40、街に到着
そ、そんなものなのかな……。
それなら、いいけど。でもやっぱり少し心配だ。
「不死鳥、あとどのくらいで中立区域の街に着くの? レンの手当をしたくて」
『そろそろです。飛ばした方が良いのならば飛ばしますが』
「レンごめんなさい。もう少し待って下さい」
また気絶するのは御免だ。
「それはいいけどお前、金はあるのか? 宿に泊まるにも金が必要だろ」
「たっ……確かにそうだね!すっかり忘れてた……どうしよ……」
牢屋に入って、やっとの思いで逃げ出してきたのに、野宿は勘弁してもらいたいものだ。精神的にも肉体的にもキツイ。
「……しょうがないな。俺の服のボタンを1つ2つ売るか」
「ボタンがお金になるの?」
「まぁな。この服のボタン、水晶で出来てるんだよ」
水晶!
確かに、金や宝石ほどの値段はないけど、クリスタルならお金になるかもしれない。
「レンありがとう! よろしくお願いします!!」
*
____そして、気が付けば。
日はすっかり沈み、空は暗くなり、星々が瞬き始めた。
車がないこの世界はまだ空気が綺麗で、都市の明かりも少ないからか、夜空が美しい。
アシュタロスでも、夜には綺麗な星が見えるんだな。……そう思うと、意味もなくホッとする。
『陛下。中立区域です』
不死鳥の声に、私はおそるおそるだが顔の位置を動かし、向こうの方を見てみる。
目に入ったのは、活気のある市場と、建物。
人の様子はまだ上空からじゃよく見えないが、その数で、賑わっている町だということはわかる。
『ここでは私は目立ちます。手前の森に降りるので、用意をしていなさい、陛下、そして勇者』
「はーい」
「了解」
素直に返事をして、私はフーデッドケープを着直し、かつらと眼鏡を整えた。
森の中に私たちを降ろし、彼方へ飛んで行った不死鳥にお礼を言うと、私たちは中立区域の街へ進み始めた。
森はそう規模の大きくないものらしく、ここまでも人々の声が届く。
「ああー……やっと宿で休めるぅ……ほんとに疲れたよね、レン」
「俺なんか1カ月以上牢屋暮らしだぞ。やっとベッドで休めるー……」
緩みきったレンの顔を見て、思わず吹き出す。
「あは、レン、顔間抜け」
「うるさい」
少し照れたように言い返してくるレンに、私の顔もほころぶ。
……そりゃ、疲れるよね。ずっと暗い牢に一人でにいただなんて、考えるだけでもぞっとする。
私だったら泣いてばかりだ。きっと。
「愛美。森の出口だ」
レンが、広い獣道が途切れ、光が漏れているところを指さして言った。
「うわぁ……!」
森から出たところは、異国情緒あふれる市場。
シャドウィングの街並みを中世ヨーロッパ風と喩えるならば、この市場は少しアジアっぽい。
「とりあえず、ボタンは2つで1万Rで売れた」
「1万リル? それ、日本円にしたら何円くらい?」
「1Rが3円くらいだからな……3万くらいだよ。宿代には十分だな」
3万円!
さぞ上等な水晶だったんだろうなあ。
……そりゃそうか、王子様の服についてるクリスタルだもんね。
私の持ってるローズクォーツのブレスレットとか、1000円くらいしかしないし。
「あ、そうそう。宿で夕飯食べる前に、買い物していいか?」
「いいけど、何買うの?」
「お前と同じ、フーデッドケープ。この髪じゃ目立ってしょうがない」
そう言うと、レンは自分のプラチナブロンドの前髪を、苦い顔でつまんで見せた。




