38、脱出
得体の知れない心の動きに私が眉を寄せていると、壁の向こう側から看守たちの声が。
『ここらで声が聞こえたぞ!』とかなんとか言っているのが聞こえる。
……うわぉ。これはやばいな。
「法術典項の三、“光盾”」
再びレンの聖力で、私たちの体を光が包んだ。
ここから出るときのための、バリアの代わりみたいなものか。
でも大丈夫なんだろうか。さっきレン、魔族の土地で聖力で使うのはしんどいって言ってなかったっけ。
……それとも、そんなこと言ってる場合じゃない?
「愛美、準備はいいか。どんでん返しから出たら、すぐに走れ。通路の入り口を塞がれてても、とにかく全力で走れ。蹴散らしていけ」
「わ、わかった」
「通路の入り口に槍とかを突き出されてたら……まあ、諦めろ」
「いや、そこは止まるからね!? 猪じゃないんだから、」
「行くぞ!」
「おい!!」
話聞けこのバカ王子ッ!
と心で悪態をつきながら、どんでん返しから飛び出す。
幸い、狭い通路の入り口は塞がれておらず、私達は暗いが広い通路に出ることが出来た。そして、体が“光盾”のおかげで光っているので、道が見えやすい。
おまけにさっき休んだ分、体力が戻っている。
レンも力を使った直後ではあるが、切羽詰まった状況じゃないからか、乱れた息を整えるのも早かったし。
……しかし、発光している分だけ、敵には見つかりやすいのだ。
「いたぞ!待てッ」
「ああ、もう見つかった!」
私が嘆くと、
「振り向くな愛美、階段があった!」
「マジで!!」
と言われたので再び全力疾走。
走る途中で落ちた訓練用の木剣を拾ったので装備する。これでもないよかマシだろう。
「やばいぞ愛美、挟まれた!」
「うそっ!?」
あわてて走りながら前を見ると、そこには竜人の看守がずらりと。
皆武器を手にしており、殺気が充満している。もちろん後ろは追われているので、背後にも看守。
まさにこれぞ、前門の竜人(虎)、後門の竜人(狼)。
……かんっぜんに絶体絶命じゃないか畜生め。
舌打ちをして、私は装備したばかりの木剣を持つ。
間合いは残り、およそ40m。
「レンごめん、光を出せる!? なるべく大きいの!」
「ったく、代わりにちゃんと何とかしろよ!
____破邪の光を集めし聖なる燈火よ、魔を祓え。法術典項の一、“聖帝光”!」
____カッ!!
白い閃光がレンの手から一気に放たれる。
強烈な光を目に浴びた目の前の看守たちが目を押さえて悶えた。
今が好機。
「キェアアアアァァッッ!!」
私は一気に跳躍すると、裂帛の気合いを発しながら看守たちに肉薄する。
……迅速、且つ、正確に。
「小手ェッ!!」
数人の看守たちが手にした武器を叩き落とし、
「面ンンッッ!!!」
振りかぶった木剣で思いっきり面を食らわせていった。
……力なく崩れ落ちる看守たちに心の中で謝りつつ、私は息を乱したレンの手を掴み階段を上っていく。
光が見えた! 地上だっ!!
「待てえええ!!」
後ろの看守たちも迫ってくる。ここで足は止められない。
それなら!
「レンっ、そこにいて!」
階段を上りきり、私は上がってくる看守たちを横目にしながら叫ぶ。
「不死鳥!!」
____刹那。
辺りは赤い光で包まれ、呆然とする竜人の看守とレンの前に現れたのは、古代の幻獣、不死鳥。
赤い羽根に黄金の瞳が私を捉えると、呆れた色に変わった。
『……貴女という人は。あれほど魔族の土地には呼ぶなと言ったでしょう』
「ごめんなさい! 早くのせて! 逃げたいから!」
『……人の子まで連れて。この聖力、よりによって王族ですか。全く、仕方のない人ですね……』
不死鳥の羽ばたきで、地上が赤い炎に包まれる。
戸惑う看守たちを炎の向こう側で見ながら、私はあわてて不死鳥の背に上った。
唖然とするレンも引き上げる。
「飛んで! 不死鳥!!」




