「ツインはある」
私達は激しく安堵した。
……だがまあ、1人用ベッドが、ちゃんと2つあるとは言え。
そのベッドがちゃんと距離を保っていて、健全ではあるのだと思えるとはいえ。
やっぱり、男子と相部屋だという事実は変わらないわけで!
そして、隣のベッドで寝ているのが超絶イケメンだというわけで!!
やはり私と言えども死ぬほどの緊張は戻ってくるものである。
……その点、レンの方は問題ないだろう。
顔面偏差値中の上、ファッションにも特筆するほど興味もなく、もちろん学校へもノーメイク、全てにおいて平々凡々を地で行く私に、あの超絶イケメンが何かの思慕を抱く確率などほぼない。
「愛美、食堂行こう」
「あっ、うん! ちょっと待って、まだ荷物の整理が終わってないの」
「わかった。先行ってるぞ」
さらっと言って、レンはさらっと部屋を出ていく。くそぅ、超絶イケメンめ。
私も整った顔が欲しい。そうすればきっと緊張しなくて済む。
*
少しして食堂へ行くと、レンは紅茶を頼んだらしく、それを2人がけのテーブルで飲んでいた。
なんだ、てっきり先に食べてるかと思ったのに。
「ごめん、レン。お待たせ。先に食べててよかったのに」
「別に、そうお腹空いてないし」
レンの目の前の椅子に腰掛け、ウェイターが持ってきたメニューを見る。
もちろん紙製の手書きで、やはり素朴だ。
料理の名前と、その絵が載ってあるところを見ると、どうやらこの世界には写真がないらしい。
まぁ、魔力で念写くらいはできるのかもしれないが。
「この世界の食材って、ほとんど地球のものと同じなんだね」
「そうだな。俺もここに生まれてきて、安心したのはそれだよ」
文化もそう異なる部分も見受けられないし、食材も料理法もそう変わったものがない。
魔族の食べるものもごくごく普通で、ゲテモノなんかじゃなかった。
「俺、思ったことあるんだけど」
「ん?」
「聖王陛下か、初代魔王のどちらか、それかどっちも……実は地球人だったんじゃないかって」